平成13年、世界で初めてロシアが大陸棚延長のための資料を国連の大陸棚限界委員会に提出しましたが、それに対して、翌年行われた同委員会の勧告では、データの不足が指摘され、大陸棚の延長が認められませんでした。
海上保安庁では、国連海洋法条約が採択された翌年の昭和58年から単独で大陸棚調査を進めていましたが、厳しい審査水準が明らかになってきたことで、より高度な調査を大規模に推進するための体制の見直しを迫られることになりました。
(2)政府一体となった我が国の取組みと国連への申請
このような状況から、平成15年12月には内閣官房に大陸棚調査対策室が設置され、平成16年8月には、内閣官房副長官を議長とする「大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議」が設置されました。これにより、調査の加速、提出資料の取りまとめ、審査を我が国にとって好ましいものにするための国際環境作りなどを、政府一体となって取り組むことになりました。
このうち調査については、海上保安庁をはじめ関係省庁が分担することとなりましたが、必要な調査は膨大なものでした。このため、海上保安庁では、平成16年から大型測量船2隻を専従させたほか、民間の調査能力も活用して調査を進め、最終的に25年間の歳月をかけて、平成20年6月に調査が終了しました。この間、海上保安庁の測量船が航行した距離は実に108万km(地球27周分)に達しました。こうして政府一体で進められた海洋調査の成果を基に、平成16年から海上保安庁を含む関係省庁の専門家から構成される専門チームが国連への申請に向けた作業を進めました。
この結果、「大陸棚の範囲案」が平成20年10月に総合海洋政策本部(本部長は内閣総理大臣)で決定され、翌11月に、大陸棚の限界を審査する国連の大陸棚限界委員会に申請資料が提出されました。その概要は、国連のHPhttp://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_jpn.htmにおいて公開されています。
測量船の進化
測量船「昭洋」は平成10年に就役した、海上保安庁最大の測量船です。平成16年度からは大陸棚調査に従事しました。総トン数は3,128トン、全長は98mです。
精密な調査ができるよう、振動を減らすため電磁推進システムが採用されています。「昭洋」は平成10年のShip of the Yearを受賞しました。
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地殻構造を調べるために、水中で圧縮空気を放出することにより強力な音波を発信しています。 そのため、海面が空気の泡で白くなっているのが判ります。 |
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測量船には、他の巡視船艇とは異なり、観測室が設置されています。 この部屋で機器の監視や測定データの計算等を行います。 |
海底地形を知るためには、水深を測る必要があります。そのため、測量船は音を船の真下に向けて発射し、音が海底に当たって船に返ってくるまでの時間を計ることで、海底までの距離を計測してきました。これをシングルビーム測深機といいます。
昭和58年以降は、複数の音波を扇状に照射するマルチビーム音響測深機が導入され、幅広い海底の精密な地形が一度に測定できるようになりました。また、その性能も時代とともに向上しています。
国連の大陸棚限界委員会に提出した、新たに延長する大陸棚の面積は、日本の国土面積の約2倍、74万km2にも上っています。これが日本の大陸棚として認められるためには、海底の地形や地殻構造、岩石の性質が大陸棚の延長といえるものであるかがポイントになります。
このため、海底地形調査や地殻構造調査、岩石調査等をどれだけ精密に行って信頼性のあるデータを取得するかがカギとなります。海上保安庁はこれらの調査のうち、海底地形調査、地殻構造調査を担当しましたが、調査対象となる海域は広大であり、その調査は長期間と多大な苦労を要するものでありました。
我が国の申請に対する大陸棚限界委員会による審査は、平成21年9月に開始されました。過去の例をみると、審査には2〜3年といった期間が必要であると予想されています。現在、海上保安庁を含む関係省庁が連携しながら、専門家グループを中心として審査への対応を行っています。