海上保安レポート 2007

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


特集 海洋国家「日本」と海上保安庁
〜海洋権益保全への取組み〜

はじめに

1.これが現場第一線

2.海洋調査に迫る


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

船舶交通の安全を確保するための航行支援
コラム 12
南鳥島緊急措置

海を繋ぐ


海上保安官を目指す


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 航海を支える > 船舶交通の安全を確保するための航行支援
船舶交通の安全を確保するための航行支援
目標
 海上保安庁では、特に東京湾、伊勢湾、瀬戸内海のような船舶交通が非常に多い海域(以下「ふくそう海域」という。)における航路を閉そくするような大規模海難の防止と、死者・行方不明者を伴う海難船舶隻数の減少を目標に掲げ、積極的に海難の未然防止に取り組んでいます。
平成18年の現況
平安名埼灯台(沖縄県)
▲平安名埼灯台(沖縄県)
 ふくそう海域では、海上交通センターとパトロールを行う巡視船艇が連携して、航行船舶の動静把握や航行管制を実施しました。不適切な航行をする船舶に対しては指導を行うとともに、航海に必要な情報を提供するほか、海上交通関係法令に違反した船舶に対しては、徹底した取締りを実施しました岩場に乗り揚げた貨物船

■ふくそう海域
ふくそう海域

千葉港第四号灯標(千葉県)
▲千葉港第四号灯標(千葉県)
鹿島港沖外国貨物船海難
▲鹿島港沖外国貨物船海難
  また、視認性や識別性に優れた高機能航路標識等を整備し、船舶交通の安全性と効率性の向上に努めました。
 平成18年の海難を振り返ると、海難隻数は2,544隻(平成17年比62隻増)であり、死者・行方不明者数は108人(平成17年比13人減)でした。
 特徴としては、10月の異常に発達した低気圧に伴い、三陸沿岸や北海道東方沿岸などにおいて128隻もの海難が発生したことが挙げられます。その海難のほとんどは無人係留中の小型漁船等の転覆や浸水海難でありましたが、宮城県女川港沖の漁船、茨城県鹿島港沖の外国貨物船、静岡県下田港沖の遊漁船の乗揚・転覆海難等においては多数の死者・行方不明者を伴うものとなりました。そのほか、社会的反響の大きい海難としては、東京湾口における貨物船の衝突・沈没海難や多数の負傷者が発生した超高速旅客船の衝突海難が挙げられます。
 過去5年間の海難隻数は減少傾向にあり、死者・行方不明者を伴う海難隻数及びその海難に伴う死者・行方不明者数については、過去5年間で最低となっています。
 海上保安庁では、平成9年に東京湾で巨大原油タンカー「ダイヤモンド・グレース」の座礁海難が発生したことを契機として、ふくそう海域における航路を閉そくするような大規模海難の未然防止を目標に取り組んできたところです。
 今後とも海難の原因を究明し、対策を講じることによって更なる海上交通の安全性の向上に努めます。

■海難船舶隻数及び死者・行方不明者を伴う海難船舶隻数の推移
海難船舶隻数及び死者・行方不明者を伴う海難船舶隻数の推移
今後の取組み
 船舶航行環境の変化を的確にとらえ、船舶交通の安全性と運航能率の更なる向上を目指します。また、海難を未然に防止し、船舶交通の安全を確保するため、日頃から航行の安全のための情報を広く提供するとともに、海難防止思想の普及のための取組みを積極的に進めていきます。

(1)航路標識の整備及び機能維持

(1) AISを活用した次世代型航行支援システムの構築
 ふくそう海域に平成15年から導入してきたAISを活用した次世代型航行支援システムは、平成18年度をもって全ての海上交通センターへの導入が完了し、運用が行われています(大阪湾海上交通センターにおいては、平成19年度中に運用開始予定)。同システムの導入により、これまでのレーダーによる監視に比べて広大な海域において、概ね500トン以上のAIS搭載船舶の動静を把握することができ、航行実態に即したより効果的な航行指導や乗揚げ防止などの情報提供が行えます。また、巨大船等が航路に入る際の海上交通センターへの位置通報を省略することができ、船舶運航者の負担が軽減されます。今後は、我が国の沿岸海域をAIS網でシームレスにカバーするべく整備を進めます。

■AIS情報に基づくカンボジア籍貨物船S号衝突回避事例
AIS情報に基づくカンボジア籍貨物船S号衝突回避事例

(2) 航路標識の視認性、識別性向上
 海上保安庁では、視認性や識別性を向上させるため、航路標識の高機能・高規格化の整備を進めています。
 航路標識の高機能化は、灯浮標等の光源をLED化し、より見やすくするととも源をLED化し、より見やすくするととも同時に点滅させることによって、航路を明確に表示させることができます。
 また、高規格化は、従来の灯浮標からパイプと柔軟性のある係留装置を用いた浮体式灯標に変更し、潮流等による振れ回りを大幅に軽減することによって、航路を直線的に表示し、航路幅を広く有効に活用することができます。

■航路標識の高機能化
出力増大→都市背景光に埋没しない強い光になる。
同期点滅化→灯火を航路単位で一斉点滅することで、航路形状がハッキリ確認できる。
光源のLED化→荒天時にも、灯火が鮮明に視認できる。
灯浮標番号の発光表示化→夜間でも標識の特定が容易になる。
航路標識の高機能化

■航路標識の高規格化
浮体式標化→標識の振れ回りを解消し、航路法線を高い精度で表示することができる。
・航路幅を広く有効に活用できる。
・航路が直線的に表示できる。
・航路がハッキリ確認できる。
航路標識の高規格化

(2)海難防止思想の幅広い普及

東京湾口における海難(平成18年4月)
▲東京湾口における海難(平成18年4月)
 海難を防止するためには、船舶運航者をはじめとする海事関係者やマリンレジャー愛好者等の一人一人が日頃から海難防止に関する意識を持ち、知識・技能の習得を心がけることが大切です。
 このため、海上保安庁では、訪船指導や海難防止講習会等を通じて海上交通関係法令の周知徹底、安全運航の励行を指導しています。さらに、船舶運航に直接関わる方々はもとより、国民の皆さんに対しても広く海難防止について関心を深めていただくため、毎年7月には「海難ゼロへの願い」をスローガンに、官民一体となって「全国海難防止強調運動」を実施し海難防止を呼びかけています。
 また、近年の海難の特徴をふまえ、関係省庁が連携した施策を展開しているところであり、平成18年9月には、漁船海難が多発している傾向をふまえ「漁船海難防止強化旬間」を実施しました。今後も、各種船舶の特性に応じた海難防止対策を講じていきます。

■海難による死者・行方不明者数の月別推移(平成18年)
海難による死者・行方不明者数の月別推移(平成18年)

(3)海上交通に関する法秩序の維持

 我が国の船舶交通の安全を確保するための法律としては、基本的な海上交通ルールとして「海上衝突予防法」を定めているほか、船舶交通がふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の三海域には「海上交通安全法」を、入出港船舶が多い港内には「港則法」を、それぞれ「海上衝突予防法」の特別法として定めています。
 一方で、海上保安庁が安全な航海支援のために様々な情報提供に努めているにも関らず、安全意識が欠如した船舶運航者が見受けられるのも事実です。このため、海難の発生に直接結びつくおそれのある悪質な法令違反に対しては、徹底した取締りを実施していきます。特に、最近はマリンレジャー活動が大変盛んであることから、小型船舶操縦者が遵守すべき事項である危険操縦及び酒酔い操縦の禁止、水上オートバイ等乗船者に対するライフジャケットの着用指導、狭い水路通過時や水上オートバイ乗船時などにおける有資格者による自己操縦の義務付け等の徹底した励行に努めます。

訪船指導
▲訪船指導
海上安全教室
▲海上安全教室

(4)飲酒運航の根絶に向けた取組み

海事関係法令取締り
▲海事関係法令取締り
 平成18年は、自動車交通分野において飲酒に起因する事故が多発し、重大な社会的問題になりました。これを受け、海上交通分野においても関係法令の処分基準について明確化・適正化等の見直しがなされました。
 このため、海上保安庁では、関係機関と連携し、酒酔い操縦の判定基準の一部強化や飲酒運航禁止に係る周知・指導や重点的な取締りをより一層徹底することで、飲酒に起因する海難の未然防止に取り組んでいきます。

■海事関係法令違反の送致件数の推移
海事関係法令違反の送致件数の推移

小型船舶操縦者が遵守すべき主な事項

酒酔い操縦等の禁止 飲酒等により正常な判断ができない状態での操縦は禁止です。
免許者の自己操縦 水上オートバイは全ての水域で、ボート等は港内・航路内で、小型船舶の免許所有者以外の操縦が原則禁止です。
危険操縦の禁止 遠泳者等の付近で航走する等の危険な操縦は禁止です。
救命胴衣の着用義務 子供、水上オートバイの乗船者や小型漁船を一人で操業する方は救命胴衣等の着用が必要です。