海上保安レポート 2006

●はじめに


■TOPICS 海上保安の一年


■特集1 国際展開する海上保安庁

■特集2 刷新図る海保の勢力


海上保安庁の業務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える


海保のサポーター


海上保安官を目指す!


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 治安の確保 > 2 密輸・密航対策
2 密輸・密航対策

目 標
 密輸・密航に端を発していると考えられる犯罪は、我が国の治安に深刻な影響を及ぼしています。それらの多くは組織的な犯罪であり、手口も一層巧妙化しています。得られた不正な収益は、関与している暴力団や国際的な犯罪組織の資金源となっているともいわれています。これらを水際で阻止するためには、関係取締機関との連携はもとより、国民の皆さんからの情報提供が必要不可欠です。
 海上保安庁では、「摘発水準の向上」を密輸・密航事犯取締りの目標に掲げ、巡視船艇・航空機の効果的な活用、国内外の関係機関との連携強化など各種対策に取り組み、海路による密輸・密航事犯の水際での阻止に努めています。

最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況
最近の主な薬物・銃器事犯摘発状況
平成17年の現況
密輸事犯について

 平成17年に海上保安庁が薬物の押収に関与した件数は8件(前年比8件減少)でした。また、銃器等の押収に関与した件数は1件(前年比2件減少)でした。
 このほか、平成17年は海上保安庁としては初めて偽造クレジットカードの電磁的記録のないプラスチック原板の密輸入事犯を摘発するなど、海上における密輸事犯は薬物・銃器に限らず多様化しています。
 海上保安庁では、薬物・銃器等を水際で阻止すべく、情報収集・分析体制の強化及び機動的かつ広域的な捜査活動体制の強化を図っており、国内はもとより、我が国への仕出地又は中継地となっている国・地域の関係機関とも連携を強化し、積極的な取締りを実施しています。

薬物事犯の摘発状況
薬物事犯の摘発状況

銃器事犯の摘発状況
銃器事犯の摘発状況
偽造クレジットカード事犯

 平成17年6月28日、大阪海上保安監部(大阪府)、税関、警察は合同で、大阪港住之江区南港に入港していた中国籍貨物船「TAI SHUN」を監視中、外出した船員2名が空き地に立ち寄り、持っていた荷物が見えなくなったため、付近を検索したところ、袋に入った合計1,204枚の偽造クレジットカードの電磁的記録のないプラスチック原板を発見しこれを押収しました。その後、船員2名を支払用カード電磁的記録不正作出準備の容疑で逮捕しました。
銃器事犯の摘発状況
▲押収された偽造クレジットカードの原板
密航事犯について

 平成17年に海上保安庁及び警察が検挙した船舶利用の集団密航事件の件数は3件(前年と同数)で、密航者は9名(前年比1名減少)でした。
 最近の集団密航事件は、過去多発した仕立船によるものや隠し部屋・隠し区画に大量の密航者を隠匿するものなど大規模な密航事件が見られなくなり、検挙件数、人員ともに減少傾向にあります。
 この減少傾向の理由としては、外国治安機関との情報交換など連携強化、警察等国内関係機関と連携した取締りの強化、国際航海船舶及び国際港湾施設でのテロ防止対策の強化などにより、水際における監視体制が強化され、密航阻止の効果が上がっているものと考えられます。
 しかしながら、入国管理局の統計によれば、海空港における上陸拒否者数は、平成16年には1万人以上もおり、何らかの方法で我が国へ入国しようとする外国人の存在が多数認められ、これらの者が船舶を利用し我が国へ密航を企てる懸念があることから、引き続き密航に対する厳重な警戒が必要です。

船舶を利用した集団密航者の国籍別検挙状況
船舶を利用した集団密航者の国籍別検挙状況

今後の取組み
 海上保安庁では、薬物・銃器の洋上取引が行われる可能性のある海域における巡視船艇・航空機を利用した監視警戒の実施、薬物・銃器が流出する可能性の高い地域や密航者が乗船する可能性の高い港から来航する船舶等に対する厳重な監視及び立入検査の実施、海事・漁業関係者をはじめ一般市民に対する広報啓発活動の推進などを通じ、犯罪の予防、効果的な取締りを行っていきます。
 しかしながら、密輸・密航事犯は、組織的、計画的、潜在的に行われ、近年ますます巧妙化していることから、その摘発は困難さを増しているといえます。
 このため、情報収集・分析を行う国際組織犯罪対策基地職員を薬物の仕出地又は中継地となっている国や地域へ派遣し、これらの国の関係機関と情報交換や連携・協力体制を強化するほか、港湾等の海上保安部等に国際取締官を配置の上徹底した立入検査を実施し、積極的かつ効果的な取締りを推進していきます。
密出国事犯摘発から密航斡旋組織壊滅へ

 平成17年4月、下関海上保安署(山口県)は、下関港から韓国人が密出国しようとするのを手助けしたとして、韓国籍フェリー「SEONG HEE」の韓国人乗組員1名を逮捕しました。
 その後の捜査により、密出国を企図した5名のうち数名は過去に本邦へ不法入国し、密航斡旋組織に斡旋され不法出国を図ったことが判明したので、国際刑事警察機構(ICPO)等を通じ韓国捜査機関へ情報を提供、韓国海洋警察庁等の捜査により本件の関係者が逮捕され、日韓両国をまたいで暗躍する密航斡旋組織の壊滅につながりました。
密出国企図者が乗船していた韓国籍フェリー「SEONG HEE」
▲密出国企図者が乗船していた韓国籍フェリー「SEONG HEE」