平成13年に発生した米国同時多発テロ以降、各国が協調してテロ対策を進めているものの、平成28年7月には、バングラデシュ・ダッカにおいて邦人が犠牲となる事案が引き続き発生するなど、世界各地でテロ事件が発生しています。また、国際テロ組織が日本を含む各国をテロの標的として名指しするなど、現下のテロ情勢は非常に厳しい状況にあります。このため、我が国においても、テロは現実の脅威と捉え、緊張感を持って未然防止や対処能力の向上に取り組む必要があります。
海上保安庁においては、臨海部の原子力発電所等の警戒対象施設の巡視船艇・航空機による警戒監視、関連情報の収集、関係機関との緊密な連携による水際対策等の従来からのテロ対策に加え、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、官民一体となったテロ対策を推進し、よりいっそうテロ対策に万全を期すこととしています。
平成28年の現況
海上保安庁では、原子力発電所や石油コンビナート等の警戒対象施設に対して、巡視船艇・航空機による監視警戒を行っているほか、多くの人が集まる旅客ターミナル、フェリー等のいわゆるソフトターゲットに重点を置いた警戒監視を実施しています。また、事業者等に対する自主警備の徹底、乗客等に対するテロ意識の向上や不審事象の早期通報の呼びかけ、合同テロ対策訓練の実施等、関係機関や地域との緊密な連携のもと、官民一体となってテロ対策に取り組んでいます。このほか、平成28年は、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際船舶・港湾保安法)」に基づき、外国からの入港船舶2,623隻に対して立入検査を行いましたが、テロとの関連が疑われる船舶は認められませんでした。
また、平成28年12月の「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」で決定した「海上保安体制強化に関する方針」の下、原発等テロ対処・重要事案対応体制の強化を段階的に進めることとなっています。
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原子力発電所の警戒にあたる巡視船等 |
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テロ対処訓練 |
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伊勢志摩サミット海上警備について
平成28年5月26日から27日、三重県志摩市の賢島において各国の首脳が集まり、伊勢志摩サミットが開催されました。会場の周辺は、海で囲まれており、海上警備の重要性が高いことから、海上保安庁は特に重要な役割を担うこととなり、会議期間中、本庁及び第四管区海上保安本部に対策本部を設置しました。
(1)今回のサミットの特徴
今回のサミットにおける警備を行う上で、大きく2点の特徴がありました。1点目は、会場の周辺が海に囲まれ、英虞湾・賢島といった複雑に入り組んだ入り江が数多く存在するリアス式海岸となっている点です。この海域では、海女漁等の海に馴染みの深い文化も数多く息づいており、真珠養殖等の漁業活動や地元住民の日常生活が営まれています。2点目は、世界的にもテロ情勢が緊迫するなかでの開催であったという点です。世界中から注目を集めるサミットは、過去にもテロの標的となったことがあり、現下の極めて厳しいテロ情勢に鑑み、開催地のみならず、全国的にテロ警戒を強化する必要がありました。
(2)海上保安庁の対応
今回のサミットはこのような特徴を有しており、警備実施上、過去類を見ない厳しい環境の中で行われましたが、海上保安庁としては、実践的な訓練を重ね、最大約100隻の巡視船艇等を投入するなど、最大規模の警備体制で対応にあたりました。
警察等関係機関との連携はもちろんのこと、地元三重県や志摩市、更には海事・漁業関係者の皆様には、海上保安庁による立入検査や生活動線の一時的変更へのご理解とご協力をいただいたほか、警備にあたる海上保安官の宿泊、輸送、食事等にいたるまで多岐にわたるご支援までいただき、大きな混乱もなく海上警備を完遂することができました。
(3)関係閣僚会合等への対応
伊勢志摩サミットの開催に併せて、全国各地で関係閣僚会議等が開催されました。各管区海上保安本部では、関係機関と連携し、地元住民との協力の下、各地の海上警備を無事に完遂することができました。
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賢島上空 |
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警察との訓練 |
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洋上でのCR(コミュニティリレーションズ)活動 |
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伊勢志摩サミットにおける警戒の様子 |
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官民が一体となってテロ対策を検討
〜卑劣なテロを許さない!〜
近年、人が自由に出入りし、警備が比較的手薄な施設等のいわゆる「ソフトターゲット」に対するテロ事案が発生しています。さらに、ソフトターゲットを対象としたテロは「いつでも、どこでも」発生する可能性があります。フェリー・クルーズ船やターミナル等、海上や臨海部においても、テロの発生を念頭において警戒警備を行う必要があります。一方、海上保安庁の勢力だけでこれら全てをカバーすることは困難であるため、これらの施設の運営者等の民間事業者と連携し、情報収集、水際対策から警戒警備に至るまでのテロ未然防止策を推進することが不可欠です。
平成28年に海上保安庁では、関係省庁と関係業界が一体となって海上・臨海部におけるテロ対策について検討を進めるため、「海上・臨海部テロ対策に関するスタディ・グループ」を設置し、関係省庁や関係団体が実施している取組みについて共有するとともに、効果的なテロ対策に係る検討を実施しました。今後もこのような取組みを通じ、テロの未然防止対策に万全を期していきます。
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海上・臨海部テロ対策に関するスタディ・グループの様子 |
今後の取組み
バングラデシュ・ダッカにおける邦人襲撃事案の発生等、ますます深刻化する国際テロ情勢をふまえ、平成28年7月11日、政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部において「バングラデシュにおけるテロ事案を受けた取組」が策定されるなど、国を挙げてテロ対策に取り組んでいます。
平成32年には、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるところ、海上保安庁においては、これらの決定等をふまえ、テロが現実の脅威であるとの認識の下、テロの未然防止やテロ発生時の対処にかかる体制を確実に整備していくとともに、関係機関や地域とより緊密に連携することで、官民一体となってテロ対策に取り組んでいきます。
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて
リオオリンピック・パラリンピック競技大会が閉会し、平成32年(2020年)には、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。平成27年11月には、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」が閣議決定されました。今回の大会では、選手村や競技場等の多くが臨海部に設置される予定であり、また、世界中から要人や観客等が集まることから、海上保安庁ではテロ対策をはじめとする海上における警備が極めて重要であると認識しています。加えて、東京湾における航行安全の確保や災害発生時の対応等、海上保安庁の果たす役割は非常に大きなものがあります。このため、海上保安庁では本庁及び第三管区海上保安本部に大会準備本部を設置するなど、準備を進めています。
今後も、伊勢志摩サミット等の経験を活かし、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向け、万全を期していきます。