平成26年の東南アジア海域における海賊発生件数は141件であり、そのうち、約7割の100件がインドネシア領海内及びその周辺において発生しています。同インドネシア海域の海賊発生件数の増加に伴い、東南アジア海域の海賊発生件数は近年増加傾向にあるものの、マラッカ・シンガポール海峡等のそのほかの東南アジア海域における海賊発生件数は、比較的低い水準を維持している状況です。
海賊事案の主な犯行形態は、錨泊中や停泊中の船舶に忍び込み、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等を盗む窃盗及び海上武装強盗事案が多く認められます。また、武装した海賊が小型タンカーに移乗し、乗員を脅迫等して、別に用意した小型タンカーに積荷の油製品を移し替え強奪するといった事案の発生件数は、近年1〜2件で推移していたものの、平成26年は12件と増加傾向が認められます。
海上保安庁では、東南アジア海域等における海賊対策として、同海域等の沿岸国海上保安機関に対して法執行能力向上支援を実施するとともに、連携・協力関係の構築・推進等に取り組んでおり、その一環として、平成12年以降、毎年、同海域等の沿岸国に巡視船や航空機を派遣しています。最近では、平成26年7月、初めてスリランカに巡視船を派遣し、比較的新しい組織であるスリランカ沿岸警備庁に対して乗船研修・海賊対策に係る講義等を実施しました。
また、平成27年1月にはミャンマー及びフィリピンに、同年3月にはマレーシアにそれぞれ海上保安庁の航空機を派遣し、同国の海上保安機関と海賊対策に関する意見交換を実施しました。特に、ミャンマーについては、創設後間もない同国海上警察隊をはじめとする海上保安機関との連携・協力関係の構築等を目的とし、初めて航空機を派遣しました。
そのほか、東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関職員を我が国に招へいし、法執行能力向上を目的とした研修を行っています。(東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、「海をつなぐ」CHAPTER IIで詳しく説明していますので、ご覧ください。)
派遣捜査隊 |
ソマリア周辺海域派遣捜査隊8名は、海上自衛隊の護衛艦に同乗し、海賊事案が発生した場合の司法警察活動に備えつつ、海上自衛官とともに警戒監視や情報収集活動等に従事しています。
日本から遠く離れた海域での約半年間という長期にわたる任務であり、気温35度以上の過酷な気候に加え、慣れない護衛艦生活の中、いつ海賊事案が発生するか分からない状況下において、緊張感を維持し続けることに常に気を配っています。さらには、平成26年5月にジブチ市内で発生した自爆テロの影響で、停泊中の上陸が制限されている状況です。
このように制約された環境下においても、事案が発生すれば迅速かつ適切に司法警察活動等を完遂しなければならず、それぞれの役割に応じた訓練・研修に取り組むことにより捜査能力等の維持・向上を図りつつ、士気の向上にも努めています。
また、任務は異なっていても同じ目的を持って活動する海上自衛官と、寝食を共にしながら、共同訓練を幾度となく実施し互いの知識を共有・補完することで構築したその信頼関係は、今後の業務における円滑な協力にも寄与するものであると確信しております。
今後とも、アデン湾を航行する船舶の安全・安心の確保のため、引き続き、海上自衛官と共に任務を遂行していきます。