海上保安庁では、洋上の船舶で発生した傷病者を特殊救難隊や機動救難士が救助した後、主にヘリコプターにより陸上の医療機関まで救急搬送しています。搬送中のヘリコプターの機内では、傷病者の容態に応じて救急救命処置を実施するなど、正に命を繋ぐために必要な活動が行われていますが、洋上からの救急搬送は陸上と比べて長距離・長時間に及ぶ中、これまでは救急救命士という国家資格を有する職員のみにより処置にあたっている状況でした。
一方、陸上で救急搬送を行う消防機関においては、救急救命士以外にも、一定の研修を受講した職員が、救急隊員として単独で応急処置を実施することが認められていました。
このため、海上保安庁では、海上でも陸上と同等の救急体制の構築を目指しさまざまな検討をしてきました。
平成31年4月には、救急体制の充実強化を図るため「救急員制度」を新たに創設し、所定の講習等を修了した特殊救難隊や機動救難士等を「救急員」として指名することにより、救急員が消防機関の救急隊員と同様の応急処置を行うことが可能となりましたが、当時、当該応急処置は「救急救命士を補助」する形での処置に限定されていました。
救急員制度の創設自体はあくまで通過点であり、救急員「単独」による応急処置の実現に向けて、これまで多くの実績を積み重ね、医師等を含めた事後検証、関係機関との調整等を経た結果、令和3年8月10日、海上保安庁の念願であった救急員「単独」による応急処置の実施が認められました。
現在、新たに巡視船艇(潜水指定船)にも救急員を順次配置し、救急救命士が不在の状況であっても、救急員単独で傷病者の容態に応じた応急処置が行える体制の構築を図るなど、海上における救助救急体制の更なる充実・強化のための取組を進めています。
海上保安庁では、引き続き「仁愛」の精神を胸に、一人でも多くの命を繋いでいくために、歩みを止めることなく取り組んでいきます。