海上保安レポート 2022

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 守り抜く、日本の海。


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

特集 守り抜く、日本の海。 > 1 海上保安庁最前線の「今」
特集 守り抜く、日本の海。
特集1 海上保安庁最前線の「今」
全国各地の海上保安庁関係施設

海上保安庁では、全国を11の管区に分け、それぞれに地方支分部局である管区海上保安本部を設置しています。また、管区海上保安本部には、海上保安部、海上保安署、航空基地等の事務所を配置し、巡視船艇や航空機等を配備しています。全国各地に配備したこれらの勢力により、いかなる事態が発生した際にも、迅速に現場に駆け付ける体制を常に整えています。

全国各地の海上保安庁関係施設
我が国周辺海域の重大事案

我が国周辺海域において、海上保安庁が直面する重大な事態は年々多様化しており、全国各地であらゆる事案が発生しています。海上保安庁では、全国に配備した巡視船艇、航空機等の勢力により、国民の皆様の安全・安心をこれからも守り抜くという断固たる決意を胸に、24時間365日、今この瞬間も日本の海を守っています。

近年の我が国周辺海域を巡る情勢について、尖閣諸島周辺海域では、中国海警局に所属する船舶をほぼ毎日確認し、領海侵入も繰り返され、中国海警局に所属する船舶の大型化、武装化、増強も進んでいます。日本海に目を移すと、大和堆周辺海域では、外国漁船による違法操業が確認され、沿岸部では北朝鮮からのものと思料される漂流・漂着木造船も引き続き確認されています。加えて、覚醒剤等の密輸事犯や我が国の同意を得ない外国海洋調査船による調査活動など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあります。

尖閣諸島の概要

尖閣諸島(沖縄県石垣市)は、南西諸島西端に位置する魚釣島(うおつりしま)、北小島(きたこじま)、南小島(みなみこじま)、久場島(くばしま)、大正島(たいしょうとう)、沖ノ北岩(おきのきたいわ)、沖ノ南岩(おきのみなみいわ)、飛瀬(とびせ)等から成る島々の総称です。

尖閣諸島及び周辺海域の安定的な維持・管理を図るため、海上保安庁にて、平成24年9月11日、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の三島を取得し、保有しています。

尖閣諸島周辺の領海の面積は約4,740km2で東京都と神奈川県の面積を足した面積(約4,605km2)とほぼ同じ広さです。また、尖閣諸島周辺の領海接続水域は、四国と重ね合わせるとその広大さが見て取れます。海上保安庁では、この広大な海域で、昼夜を分かたず、巡視船艇・航空機により領海警備を実施しています。

尖閣諸島周辺海域の「今」
中国海警局に所属する船舶等への対応

尖閣諸島周辺の接続水域においては、ほぼ毎日、中国海警局に所属する船舶による活動が確認されており、令和3年における1年間の確認日数は332日で、過去最多を記録した令和2年とほぼ同じ日数でした。また、接続水域における連続確認日数にあっては157日であり、過去最長となりました。さらに、令和3年は尖閣諸島周辺の我が国領海において、中国海警局に所属する船舶による日本漁船へ近づこうとする事案も多数確認されています。海上保安庁では、24時間365日、常に尖閣諸島周辺海域に巡視船を配備して領海警備にあたっており、事態をエスカレートさせることなく、国際法・国内法に則り、冷静に、かつ、毅然として対応しています。

中国海警局に所属する船舶を監視警戒する巡視船

中国海警局に所属する船舶を監視警戒する巡視船

中国海警局に所属する船舶等の勢力増強と大型化・武装化

勢力増強

中国海警局に所属する船舶等の勢力増強と大型化・武装化


大型化・武装化

中国海警局に所属する大型の船舶

中国海警局に所属する大型の船舶


機関砲を搭載した中国海警局に所属する船舶

機関砲を搭載した中国海警局に所属する船舶

日本漁船に近づこうとする中国海警局に所属する船舶への対応

令和3年は尖閣諸島周辺の我が国領海内において、操業等を行う日本漁船に、中国海警局に所属する船舶が近づこうとする事案が多数発生しており、同事案については令和2年は8件であったのに対し、令和3年は18件となっております。海上保安庁では、中国海警局に所属する船舶に対し、領海からの退去要求を実施するとともに、日本漁船の周囲に巡視船を配備し安全を確保しています。いずれの事案でも、日本漁船の乗組員に怪我はなく、船体、漁具等にも損傷は発生していません。

最新鋭大型巡視船の配備

令和3年11月、巡視船「あさづき」を石垣海上保安部に配備しました。

「あさづき」は当庁最大級となる総トン数6,500トン、全長150.0メートルのヘリコプター搭載型巡視船であり、尖閣諸島をはじめとする我が国周辺海域における領海警備や海上犯罪の取締り、海難救助等の海上保安業務に従事し、国民の皆様の安全・安心に貢献しています。

尖閣諸島周辺海域の領海警備に従事する「あさづき」

尖閣諸島周辺海域の領海警備に従事する「あさづき」


船名由来

明け方の時間帯を表す「朝月夜(あさづきよ)」に由来し、同型船の「れいめい」「あかつき」と同様、夜明けや新しい時代の始まりを意味する名称。

領海警備の最前線に 〜巡視船「あさづき」就役〜

領海警備の最前線に 〜巡視船「あさづき」就役〜


外国漁船への対応

尖閣諸島周辺海域では、外国漁船による活動も続いています。令和3年の領海からの退去警告隻数は、中国漁船については81隻、台湾漁船については31隻となり、昨年に比べ減少しました。

平成31年2月には、宮古島海上保安部に規制能力強化巡視船の配備が完了したほか、射撃場等の海上保安施設等の整備も着実に進めています。

外国漁船に退去警告を行う巡視船

外国漁船に退去警告を行う巡視船


日本海大和堆周辺海域の「今」

日本海中央部の「大和堆(やまとたい)」は、周囲に比べ水深が浅く、イカやカニなどの日本海有数の好漁場となっています。近年、大和堆周辺の我が国排他的経済水域(EEZ)では、外国漁船による違法操業が確認されておりますが、大和堆周辺で操業する日本漁船の安全確保を最優先として、巡視船が違法操業外国漁船に対応しています。

大和堆周辺海域の取組状況

大和堆位置図

大和堆位置図

背景図:海上保安庁、ⒸEsri Japan

北朝鮮漁船に放水をする巡視船

北朝鮮漁船に放水をする巡視船


水産庁との合同訓練の状況

水産庁との合同訓練の状況


北朝鮮漁船に退去警告を行う巡視船

北朝鮮漁船に退去警告を行う巡視船


中国漁船に退去警告を行う巡視船

中国漁船に退去警告を行う巡視船


夜間に巡視船から放水を受ける北朝鮮漁船

夜間に巡視船から放水を受ける北朝鮮漁船


北朝鮮漁船に放水する巡視船

北朝鮮漁船に放水する巡視船


日本漁船付近を警戒中の巡視船

日本漁船付近を警戒中の巡視船


令和3年にあっても、違法操業外国漁船が大和堆周辺海域に近づくことを未然に防止し、日本漁船の安全を確保するため、日本のイカ釣り漁の漁期を前に、5月下旬から大型巡視船を含む複数隻の巡視船を大和堆周辺海域に配備するとともに、航空機によるしょう戒を実施しました。

なお、令和3年にあっては、同海域に接近しようとする148隻の中国漁船に対して退去警告を行い、我が国排他的経済水域の外側に向け退去させました。

また、5月26日には、水産庁とのより緊密な連携を図ることを目的に、巡視船等と漁業取締船が合同で、違法操業外国漁船への対応を想定した退去警告、放水措置訓練等を実施しました。

今後とも、水産庁をはじめとする関係省庁と緊密に連携の上、日本漁船の安全確保を最優先に対応していきます。

漂流・漂着木造船等への対応の「今」

日本海沿岸では北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が確認されており、その件数は平成30年をピークに減少し、令和3年は18件確認されました。

海上保安庁では、引き続き、巡視船艇・航空機による巡視警戒の強化を図るとともに地元自治体や関係機関との情報共有及び迅速な連絡体制の確保を徹底することとしています。

漂着木造船の状況

漂着木造船の状況


海上保安官による漂着木造船の調査状況

海上保安官による漂着木造船の調査状況


令和3年の漂流・漂着木造船等の状況

令和3年の漂流・漂着木造船等の状況

背景図:海上保安庁、©Esri Japan


外国海洋調査船対応の「今」

我が国の排他的経済水域等において、外国船舶が調査活動等を行う場合は、国連海洋法条約に基づき、我が国の同意を得る必要があります。

しかし、近年、我が国周辺海域では、外国海洋調査船による我が国の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動(特異行動)が多数確認されています。

海上保安庁では、巡視船・航空機による監視警戒等を行い、特異行動を認めた外国船舶に対しては、活動状況や行動目的の確認を行うとともに、中止要求を実施するなど、関係省庁と連携して、適切に対応しています。

我が国の同意を得ない調査を行う中国海洋調査船に対し中止要求を実施する巡視船

我が国の同意を得ない調査を行う中国海洋調査船に対し中止要求を実施する巡視船


海難対応の「今」

我が国の周辺海域において、衝突や転覆、乗揚げ、火災等、様々な海難が発生しています。

海上保安庁では、巡視船艇や航空機を出動させるほか、「特殊救難隊」、「機動救難士」、「機動防除隊」等、高度な専門技術を有するスペシャリストを派遣するなどして、人命の救助や火災の消火、流出した油の防除等、様々な活動を全力で行っています。

令和3年においては、1,942隻の船舶事故が発生しました。5月には愛媛県今治沖において、日本籍貨物船とタンカーの衝突・沈没事案が発生したほか、8月には青森県八戸港内において、貨物船が座礁する海難も発生しました。

海上保安庁では、令和3年、計485隻、1,414人を救助しました。

自然災害対応の「今」

近年、集中豪雨や台風等による深刻な被害をもたらす自然災害が頻発しています。令和3年度も地震や台風、大雨による自然災害が発生し、各地に被害がもたらされました。

海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、組織力・機動力を活かして、海・陸の隔てなく、巡視船艇や航空機、特殊救難隊機動救難士機動防除隊等を出動させ、被害状況調査を行うとともに、被災者の救出や行方不明者の捜索を実施しています。

また、地域の状況やニーズに合わせ、SNS等で情報発信を行いつつ、電気、通信等のライフライン確保のため協定に基づき電力会社等の人員及び資機材を搬送するとともに、自治体からの要請に基づく給水や入浴支援に加え、支援物資の輸送等の被災者支援を実施しています。

海上犯罪の「今」

我が国周辺海域においては、薬物の密輸や外国人の不法上陸、密漁等、様々な犯罪行為が発生しています。

海上保安庁では、巡視船や航空機等によるしょう戒、海上保安官による旅客船やターミナルの見回り等により犯罪の未然防止を行うとともに、犯罪発生時には、法と証拠に基づき、犯人の検挙に努めています。

薬物密輸入事犯については、覚醒剤約297kgが海上貨物に隠匿された事犯などその手口は大口化・巧妙化しています。また、フェリー船内にて大麻リキッド(液状の大麻)の不法所持事犯を摘発しており、海上保安庁では初の大麻リキッド事犯の摘発となりました。

密航事犯については、ブローカーが関与する事犯が発生しており、その手口としては、貨物船、訪日クルーズ船を利用した数名規模の不法上陸等小口化の傾向が続いています。また、海上で資格のない外国人を就労させる不法就労助長等の犯罪インフラ事犯の摘発も増加傾向にあります。

刑法犯については、令和2年8月、香川県丸亀市手島西方沖を航行していた日本籍タンカーに対して、レーザーポインタを使用してレーザー光線を照射し、同タンカー船長の操船業務を妨害したとして、令和3年8月、レーザー光線を照射した漁船の船長を暴行及び威力業務妨害の容疑で書類送致しました。本事件は、海上保安庁では初のレーザーポインタによる光線照射事件の書類送致となりました。

海洋調査の「今」

海上保安庁では、測量船や航空機、自律型潜水調査機器(AUV)自律型海洋観測装置(AOV)等の観測機器を活用し、我が国周辺の広大な海域の調査を実施しています。

また、調査で得られたデータを集約し、海上の安全確保、海洋権益の確保、防災情報の整備といった様々な目的に応じ、効果的な手段で情報を提供しています。

海上保安庁の主な海洋調査
海上保安庁の主な海洋調査
海域火山の噴火への対応 〜防災のための海洋調査〜

海上保安庁では、従来より国民生活の保護や船舶の航行安全を目的として、南方諸島や南西諸島の火山島や海底火山の活動について、航空機により定期的に監視観測を行っています。この観測により得られた情報は、航行警報といった船舶向けの情報提供や海洋権益に関する業務のために活用されているほか、「海域火山データベース」*1としてとりまとめインターネットで公開しています。また、火山噴火予知連絡会に提供し、火山噴火予知の重要な資料としても役立てられています。

令和3年8月、東京の遙か南1300kmに位置する海底火山「福徳岡ノ場」において巨大な噴火が発生しました。海上保安庁では気象衛星が噴火を検知した8月13日の同日、すぐさま航空機を派遣し噴火の規模を観測するとともに、航行警報を発出し付近航行船舶に注意を呼びかけました。噴火が沈静化した現在(3月15日時点)も変色水*2が確認されており、その火山活動は活発に継続していると考えられることから、機動力を活かし、航空機による目視観測、写真や動画撮影、熱計測などの監視観測を継続していきます。

QRコード

*1 海域火山データベース:https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/kaiikiDB/list-2.htm

*2 変色水……火山体から流出する熱水やガスが海水と反応して生じた液体。

福徳岡ノ場の噴火の様子(令和3年8月13日)

福徳岡ノ場の噴火の様子(令和3年8月13日)


海域火山監視観測の様子

海域火山監視観測の様子


航路標識業務の「今」

灯台をはじめとする航路標識は、航行する船舶の位置や障害物の位置を確認する際に必要不可欠なものであり、船舶交通の安全を確保するため、重要な役割を果たしています。

海上保安庁では、航路標識の機能を維持するため、定期的に点検を行い、航路標識に故障等が発生した場合には、迅速に復旧作業を実施するとともに、自然災害に強い機器の導入を推進しています。

また、航路標識の管理体制のいっそうの充実を図るため、航路標識協力団体制度を創設しました。

自然災害に強い機器の導入

海上保安庁では、灯台の光源としてハロゲンランプやメタルハライドランプを使用していますが、光源の省電力化及びメンテナンス作業の効率化のため、ハロゲンランプに比べて寿命が約50倍、消費電力が約10分の1となる高輝度LEDの導入を進めています。

高輝度LEDを使用することで、消費電力が低減されるため、電源に太陽光発電を使用することが可能となり、自然災害に伴う停電の影響を受けない航路標識となります。

自然災害に強い機器の導入
航路標識協力団体制度の創設

令和3年11月、航路標識法を改正し、「航路標識協力団体制度」を創設しました。

海上保安庁では、航路標識の維持管理等の活動を自発的に行う民間団体等を「航路標識協力団体」に指定し、その活動を支援しています。

航路標識協力団体制度HPのQRコード

航路標識協力団体制度HP