前述のとおり、太平洋側海域については大陸棚調査が行われたことにより海洋の基礎的なデータの蓄積が進みましたが、その一方で、それ以外の海域についてはほとんど調査が行われておらず、基礎的なデータの収集が遅れています。排他的経済水域等の我が国が権利を有する海域をしっかりと管しつつ、計画的に利用、活用するためには海域の調査を推進し、基礎的なデータを収集することが欠かせません。
現在、海上保安庁では日本海や東シナ海といったデータが不足している海域について、集中的な調査を行っており、これらの海域の詳細が明らかになりつつあります。
海洋調査で得られるデータの中には、海底資源開発や防災に役に立つ情報もあります。例えば、沖縄本島北西沖や小笠原諸島父島北西沖で海底熱水鉱床の存在につながる海底地形を発見しています(トピックス及び下記記事参照)。そのほかにも、防災に役立つ海底断層のデータ等も蓄積されつつあります(下記記事参照)。
また、海上保安庁の調査によるデータ以外にも、国内の他の海洋調査機関等によって、日々海洋に関するデータが蓄積されています。
一方、このような海洋調査で得られたデータが効率的に有効利用されるよう、きちんと管理しておくことも重要ですが、どこにどのような海洋に関する情報があるのか、一般の人にとってはわかりにくいものとなっていました。そこで、海上保安庁では、海洋基本計画に基づく施策の一環として、関係省庁等の協力を得て、各機関が保有する海洋情報の所在を一元的に収集・管理・提供する海洋情報クリアリングハウスを平成22年3月から公開しています。
このように海上保安庁は、海洋調査等を通じて得られた海洋に関する情報を、研究開発の推進、海洋の開発・利用・保全等へ活用できるよう、広く提供することで、新たな海洋立国の実現を目指します。
海洋調査で判明した山口県西部の断層による海底の変動地形
山口県西部には活断層帯である菊川断層帯が分布していることが知られていましたが、北西方向にどこまで続いているかは、これまで明らかになっていませんでした。海上保安庁が平成21年度までに実施した、最新のマルチビーム音響測深機を用いた調査によって、断層運動に伴って形成されたと考えられる線状の地形を鮮明に捉えることに成功し、菊川断層帯の海域における分布が明らかになりました。こうしたデータは地震の最大震度の予測や防災計画の策定に役立てられます。
海の底に名前をつけよう!
竹島の南西沖に「対馬海盆(つしまかいぼん)」と国際的に呼ばれている海底地形があります。(海盆とは海底にある盆地です。)この対馬海盆に対して、近年、韓国が海底地形名を国際的に決定する委員会において「ウルルン海盆」という名称へ変更することを提案する動きがあります。このような提案に対抗するためには、日本も基礎資料として海底地形データを十分に持っておくことが必要になります。
大陸棚調査で判明した水曜海山の熱水鉱床
父島の北西には、7つの海山が南北に並び、七曜海山列と呼ばれています。七曜海山列のうち、水曜海山は、特に活発な活動を続けている海底火山で、山頂付近には熱水性鉱床が発達しています。この火山の熱水性鉱床からは非常に高濃度の金を含有している岩石が採取されました。
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高濃度の金を含む水曜海山の熱水鉱床岩石サンプル |
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水曜海山の場所と海底地形 |
海洋情報クリアリングハウスの公開
平成20年3月に閣議決定された海洋基本計画には、海洋に関する各種情報について「どの海域のどのような種類の情報がどこにあるのか探す手間がかかるとの指摘があり、これら各機関に分散している情報について、民間企業、研究機関等に使いやすく提供」するとされています。
このため、内閣官房の調整の下、関係府省等が協力し、関係機関が保有している各種の海洋情報を利用しやすくする仕組み作りを進めることとなり、海上保安庁は「海洋情報クリアリングハウス」の構築を担当しています。
「海洋情報クリアリングハウス」は、海洋の利活用、海洋調査・研究、海洋レジャーを実施するにあたって情報(海洋調査で得られた水温や海流などの情報のみならず、海洋に関する交通安全情報や防災情報を含む)を、どの機関がどのような方法で保有・公開しているかという“情報の所在”を提供するもので、平成22年3月からサービスを開始しています。
(HPはhttp://www.mich.go.jpです。)
海底火山が噴火、約100mの噴煙!
東京から南に約1,300kmのところに福徳岡ノ場(ふくとくおかのば)と呼ばれる海底火山があります。平成22年2月3日、この福徳岡ノ場が噴火する瞬間を海上保安庁の巡視船「やしま」の搭載ヘリが撮影しました(右図)。
この海底火山は過去にしばしば噴火し、これまで3回新島を形成しましたが、いずれも海没しています。今回の噴火で新島は確認されていません。この噴火に際して、海上保安庁では付近航行船舶への注意を呼びかけています。
船舶の安全を守るために、今後もこのような海底火山を監視・調査していくことが大切です。