海上保安レポート 2009
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はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 生命を救う > 1. 海難救助
生命を救う
1. 海難救助
目標
  海上保安庁では、平成22年までに海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を年間220人以下とすることを目標に掲げています。この目標を達成するため、安全意識の高揚を目指した啓発活動の実施や機動救難士の配置等による救助・救急体制の充実・強化等に取り組んでいます。
平成20年の現況
(1)死者・行方不明者の発生状況

平成20年の海難及び船舶からの海中転落による要救助者数は13,128人で、自力又は救助機関等により救助されたのは12,854人(うち救助機関等によるもの4,730人)でした。このうち1,534人を海上保安庁が救助しましたが、救助に至らず死者・行方不明者となった方の数は274人でした。この人数は、平成19年と比較して49人の増加となっています。


●海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移
海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移

(2)ライフジャケットの着用状況

平成20年のライフジャケット着用率は48%で、平成19年より4%減少しています。平成20年4月1日からは、一人乗り漁船に対するライフジャケットの着用義務範囲が拡大されました。これに伴い、漁業者を対象としてライフジャケット着用の推進や安全意識の高揚のため、海難防止講習会等を実施しました。

緊急通報用電話番号「118番」による海難等発生情報の通報(第一報)は1,044件であり、全体の通報件数の40%を占めています(平成19年度は1,075件、全体の39%)。また、このうち824件が携帯電話からの通報でした。2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合は、75%で平成19年と同じでした。

海上保安庁では、事故者の生存可能性を高めるため、海難防止強調運動等を通じて「ライフジャケットの常時着用」や「海難情報の速やかな通報」を重点に啓発活動を行いました。また、機動救難士の配置を拡充するなど救助・救急体制の充実・強化も継続的に実施しています。


●ライフジャケット着用率の推移
ライフジャケット着用率の推移

●118番第一報とそれ以外の通報による情報入手時間の違い
118番第一報とそれ以外の通報による情報入手時間の違い

吊り上げ救助
▲吊り上げ救助

今後の取組み

(1)海難情報の早期入手
特殊救難隊員戴帽式
▲特殊救難隊員戴帽式

海難発生情報等を速やかに入手できれば、遭難者の迅速な救助につながります。

海上保安庁では緊急通報用電話番号「118番」を運用しています。これは、船舶電話や携帯電話等から「118」に電話すると、直接海上保安庁につながり、事件・事故の通報や救助要請をすることが可能なシステムです。また、平成19年4月からは、目印になるものが少ない海上において、正確に通報者の位置を把握するために「緊急通報位置情報表示システム」を導入しています。このシステムは、携帯電話から当庁へ寄せられる音声通報と併せて位置情報を受信し、電子海図上に表示させるもので、海難等への対応時間の短縮を図ることが可能となります。

さらに、海上保安庁では、遭難した船舶が世界中どの海域からでも衛星通信等を利用して救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度GMDSS)」に基づき、無線通信による海難情報の受付を24時間体制で運用しています。

海上保安庁では、このようなシステムや制度を活用しながら、引き続き海難情報の早期入手に努め、初動対応の時間短縮に努めていきます。


(2)救助体制の充実・強化及び救助能力の向上
降下訓練
▲降下訓練

海難の発生情報を入手した場合は、巡視船艇・航空機等の救助勢力が現場に急行し、迅速に救助活動を行います。このため、海上保安庁の救助勢力は、24時間体制で即応待機しています。しかしながら、巡視艇が1隻しか配備されていない部署では、乗組員の休養日等に海難等が発生した場合、初動が遅れるなどの問題がありました。そこで、平成20年1月から34部署の巡視艇に複数クルー制の導入をはじめました。平成20年度以降も、順次複数クルー制の拡充を進めています。

また我が国周辺で発生した海難及び人身事故の約9割が、沿岸から20海里(約37キロメートル)以内の海域で発生しています。このことから、沿岸海難への対応を念頭に、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士を航空基地等に配置し、迅速に救助できる体制を構築していきます。さらに、困難な条件下においても救助するための高度な知識・技能を有する特殊救難隊員、潜水士や救急救命処置を行うことができる救急救命士の資格を有する海上保安官を養成し、救助能力の向上を図っています。救急救命士については、実施する救急救命業務の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制救急救命士の業務執行体制)の充実・強化を図っていきます。

他にも、捜索区域や救助方法の決定など、より迅速かつ的確な救助活動のため、漂流予測システムを活用していきます。


(3)他機関との協力体制の構築

広い海をカバーするために、日頃から警察・消防機関や民間救助組織との連携等に努め、迅速な救助活動を実施していきます。

沿岸部で発生する海難に対して、迅速かつ的確に救助活動を遂行するためには、民間救助勢力を育成し、沿岸部に空白のない救助拠点を整備することも重要です。このため、(社)日本水難救済会及び(財)日本海洋レジャー安全・振興協会の活動を積極的に支援していきます。

沿岸部以外についても、我が国周辺海域で発生した海難には、中国、韓国、ロシア、米国といった関係国の救助調整本部(RCC)と協力し、救助活動を合同で実施するなど連携を図っていきます。

また、海上保安庁では、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、日本の船位通報制度JASREP)を、米国の通報制度(AMVER)とも連携して運用しています(平成20年参加船舶2,743隻)。これは、我が国が捜索救助活動に責任を持つ北緯17度以北、東経165度以西の広大な海域において、通報船舶の動静を把握し、海難救助の効率化を図ることを目的とした任意の相互救助システムです。


(4)自己救命策確保の推進

海中に転落した遭難者が無事に生還するためには、「海に浮かんでいること」、「浮かんだ状態でも救助機関への連絡手段を持つこと」、「救助機関の連絡先を知ること」 が必要です。このため、海上保安庁では、「自己救命策3つの基本」(ライフジャケットの常時着用、防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保、緊急通報用電話番号「118番」の有効活用)を推進しています。特に、ライフジャケット着用については、「平成22年までにライフジャケット着用率を50%以上にする」ことを目標としています。漁船乗船者の着用率が約30%と低いこと、平成20年4月1日から一人乗り漁船に対するライフジャケットの着用義務範囲が拡大されたことから、特に漁業者を中心に、関係する地方自治体や漁業関係団体の取組みに積極的に協力・支援していきます。


救助訓練の様子
▲救助訓練の様子