海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

2.大規模海難ゼロに向けて

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

1. 海洋調査
2. 海洋情報の提供

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 海を識る > 1. 海洋調査
海を識る
1. 海洋調査
目標 Target
 海上保安庁では、海上交通の安全確保、海洋環境の保全、海洋の開発・利用等の海洋の総合的な管理に資するため、水路測量や海象観測などを実施するとともに、調査データが不足している海域における海底地形、地殻構造等の海洋調査を優先的かつ重点的に実施し、海洋の基盤情報を整備していくことを目指しています。
平成19年の現況
 平成19年には、測量船により伊勢湾等の沿岸測量や苫小牧港等の港湾測量等を実施したほか、対馬北方においては航空機による航空レーザー測深を実施するなど、測量船や航空機等により全国各地の港湾や沿岸域での測量を実施し最新の海洋データを収集しました。
 また、国連海洋法条約によれば、沿岸国は海底の地形や地質が一定の条件を満たせば、200海里を超えて大陸棚を設定することが可能とされています。大陸棚においては、天然資源の開発等に関し主権的権利を行使することができるため、我が国の海洋権益保全のためにも大陸棚の限界画定は大変重要です。200海里を超えて大陸棚を設定するためには、国連海洋法条約に基づき設置された大陸棚の限界に関する委員会へ大陸棚の限界に関する情報を平成21年5月までに提出し、審査を受ける必要があります。このため、海上保安庁では、内閣官房の総合調整の下、関係省庁と連携し大陸棚の限界画定のための調査を実施しており、平成19年には南鳥島周辺海域や大東島周辺海域等といった陸岸よりはるか遠方の海域において精密海底地形調査及び地殻構造探査を実施しました。
Report file 8
海洋調査能力の活用!
 海洋調査に用いる最新鋭のマルチビーム音響測深機は、詳細な海底地形を明らかにすることができます。平成19年4月には、測量船による調査により、太平洋戦争中の昭和18年に、広島湾内で原因不明の爆沈をした戦艦「陸奥」の海底に沈んでいる姿を詳細に捉えることに成功しました。また、同年9月には、宮崎空港沖で小型航空機が消息を絶ち、機体の一部が周辺海域で発見された際にも、同調査により海底に沈む小型航空機を迅速に発見することができました。このように、海上保安庁では、最先端の海洋調査技術を駆使することにより、海難等に際して海洋調査を行い、船舶航行の安全確保に努めています。
マルチビーム測深により確認された戦艦「陸奥」
▲マルチビーム測深により確認された戦艦「陸奥」
マルチビーム測深により確認された海底に沈む小型航空機 墜落した小型航空機(同型機)
▲マルチビーム測深により
確認された海底に沈む小型航空機
▲墜落した小型航空機(同型機)

今後の取組み
(1) 海洋権益保全のための調査
 平成19年4月に成立した「海洋基本法」では、海洋の開発及び利用、海洋環境の保全等を適切に行うため、海洋に関する科学的知見を充実させ、海洋の総合的な管理を推進する旨が謳われています。
 しかしながら、我が国の領海排他的経済水域には、十分な調査がなされていないために基礎的なデータが不足している海域があります。海上保安庁では、これらの海域における海底地形、地殻構造、領海基線等の調査を重点的に推進し、その調査データを活用し的確に我が国の海洋権益の保全が図られるように取り組みます。
 また、大陸棚の限界画定のための調査については、測量船による海域調査を平成20年6月までに終了させるとともに、各機関の調査結果を一元的に管理し、委員会へ提出する情報の作成を関係省庁と連携して行っていきます。
■航空レーザー測深による対馬南風ノ波瀬付近の記録
航空レーザー測深による対馬南風ノ波瀬付近の記録
■マルチビーム測深による開聞岳の地滑り地形の記録
マルチビーム測深による開聞岳の地滑り地形の記録
■航空レーザー測深とマルチビーム測深
航空レーザー測深とマルチビーム測深
(2) 航海の安全のための調査
 海上保安庁では、測量船に搭載したマルチビーム音響測深機や航空機に搭載した航空レーザー測深機による広範囲な水深データを収集する体制を構築しています。このような最新技術を駆使して海底地形に関する正確な情報を整備し海図等に反映させ、航海の安全に寄与していきます。海難や災害発生時には、測量船等により海底の状況を調査し沈没船や港湾施設の損壊等による航路障害物がないか調査を実施するなど、海上交通の安全確保に貢献していきます。
 また、海難発生時の迅速な人命救助や油流出等による海洋汚染の防止に役立てるため、巡視船・測量船の海流観測による海象データを収集し、それらを基に漂流予測を実施しています。この漂流予測の更なる精度向上のため、相模湾や伊豆諸島においては、海洋短波レーダーを用いてリアルタイムに海象データの収集を行っていきます。
(3) 地球環境保全のための調査
 地球温暖化をはじめとする各種の環境問題には、海洋の状況が大きな影響を与えると考えられています。海上保安庁は、地球環境問題のメカニズム解明のために太平洋沿岸諸国が実施している西太平洋海域共同調査(WESTPAC)に20年以上にわたって参画しています。今後も本州南方海域の水温、塩分、海流等のモニタリング観測を継続して実施し、海洋調査を通して地球環境の保全に貢献していきます。また、日本周辺海域における環境保全の観点から、海洋汚染及び放射能汚染の状況を把握するための調査を引き続き実施していきます。調査結果については、海洋環境保全への関心を高める一助となるよう広くインターネットで公開し、環境保全に役立てていきます。
(詳しくは、青い海を護る - 1. 海洋環境保全対策をご覧ください。)