ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響をおよぼします。
海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。
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5 災害に備える
CHAPTER I. 事故災害対策
ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響をおよぼします。 海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。 事故災害への対応
船舶火災
平成29年に発生した船舶火災隻数は67隻で、前年と比べ2隻増加しました。 船舶火災隻数を船種別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、平成29年においても、漁船の火災隻数は42隻と、全体の約63%を占めています。 このような船舶火災に対して海上保安庁では、消防機能を有する巡視船艇からの放水等による消火活動を実施しています。 油排出事故
平成29年に海上保安庁が確認した、油による海洋汚染発生件数は286件で、前年と比べ7件減少しました。 海上における油排出事故等では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行えるよう指導・助言を行っています。一方、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関と協力のうえ、海上防災のスペシャリストである機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。平成29年は、海上保安庁において、100件の油排出事故に対応しました。
事故災害対処のための体制強化
海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対応を行うための体制の整備を進めており、現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故等への対応等に関する研修・訓練を実施しています。 また、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づく関係省庁連絡会議において、油排出事故等に備え図上訓練を実施し、関係省庁間の対応体制を確認するなど、体制の強化を図っています。 海上に排出された油等の防除等を的確に行うためには、排出された油等がどのように流れるかを予想することが重要です。 海上保安庁では、油排出事故等に備えるため、測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。 さらに、自律型海洋観測装置(AOV)、イリジウム漂流ブイ及び海洋短波レーダーにより日本周辺の海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。 このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域保全情報としてとりまとめ、インターネット上で公開しています。 国内連携
事故災害による被害を防止するためには、事業者をはじめとする関係者に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船の乗組員や危険物荷役業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。 国際連携
油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取り組みに貢献しています。また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。 平成29年においても、9月下旬から約2か月間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の協力のもと、8か国(バングラディッシュ、ジブチ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、タイ、東ティモール、ベトナム)から現場指揮官クラスの職員17名を招へいし、国際海事機関(IMO)のモデルコース*に準拠した内容をさらに充実させた油防除対応者向けの研修を実施しました。 *IMOモデルコース
海上保安庁では、平成32年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることを踏まえ、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の未然防止や事故災害発生時の迅速かつ的確な対応に努めます。 日・比・尼 合同流出油防除総合訓練「MARPOLEX2017」に参加
フィリピンとインドネシアは、二国間協定の「スラウェシ海排出油対応ネットワーク計画」に基づき、1988年から2年毎に合同で排出油防除訓練を実施していましたが、1993年、我が国に対し同訓練への招待があったことを受け、海上防災に関する国際協力・支援を推進させる観点から、1995年以降、海上保安庁(日本)からも大型巡視船及び幹部職員を派遣しています。平成29年度は5月にインドネシアバリ島沖で開催され、大型原油タンカーが他船と衝突して、貨物タンクから原油が流出したとの想定の下、情報伝達、人命救助、火災消火、油防除などの各種訓練が実施されました。日本からは当庁職員3名を含む代表団4名が参加しました。
貨物船「TAI YUAN」号 火災沈没事案
平成29年4月24日午後1時20分頃、福岡県博多港箱崎埠頭に着岸中のベリーズ籍貨物船「TAI YUAN」(総トン数1,972トン、積荷:スクラップ約400トン、乗員11名)の船尾側貨物艙付近から火災が発生しました。海上保安庁及び消防により消火活動を行いましたが鎮火せず、翌25日午前5時20分頃、T号は船体の一部を残し沈没、燃料油等が海上に流出しました。 海上への油の拡散を防止するため、同船周囲には複数のオイルフェンスが展張され、巡視船艇、福岡市消防艇、原因者手配の作業船、九州地方整備局回収船等による油防除作業等が行われました。その結果、5月8日までに原因者手配の業者により、搭載されていた油はほぼ回収されました。
第七管区海上保安本部等は、発生直後から海上防災のスペシャリストである機動防除隊の派遣を受け、現地での消火、油防除、自治体・漁協等関係者連絡会議開催、原因者等へ油防除等の指導等を的確に行いました。 船体は、7月5日に船体浮揚させ、同7月10日解撤業者へ引き渡され撤去が完了しました。 タンカー「SANCHI」号 火災沈没事案
平成30年1月6日に遭難警報を受信したため、巡視船・航空機を現場に派遣して調査を実施したところ、中国上海の沖合約290kmの海域において、パナマ船籍タンカー「SANCHI」号(以下、「S号」と言う。)と香港船籍貨物船が衝突し、S号に火災が発生していることが確認できました。 S号は火災を継続したまま漂流を続けたことから、海上保安庁では巡視船・航空機等を派遣し、行方不明者の捜索等を行いました。 1月14日、S号は奄美大島西方約315kmの海上において沈没し、付近海域で油の流出が確認されたことから、行方不明者の捜索に加え、沈没位置付近の浮流油等の調査や防除作業等を実施しています。 鹿児島県奄美大島、沖縄県沖縄本島等における油状漂着物に係る対応
同年1月28日以降、奄美大島や沖縄本島などの一部沿岸に油状物の漂着が確認されました。 これを受け、海上保安庁では、機動防除隊等を現地に派遣し、地方自治体や関係機関と連携して油状漂着物の確認、回収作業を実施しました。 さらに、S号沈没位置付近の浮流油と油状漂着物について分析を行い、関連性を調査するとともに、同年2月19日〜23日にかけて、測量船により東シナ海における海水中の油分を測定し、事故以前に測定された値と変わらないものであることを確認する等、流出油の拡散状況について調査を行いました。 海上保安庁では、引き続き漂着油の情報収集・調査等を行うとともに、現場海域における浮流油の調査、油防除作業等を行ってまいります。 油状物の分析結果について
海上保安庁では、採取した油状漂着物について分析を行いました。分析の結果、鹿児島県及び沖縄県の一部の島で採取した油状漂着物について、S号沈没位置付近の浮流油と構成する成分やその成分の比率について類似性が認められたことに加え、
また、一般的に季節風、黒潮の流れといった気象・海象の影響を受ける可能性を総合的に勘案し、鹿児島県及び沖縄県の島の油状漂着物はS号の沈没事故によるものと考えることが合理的であると認識しています。 |