海上保安レポート 2021

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 現場「第一線」


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供

海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、様々な手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

令和2年の現況
1 航路標識の運用

船舶が安全かつ効率的に運航するためには、常に自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な進路を導く必要があります。海上保安庁では、このための指標となる灯台等の航路標識を全国で5,153基運用しています。

航路標識には、灯台や灯浮標(ブイ)等様々な種類があり、光、形状、彩色等の手段により、我が国の沿岸水域を航行する船舶の指標となる重要な施設であり、国際的な基準に準拠して運用しています。

2 灯台観光振興支援

第4次交通ビジョンでは、地域を活かす海上安全行政の推進として「灯台観光振興支援」を重点施策に掲げており、地方公共団体等による灯台の観光資源としての活用等を積極的に促すことにより、海上安全思想の普及を図り、これを通じて地域活性化にも一定の貢献を果たしていくこととしています。

加えて、地域のシンボルとなっている灯台を活用した地域連携や、全国に64基現存している明治期に建設された灯台の保全を行っています。

海上保安庁ではこれらを踏まえ、国民の皆様に灯台に親しんでいただくための取組を行っています。令和2年には、三重県志摩市及び公益社団法人橙光会と連携し、大王埼(だいおうさき)灯台(三重県)及び安乗埼(あのりさき)灯台(三重県)にラッピングを施したほか、愛媛県八幡浜市等が主催する佐田岬半島を巡るサイクリングツアーに協力し、佐田岬灯台(愛媛県)の公開を行いました。

佐田岬を巡るサイクリングツアー

佐田岬を巡るサイクリングツアー

灯台へのラッピング

安乗埼灯台

安乗埼灯台

大王埼灯台

大王埼灯台

灯台を活用した取組の広がり

令和2年には、大王埼(だいおうさき)灯台・安乗埼(あのりさき)灯台へのラッピング等のほかにも、さまざまな取組が行われました。

○灯台でCAFEタイム

広島県中部に位置する大崎上島に設置されている中ノ鼻灯台(広島県)は、灯台の周りに円形の囲障(いしょう)が設置されている、全国でも珍しい灯台です。

令和2年7月、大崎上島町観光協会からの要望を受け、灯台と囲障の間にあるスペースに椅子やテーブルを置いて、コーヒーを飲んだり、本を読んだりと、非日常で静かな空間の中で過ごすことが出来る、休憩所として開放される様になりました。

また11月1日に実施された、中ノ鼻灯台の一般公開では、「灯台の思い出、教えて!」コーナーを開設し、訪れた方から灯台にまつわるの思い出話を伺いました。高さ約5mの小さな灯台ですが、郵便局の風景印にデザインされるなど、地元の方々にとって身近で親しまれる灯台になっています。

灯台を管理する呉海上保安部では、灯台の記憶を後世に残すため、灯台等の思い出話や写真を募集しています。

中ノ鼻灯台

中ノ鼻灯台

休憩所の利用イメージ

休憩所の利用イメージ

○恋愛成就の聖地「恋する入道埼灯台」

秋田県男鹿市の入道埼灯台は、全国に16基ある登れる灯台の1つです。平成28年には「恋する灯台」に認定され、毎年多くの方々が訪れています。これまでも秋田県男鹿市や地元水族館と連携し、灯台を会場に郷土芸能の披露や出張水族館などの特別イベント「入道埼灯台まつり」を開催するなど、灯台を中心にした地域の魅力を発信してきました。

令和2年、秋田県男鹿市と市観光協会は、灯台をイメージしたスイーツ「おがパフェ」や、縁結びのわら細工商品の開発・販売を開始しました。わら細工は灯台前に設置された「えんむすび台」取り付けられる様になっています。

また秋田海上保安部では、11月3日、灯台の歴史や重要文化財指定の灯台を紹介したパネル展示のほか、「恋する灯台」をテーマに、メッセージボードの設置やライトアップ等を行いました。

縁結び“わら細工”と灯台前に設置された“えんむすび台”

縁結び“わら細工”と灯台前に設置された“えんむすび台”

多くの方に記入いただいたメッセージボード

多くの方に記入いただいたメッセージボード

〇灯台絵画コンテスト

燈光会では、例年、全国の小・中学生を対象に「灯台のある風景」をテーマとした灯台絵画コンテスト(海上保安庁後援)を実施しています。

令和2年度で16年目を迎えた本コンテストへは、全国から423作品の応募があり、国土交通大臣賞、海上保安庁長官賞及び燈光会会長賞に、次の作品が選ばれました。

*航路標識事業の発達の助成、周知、調査研究等を行うことにより海運の発達に寄与することを目的とした公益社団法人

国土交通大臣賞
入道崎

国土交通大臣賞-1

国土交通大臣賞-2

男鹿市立男鹿北中学校(秋田県)3年 武田 さくらさん

海上保安庁長官賞
だいすき
たねがしまとうだい

海上保安庁長官賞

中種子町立油久小学校 (鹿児島県)2年 山口 優那さん

燈光会会長賞
みんな元気になぁれ!
下関チアーアップ花火と二つの灯台

燈光会会長賞

大村市立竹松小学校(長崎県)5年 原口 怜久さん

海上交通業務における新技術の活用・技術開発
■新技術の活用
新技術を活用した航路標識メンテナンスの高度化

航路標識の老朽化が進展し、持続可能な維持管理が重要な課題となる中で、限られた人員で対応する体制の構築を可能とするため、ドローンによる施設点検、ウェアラブルカメラ等による点検遠隔支援、AIによる劣化度画像診断、高輝度LEDの導入等、新技術を活用した航路標識メンテナンスの高度化のための研究を進めています。

ドローンによる施設点検
AIによる劣化度画像診断
ウェアラブルカメラ、タブレットによる点検遠隔支援
高輝度LEDの導入等
■新技術の開発
船舶動静予測・AIS非搭載船舶の動静把握技術の開発

航行管制業務における情報提供を充実・強化するため、AIS情報等のビックデータ解析結果を活用し船舶動静等を予測する技術や、AISを搭載していない小型船舶等の動静を把握するための技術の開発を推進しています。

船舶動静予測・AIS 非搭載船舶の動静把握技術の開発
走錨早期警戒システムの開発

海上交通センター等から早期の情報提供等を実施することで走錨に起因する海難の防止を図るため、AIS情報を活用し、錨泊時の船舶の運動要素をAIで解析することにより走錨予兆を検知し、運用管制官等を支援するシステムの開発を進めています。

走錨早期警戒システムの開発
カメラ画像解析による船舶情報抽出技術の開発

AISを搭載していない小型船舶等の動静を把握するため、カメラ画像からの船舶検出で得られた船舶位置情報を地図上に表示させる技術の開発を進めています。

カメラ画像解析による船舶情報抽出技術の開発
3 水路図誌、水路通報、航行警報
水路図誌

海上保安庁では、水深や浅瀬、航路の状況といった航海の安全に不可欠な情報を、海図等の水路図誌として提供しています。

水路通報

航路標識の変更、地形及び水深の変化等、水路図誌を最新に維持するための情報や、船舶交通の安全のために必要な情報を水路通報としてインターネット等で提供しています。令和2年は約25,200件を提供しました。

航行警報

航路障害物の存在等、船舶の安全な航海のために緊急に周知が必要な情報を航行警報として衛星通信、無線放送、インターネット等で提供しています。

また、利用者が視覚的に容易に情報を把握することができるよう、警報区域等を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しています。

船舶交通安全情報(水路通報・航行警報)
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ(スマートフォン向け)
QRコード
今後の取組
航路標識の老朽化、防災対策

耐用年数が超過し、劣化の進んだ灯台も多いことから、老朽化対策を推進します。また、台風などの自然災害時における灯台の倒壊・損壊を防止するため、海水浸入防止対策を推進します。

航路標識に関する技術開発

灯台の光源や灯火監視に関する新技術の導入のほか、ドローンやAIを活用した新たな灯台の保守管理のための取組を推進していきます。