海上保安庁の20メートル型巡視艇(CL型)、30メートル型巡視艇(PC型)は、いわゆる陸上のパトカーや救急車のように、沿岸部や港内で発生した海上犯罪・人身事故等の様々な事件・事故に直ちに対応することとしています。船の運航のために必要な最小限の要員として、CL型では船長をはじめとして5名、PC型では約10名の海上保安官が、救助・取締り等の業務を行う1グループで乗り組んでいるのが基本的な体制となっています。全ての巡視艇には、この1グループだけが勤務する1クルー制がとられており、交替勤務ができるほどの人員が確保されていませんでした。従って、これまでの巡視艇では、例えば乗組員の休養日や執務時間外において海難等が発生した場合には、各乗組員が外出先あるいは自宅から巡視艇に急いで戻り、緊急出港することで対応しており、必然的に海難等への初動が遅延するといった緊急出動態勢の不備が生じたりしていました。また、少人数による業務体制であるために、例えば、沖合で注意しなければならない外国船舶が停泊している場合などにおいて、継続的・長期間の監視・警戒を行うような業務に支障が生じていました。
このような問題を解消するため、「空き巡視艇ゼロ」というスローガンを掲げ、平成20年1月から巡視艇の乗組員の増員による複数クルー制での交替勤務を順次導入しています。
まずは、佐渡海上保安署、湘南海上保安署の他、奄美大島の古仁屋海上保安署など、CL型巡視艇1隻のみしか配属されていない34部署の巡視艇に導入しました。さらに、平成20年度にあっては、全国29部署の巡視艇に導入することとしています。
こうした複数クルー制が導入される部署においては、例えば、沖合で発生した小型ボート転覆海難において漂流する要救助者を短時間で発見救助できたり、機関故障の貨物船に短時間で到着のうえ同船をえい航することで座礁等の海難事故を未然に防止したり、密漁事件の住民からの通報に短時間で現場に到着し検挙するなどといった国民の身近な沿岸域における海上での安全・安心に対して大きく貢献できることとなります。
また、これまで巡視艇が休養日等の場合には、代わって近隣部署の巡視船等が派遣され、その地域の安全を守っていたわけですが、近年、巡視船等による遠方での監視・警戒等の業務が増加したことで、巡視艇の代わりに対応できない状況が増えています。この複数クルー制の導入は、巡視艇がそれぞれの地域の安全・安心を守る体制の確保につながります。
海上保安庁の定員は、諸外国の海上保安機関と比較した場合、例えば海上保安庁職員一人あたりの海岸線延長距離は米国沿岸警備隊の6倍以上、排他的経済水域面積では韓国海洋警察庁の9倍以上となっており、海上保安庁職員一人あたりの責任は非常に大きなものとなっています。
海上保安庁は予算・定員の適正化、効率化にも力をいれながら、今後とも海上の治安の維持、安全の確保のために必要な体制作りを進めます。