東南アジア周辺海域では通行船舶を狙った海賊事件が多発しています。また、一度海難が発生すれば他の船舶の航行や沿岸国に多大な影響を与えます。そのため、関係国の中には、海上保安庁を参考に、自国海上保安機関の組織拡充や創設に取り組む動きもあり、海上保安庁は、これらの国々に対し能力向上支援を積極的に行っています。
フィリピンでは、平成10年にフィリピン沿岸警備隊(PCG)が海軍から運輸通信省に移管されました。その業務執行体制をより充実したものにするため、海上保安庁では、14年から海上法令執行、海難捜索救助の技術向上、航行安全、海洋環境保全の能力向上、人材育成面での教育訓練システムに係る支援を行っています。
また、これとは別に、PCGが運輸通信省へ移管される前から今日まで、海上保安分野の各機関やPCG本庁へ職員をJICA専門家として派遣し、海上保安に関する政策、実践的な海難対応などの海上保安業務全般についての助言などの支援を行っています。
▲第9回北太平洋海上保安サミット | ▲海事保安調整会議との業務打合せ |
昭和50年代から今日まで、「インドネシア運輸省海運総局」に職員をJICA専門家として派遣し、海難救助、海上防災業務、海上交通安全等に関する助言、職員に対する業務研修などの支援を行っています。
また、平成15年には、インドネシアでの効率的な海上保安体制の構築を目的として、職員を派遣し、海軍、海上警察、運輸省海運総局等の海上保安機関の業務を横断的に調整する「海事保安調整会議」設立を支援しました。
さらに、平成20年5月からは、海事保安調整会議の体制強化のため海上治安政策に対する助言、海上保安機関職員に対する業務研修など、海上法令執行を中心とした支援を行っています。
▲インドネシア海上保安機関との連携訓練 |
▲MMEA職員による羽田航空基地の業務視察 |
マレーシアでは、平成17年に海上保安庁をモデルとして、「海上法令執行庁(MMEA)」が創設されました。海上保安庁では、創設準備段階から今日まで、海上法令執行、海難救助、教育訓練等の各分野において、業務研修などの支援を行っています。
これまで海上保安庁は、東南アジア諸国を中心として能力向上支援を実施してきました。しかし、昨今の世界情勢等によって、例えば「特集3」でも取り上げているソマリア沖の海賊対策の関係諸国(詳しくは、特集3 海保の海賊対策 - 2. 東南アジア周辺海域の海賊対策をご覧ください。)、我が国として自立に向けた国づくりを積極的に支援をしている東ティモール、我が国と海で接しているミクロネシア諸国等において新たな海上保安能力向上支援のニーズが発生しています。
海上保安庁では、国内外の関係機関や日本財団等の民間団体と連携し、このような新たなニーズに対し、海上保安分野での可能な支援について検討しています。
▲第三国研修(シンガポール) |
▲集団研修(海洋の利用・防災のための情報整備コース) |
国や地域の枠組みを越えた連携・協力を中長期的に進めていくためには、各国海上保安機関の若手職員との相互理解が不可欠です。このため、海上保安庁では、平成13年度から日本財団とともに各国から若手職員を招へいし、若手職員相互のヒューマンネットワーク構築、人材育成を支援しています。
また、海上保安庁では、我が国で「海洋環境」、「海難救助・海上防災」、「海洋の利用・防災のための情報整備」、「東アジア海上犯罪取締り」の4つのコースからなる集団 研修を開催しています。
このほか、平成15年からシンガポール政府との二国間の枠組みにより、航路標識の整備等に関する研修をシンガポール海事港湾庁と協力して実施しています。