海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 災害に備える > CHAPTER II. 自然災害対策
5 災害に備える
CHAPTER II. 自然災害対策

近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震、激甚化する豪雨災害等、自然災害への対策は重要性を増しています。

海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するために災害応急活動を実施するほか、自然災害に備えた灯台等の航路標識の災害対策や防災情報の整備・提供、関係機関との連携強化等に努めています。

平成29年の現況
自然災害への対応

海上保安庁では、地震、津波、台風、豪雨、火山等による自然災害が発生した場合には、海陸を問わず、機動力を生かし被災者の救出、人員・救援物資の緊急搬送、被害状況の調査等の災害応急活動を実施しています。

九州北部地方では、台風3号及び梅雨前線の影響により、平成29年6月30日から、福岡県及び大分県内陸部を中心として豪雨が続き、同年7月5日夕刻には、九州地方では初めての特別警報(大雨)が発表されました。これを受け、海上保安庁では、本庁に「海上保安庁対策本部」を、第七管区海上保安本部に「第七管区海上保安本部対策本部」を設置し、巡視船艇・航空機を発動、被害状況の調査や孤立者の救助等の対応にあたりました。以後、8月2日に同対策本部を閉鎖するまで、巡視船艇延べ61隻、航空機延べ61機のほか、機動救難士及び特殊救難隊を派遣して捜索、被害調査及び孤立者救助等を実施し、計40名の孤立者を救助しました。

また、航行警報海の安全情報を発出し、付近航行船舶等へ情報提供を行うとともに、福岡県及び大分県に職員を派遣し連絡調整にあたりました。


孤立者救助の状況-1
孤立者救助の状況
孤立者救助の状況-2
東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組み

海上保安庁では、引き続き第二管区海上保安本部を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組みを実施しています。

平成29年においても、地元自治体の要望に応じ、潜水士による潜水捜索や警察、消防と合同捜索を実施しています。

また、被災地での海上交通の安全を確保するため、被災した灯台等の航路標識158基のうち、航路標識として廃止した2基を除き、仮復旧を含め156基を復旧させました。


潜水捜索前の献花
潜水捜索前の献花
水路測量の様子
水路測量の様子
復旧灯台1
復旧灯台2
復旧灯台
自然災害対処のための体制強化

海上保安庁では、東日本大震災への対応の経験もふまえ、近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震をはじめとした自然災害に備えるための体制整備を進めています。

自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯を未然に防止し、災害時でも海上輸送ルートの安全確保を図るため、航路標識の耐震補強、耐波浪補強及びLED灯器の耐波浪化による防災対策を推進するとともに、船舶がふくそうする東京湾において、津波等の非常災害発生時に船舶を迅速かつ円滑に安全な海域に避難させるため、海上交通センターと4つの港内交通管制室を統合のうえ、これらの業務を一元的に実施する体制を構築し、平成30年1月31日から運用を開始するなど災害に備えた取組みを推進しています。


航路標識の防災対策
航路標識の防災対策
防災情報の整備・提供

海上保安庁では、災害発生時の船舶の安全や避難計画の策定等の防災対策に活用していただくため、防災に関する情報の整備・提供も行っています。西之島をはじめとする南方諸島や南西諸島等の火山島や海底火山について、海底地形、地下構造等の調査、火山の活動状況の監視を実施し、付近を航行する船舶の安全に支障を及ぼすような状況がある場合には、航行船舶への注意喚起等を行っています。特に、火山活動により島の形状が変化した西之島においては、測量船や航空機により水路測量を実施し、平成29年6月30日には、その成果をまとめた海図「西之島」を発行しました。

※西之島海図発行については、西之島の海図が完成〜我が国の領海が約70km2拡大〜で詳しく説明していますのでご覧ください。


津波防災情報図(伊勢湾)
津波防災情報図(伊勢湾)

そのほかにも、船舶の津波避難計画の策定等に役立つように、大規模地震による津波被害が想定される港湾及び沿岸海域を対象に、予測される津波の到達時間や波高、流向・流速等を記載した「津波防災情報図」を整備・提供しているほか、津波浸水想定の設定に活用してもらうため、海底地形のデータを自治体に提供しています。

海底地殻変動の観測

海上保安庁では、将来の海溝型地震の発生が予想される南海トラフや東北地方太平洋沖地震後の挙動が注目される日本海溝において、陸側のプレート上に海底局を設置して、その動きを探る海底地殻変動観測を実施し、想定震源域におけるプレートの固着状況の把握に努めています。

平成29年度においては、東北地方太平洋沖地震後の地殻変動や、南海トラフにおけるプレートの固着状態を継続的に観測し、データの蓄積と提供を行いました。


海底地殻変動観測
海底地殻変動観測

南海トラフ巨大地震想定震源域の固着状態の分布
南海トラフ巨大地震想定震源域の固着状態の分布
関係機関との連携

災害応急対応にあたっては地域や関係機関との連携が重要であることから、海上保安庁では、関係機関との合同訓練に参画するなど、地域や関係機関との連携強化を図っています。平成29年度は、迅速な対応勢力の投入や非常時における円滑な通信体制の確保等を念頭に置いた防災訓練等、関係機関と連携した合同防災訓練を438回実施しました。また、主要な港では、関係機関による「船舶津波対策協議会」を設置し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら、港内の船舶津波対策を検討しています。

今後の取組み

海上保安庁では、東日本大震災被災地の復旧・復興に向けた取組みを継続するとともに、平成32年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることをふまえ、起こりうる自然災害に備えるため、巡視船艇・航空機等の必要な体制の整備や、関係機関との連携強化、防災に関する情報の整備・提供、航路標識の防災対策等を引き続き推進していきます。

リアス式海岸林野火災消火活動
海上保安官による消火作業
海上保安官による消火作業

平成29年5月8日岩手県釜石市尾崎半島で発生した林野火災は、折からの強風に煽られて延焼を続け、焼損面積約400ヘクタール、地域住民136世帯346名に避難指示が出るなど国内最大規模、県内では平成以降最大の大火災となりました。

発生当初から消防、警察等の地上部隊や、上空からヘリコプター14機による消火活動が実施されましたが、延焼する海岸線は断崖かつ且つ狭隘な海岸線が続くため、地上部隊での完全消火、熱源調査の実施が困難な状況でした。

釜石海上保安部(岩手県)に所属する巡視船「きたかみ」は、火災発生後直ちに消火資器材を整え即応待機体制をとっていたところ、5月11日及び12日には、災害対策本部からの要請を受け、「きたかみ」警備救難艇及び巡視艇「きじかぜ」を出動させ、狭隘な海岸線ギリギリまで接近し、断崖絶壁下の海上から消火作業を実施しました。

林野火災の状況
林野火災の状況

翌13日には、「きたかみ」に消防本部職員3名を同乗のうえ出港、沿岸にて消火作業中の警備救難艇に同職員を移乗させ、延焼する海岸線に接近して赤外線装置等による熱源調査活動への支援協力を実施しました。

こうした海陸空各機関一体となった消火活動、熱源調査等により、発生から2週間後の5月22日、林野火災の完全鎮火宣言がなされました。