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2 生命を救う
CHAPTER II 救助・救急への取組み
海では、船舶事故や海浜事故等により、毎年多くの命が失われています。
海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、海難の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等に努めています。また、実際に海難が発生した場合には、救える命を救うために、昼夜を問わず、現場第一線へ早期に救助勢力を投入して、迅速な救助活動を行っています。
また、沿岸域での海難を防止し、死者・行方不明者数を減少させるため、関係機関とも連携・協力しつつ、自己救命策の周知・啓発等に取り組んでいます。
海上保安庁の海難救助体制
1 海難情報の早期入手
海上保安庁では、海中転落者の海上における生存可能時間や救助に要する時間等を勘案し、人命を救助するために、海難発生から情報を入手するまでの所要時間を2時間以内にすることを目標としています。
このため、海上保安庁では、海上における事件・事故の緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声とあわせて位置情報を受信することができる「緊急通報位置情報システム」を導入しています。このシステムにより、迅速かつ的確な対応が可能となっています。
さらに海上保安庁では、世界中どの海域からでも衛星等を通じて救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、24時間体制で海難情報の受付を行っています。
今後も、これらのツールを有効に活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応までの時間短縮に努めていきます。
2 海上保安庁の救助・救急体制
〜『苦しい 疲れた もうやめた では 人の命は救えない』〜
海難救助には、海上という特殊な環境の中で、常に冷静な判断力と『絶対に助ける』という熱い想いが必要とされます。
海上保安庁では、巡視船艇・航空機を全国に配備するとともに、救助・救急体制の充実のため、潜水士や機動救難士、特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを拠点に配置しています。
潜水士(Diver)
転覆した船舶や沈没した船舶等から取り残された方の救出や、海上で行方不明となった方を潜水捜索することなどを任務としています。潜水士は、巡視船艇乗組員の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、全国22隻の潜水指定を受けた巡視船艇で業務にあたっています。
機動救難士(Mobile Rescue Technicians)
洋上の船舶で発生した傷病者や、海上で漂流する遭難者等をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを主な任務としています。機動救難士は、高度なヘリコプターからの降下技術を有するほか、隊員の約半数が救急救命士の資格を有しており、全国9箇所の航空基地等に配置され、特殊救難隊とともに、日本沿岸の大部分をカバーしています。
特殊救難隊(Special Rescue Team)
火災を起こした危険物積載船に取り残された方の救助や、荒天下で座礁船に取り残された方の救助等、高度な知識・技術を必要とする特殊海難に対応する海難救助のスペシャリストです。特殊救難隊は36名で構成され、海難救助の最後の砦として、航空機やヘリコプターを使用して全国各地の海難に対応します。平成29年2月には、昭和50年10月の発足からの累計出動件数が、5,000件となりました。
漆黒の闇の中における座礁船からの救助
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転覆した漁船上での救助作業 |
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転覆した漁船(転覆翌日) |
平成28年9月4日午前2時頃、漁船が座礁して乗組員6名が船に取り残されているとして救助要請がありました。海上保安庁では、ヘリコプターに機動救難士を同乗のうえ、現場に急行させました。
座礁により船体の損傷が激しく、時間と共に傾斜し続ける船に、乗組員が取り残されていました。救助するためには時間に猶予がなく、船の傾斜により機動救難士自身にも危険が及ぶ可能性のある状況でしたが、直ちに隊員を降下させて、乗組員6名全員を短時間のうちにヘリコプターに吊り上げ、救助しました。
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3 救助・救急能力の向上
海上保安庁では、海難等により生じた傷病者に対し、容態に応じた適切な処置を行えるよう、専門の資格を有する救急救命士を配置するとともに、救急救命士が実施する救急救命処置の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制を整備し、さらなる対応能力の向上を図っています。また、巡視船艇・航空機の高機能化とともに、救助資器材の整備等を行うことにより、救助・救急体制の充実強化を図っています。
また、我が国の広大な海で多くの命を守るためには、海面を漂う人や船がどの方向に流れてゆくかを算出する漂流予測が重要となります。
一人でも多くの命を救えるよう、海上保安庁では、測量船等による海潮流の観測データを駆使して漂流予測に取り込んでおり、さらに気象庁の協力を得るなど、漂流予測の精度向上に努めています。
4 他機関との協力体制の充実
我が国の広大な海で、多くの命を守るためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織との密接な連携・協力体制を確立しておくことが重要です。特に、沿岸域で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう、合同海難救助訓練等を通じて、公益社団法人日本水難救済会やNPO法人日本ライフセービング協会等の民間救助組織との連携・協力体制の充実に努めています。(関連記事6 交通の安全を守る ライフセーバーとの連携により事故防止対策等を推進!)
遠方海域で発生する海難に対しては、中国、韓国、ロシア、米国等周辺国の海難救助機関と協力して合同で捜索・救助を行うとともに、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を米国の通報制度(AMVER)と連携して運用し、効率的で効果的な海難救助に努めています(平成28年JASREP参加船舶2,347隻)。
浸水した北朝鮮船籍貨物船の乗組員を迅速に救助、速やかな帰国へ
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乗組員を引渡した北朝鮮籍タンカー |
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船体が傾斜した北朝鮮籍貨物船 |
平成29年1月11日夕刻、長崎県五島列島の福江島南西沖で、北朝鮮船籍の貨物船が浸水し、遭難信号を発信しました。通報を受けた海上保安庁はただちに、巡視船と航空機を現場に派遣するとともに、特殊救難隊及び機動救難士等を出動させ救助にあたりました。
貨物船は船体が傾斜した危険な状態で航行しており、乗組員26名(全員北朝鮮人)はライフボートで脱出しました。海上保安庁の巡視船はライフボートを穏やかな海域まで誘導し、乗組員全員を無事に救助しました。(12日朝には、その貨物船は沈没)
12日夕刻、救助された26名は、福江島西方の領海外で、北朝鮮船籍のタンカーに引き渡され、帰国の途につきました。
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自己救命策確保の推進
海での痛ましい事故を起こさないためには、
(1)ライフジャケットの常時着用
(2)防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保
(3)118番の活用
の「自己救命策確保3つの基本」が重要です。
海上保安庁では、引き続き、メディア等さまざまな手段を通じて、「自己救命策確保3つの基本」の周知・啓発活動を実施していきます。
特に、漁船からの海中転落者は、ライフジャケット着用率が低く、過去5年間でみるとライフジャケット非着用者の死亡率は着用者の約2倍となっていることからも、海難防止講習会等を通じて、漁業者のライフジャケット着用率の向上を図っていきます。
また、ライフジャケットは、正しく着用することが大切であるのはもちろんのこと、特に膨張式救命胴衣においては、日頃からのメンテナンスも非常に重要です。海に転落しても膨張しない事故が実際に発生しており、メンテナンスの重要性についても周知・啓発に努めていきます。
マリンレジャー中の事故防止については、海上安全教室の開催や各種イベントでの海上保安庁ブースの設置等により周知・啓発活動を行い、マリンレジャーを安全に楽しめるよう努めます。
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