海上保安レポート 2021

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 現場「第一線」


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER III. ウォーターアクティビティ等の安全対策
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER III. ウォーターアクティビティ等の安全対策

海上保安庁では、船舶の運航及びウォーターアクティビティ等の沿岸海域におけるレクリエーション活動に伴う事故の減少並びに事故が発生した場合の救助率の向上を目指しています。

特に、船舶事故の8割以上を占める小型船舶(プレジャーボート、漁船、遊漁船)の事故や、カヌー、SUP(スタンドアップパドルボード)、遊泳、釣り等のウォーターアクティビティ中の事故に対して積極的な海難防止活動を行っています。

令和2年の現況
1 海難防止活動

事故の多くは事故者の不注意により発生しており、これらの事故を防止するためには、船舶操縦者やウォーターアクティビティ愛好者の安全意識の向上を図ることが重要です。

このため、海上保安庁では、国の関係機関や民間の関係団体と連携し、漁港やマリーナ等における訪船指導や海難防止講習会の開催、安全啓発リーフレットの配布による啓発活動を行っているほか、ウォーターアクティビティごとの事故防止のための情報をまとめた総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」を開設して情報発信等を行っており、令和2年は、新たに「水上オートバイ編」や「遊泳編」に動画や記事等を追加し、内容の充実を図っています。

小型船舶の事故や、海洋レクリエーション活動が活発となる夏季は、「海の事故ゼロキャンペーン」を実施し、官民の関係者が一体となって海難の未然防止を図っています。

また、酒酔い操縦や危険操縦の禁止、適切な見張りの実施等の小型船舶操縦者が遵守すべき事項に違反することは、重大な事故につながりかねないことから、違反者に対する調査や是正指導を行っています。

「海の事故ゼロキャンペーン」ポスター

「海の事故ゼロキャンペーン」ポスター

総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」

総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」

安全啓発リーフレット

安全啓発リーフレット

海上安全教室

海上安全教室

2 海上安全指導員

船舶事故のうちプレジャーボートによる事故は約半数を占めており、これらの事故を防止するためには、海上保安庁のみならず、プレジャーボート等の愛好者が自助、共助の考えに基づく対応をとることが重要です。

海上保安庁では、昭和49年から、プレジャーボートの安全運航のため、指導・啓発等の安全活動を積極的に行っている方々を「海上安全指導員」として指定しており、現在、全国で約1,600名の海上安全指導員が活動しています。

また、近年はカヌー、SUP、ミニボート等の新たなウォーターアクティビティが多様化・活発化しているなか、これらに対応していくため、新たな海上安全指導員制度の構築に向けて検討を進めています。

ウォーターセーフティガイドの充実強化

令和2年度は、ミニボート、カヌー、SUP、遊泳のアクティビティごとに国の関係機関や民間の関係団体が参加する意見交換会を開催するとともに、水上オートバイ編、ミニボート編、遊泳編について、新たな安全情報の掲載や情報の更新による内容の充実強化を図りました。順次、カヌー編、SUP編、釣り編についても充実強化を図っていくこととしています。

SNSを活用した安全啓発に係る安全情報の発信

海上保安庁では、より多くの国民の皆様に安全啓発に関する情報をお知らせするための取組として、Twitter、Youtube等を積極的に活用しています。

〇Twitterを活用した情報発信

日々の海難発生状況から得られた事故防止に有用な情報をすばやく皆様にお知らせするためにTwitterを活用して、タイムリーに発信しています。

ポスター
〇YouTubeを活用した安全啓発動画の配信

安全啓発動画の例として、シーカヤック愛好者に対する操船時の注意点について分かり易くまとめた情報のほか、ミニボート愛好者に対する運航時の注意事項についてまとめた情報について、幅広い年齢層に親しみやすいアニメーション動画を作成して発信しています。

この他、地域特性に応じた様々な動画を発信するなど、YouTubeを活用し、分かり易く安全啓発を実施しています。

安全啓発動画
〇政府広報による安全啓発情報の発信

内閣府政府広報室の動画作成に協力し、遊泳時の注意点に関する動画を政府インターネットテレビで公開しているほか、政府広報ラジオ番組において、安全にミニボートで海釣りを楽しむための注意点などを発信しています。

海のプロにきく“遊泳時4つの心得”

出典:政府インターネットテレビ「海のプロにきく“遊泳時4つの心得”」

3 「海の安全情報」の提供

海上保安庁では、海難を防止することを目的として、プレジャーボートや漁船等の操縦者、海水浴や釣り等のマリンレジャー愛好者の方々に対して、全国各地の灯台等で観測した気象現況(風向、風速、波高、気圧)、気象庁が発表する気象警報・注意報、ミサイル発射や避難勧告等に関する緊急情報、海上工事や海上行事等に関する海上安全情報、海上模様が把握できるライブカメラ映像等を「海の安全情報」として提供しています。

海の安全情報」は、パソコンやスマートフォン等で入手することができ、特に、スマートフォン用サイトでは、GPSの位置情報から現在地周辺の気象の現況、緊急情報等を地図画面上に表示することで、手軽に利用することができます。

また、気象現況、気象警報・注意報、緊急情報については事前に登録されたメールアドレスに配信するサービスを提供しています。

更に、より多くの利用者に情報を知らせるため、英語ページの開設、Lアラートへの配信をするなどのサービスも提供しています。

*災害時における迅速かつ効率的な情報伝達を目的として、国や地方公共団体等が発する災害情報等を多様なメディアに一斉配信するための、一般財団法人マルチメディア振興センターが運営する共通基盤システム。

今後の取組
ウォーターセーフティガイドの充実強化

ウォーターセーフティガイドについては、今後も多様化・活発化するウォーターアクティビティに対応するため、事故の実態を踏まえたうえで、官民連携による意見交換会を定期的に実施し、内容の充実強化のほか、新規分野の追加等、様々な情報提供ツールを活用して、より多くのユーザーへの浸透を図ります。

安全対策を推進する官民連携ネットワークの強化

ウォーターセーフティガイドの意見交換会や日本水上安全・安全運航サミット(JBWSS)等を通じ、国の関係機関・民間の関係団体との関係構築を進め、多様化・活発化するウォーターアクティビティの安全対策を総合的に推進するため、安全対策を推進する官民連携ネットワークの強化を図ります。

新たな海上安全指導員制度の試行

小型船舶の安全対策の一つとして、引き続き水上オートバイユーザーを対象とした海上安全指導員の指名を進めていくこととしています。

また、海上安全指導員制度の対象を多様化するウォーターアクティビティ全般に拡大し、より効果的かつ多角的な海難防止活動の展開について、関連の施策を試行することとしています。

安全対策の重点化

過去の海難の発生頻度や死傷者の発生状況などの視点から分析を行い、船舶事故(アクシデント)に重点を置いたターゲットを定め、よりきめ細やかな安全対策を講じていくこととしています。

ミニボートの安全運航に係る検証

近年、利用者の増加とともに事故が増加しているミニボートですが、船体が小さく軽量であるため乗船者の動きや波の影響によって、転覆・浸水事故に繋がることが少なくありません。このため、ミニボートの転覆・浸水事故の防止を目的として、令和2年10月、横浜海上防災基地において「ミニボートの安全運航に係る検証」を実施しました。

検証では、リジットタイプ、インフレータブルタイプという2種類のミニボートを使い、乗船者の動きや人工的に発生させた波がミニボートに及ぼす影響を確認するという内容で行われ、官民23機関が参加するなど関心の高さが窺えました。

検証後には意見交換会が行われ、検証結果についての意見が交わされたほか、海上保安庁からはミニボートの民間関係者や事業者を包括する団体の創設等の提言を行い、今後も引き続き意見交換を継続していくこととなりました。

検証の様子については、ウォーターセーフティガイド(ミニボート編)に掲載しています。

カヌー・SUPの安全対策に係る検証

カヌー・SUPの安全対策に係る検証

プレジャーボートの機関故障防止対策

プレジャーボートの船舶事故は全体の5割以上を占めており、中でも機関故障が最も多く発生しています。

機関故障で航行不能に陥ると風浪や潮流に流され磯場等へ乗揚げるなど、人命に関わる大きな事故に繋がる恐れがあります。

このため、海上保安庁では、プレジャーボートの機関故障対策をより重点的に行う必要があると考え、令和2年7月1日から9月30日までの間、従来の事故調査項目を更に深掘りした調査(バックグラウンド調査)を実施しました。

その結果、調査期間中に発生し、海上保安庁が調査した事故のうち8割が整備事業者等による定期的な点検整備により防止できた可能性があることが判明しました。

同種事故を防止するため、これまで実施してきた発航前検査の周知啓発に加え、整備事業者等による定期的な点検整備の重要性について、積極的に周知啓発をしていきます。

機関故障が原因で磯場に乗り揚げたプレジャーボート

機関故障が原因で磯場に乗り揚げたプレジャーボート

令和2年船舶種類別の事故発生状況

令和2年船舶種類別の事故発生状況

令和2年プレジャーボートにおける海難種類別の事故発生状況

令和2年プレジャーボートにおける海難種類別の事故発生状況

バックグラウンド調査結果

バックグラウンド調査結果