海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

8 海をつなぐ > CHAPTER I. 関係国との連携・協力
8 海をつなぐ
CHAPTER I. 関係国との連携・協力

国際犯罪はグローバル化・ボーダーレス化し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、管轄権が行使できる海域には制約があります。

海を巡る問題は、一方の国で解決することが困難なものが多く、これらの問題には、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。

多国間での連携・協力
1 世界海上保安機関長官級会合の開催

近年、地球規模の自然環境や社会環境の変化により海洋において様々な被害や脅威が拡大していることを背景に、これまで海上保安機関が二国間又は地域における多国間で築き上げてきた既存の枠組みを越えて、これまでにないInter-Regionalな協力・連携関係を構築するため、平成29年9月12日から14日までの間、世界で初めてとなる世界海上保安機関長官級会合を日本財団と共催しました。

同会合には、アジア、大洋州、米州、欧州、アフリカから34か国1地域の海上保安機関等の長官級、3つの国際機関の事務局長等を含む海外からの参加者約160名が参加したほか、国内の関係省庁や在京の大使館等からのオブザーバー参加を含め、総勢250名超が参加しました。

本会合では、「海上の安全及び環境保全」、「海上のセキュリティ」、「人材育成」の3つのテーマごとに、先駆的な取組みの発表や議論がなされ、海上保安機関の役割が世界的に高まっていることを認識し、世界が直面している課題を克服するため、連携の強化や対話の拡大を図ることの重要性を確認すること等を盛り込んだ議長総括を発出しました。

今後は、本会合の目的、管理規則及び会議運営等について議論するための実務者レベルでの会合を開催していく予定です。

また、会合に先立ち、迎賓館赤坂離宮において歓迎レセプションを開催し、安倍内閣総理大臣が出席しました。安倍内閣総理大臣は「平和で安定した海」の実現のため、海上保安機関の役割が重要であり、世界中の海上保安機関が海を通じて繋がり合い、交流を深化させ、難題解決のための力を結集することが極めて大切である旨のスピーチを行いました。


世界海上保安機関長官級会合開会挨拶を行う中島海上保安庁長官
世界海上保安機関長官級会合開会挨拶を行う中島海上保安庁長官
スピーチを行う安倍内閣総理大臣
スピーチを行う安倍内閣総理大臣
議長総括全文
世界海上保安機関長官級会合議長総括

2017年9月14日、於東京

  • 1. アジア、オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ及び他の地域の海上保安機関及び海上保安機能を有する機関(以後:海上保安機関等と称す)の長は、2017年9月14日に東京で開催された世界海上保安長官級会合に出席した。本会合の議長は日本国海上保安庁、中島敏長官が務めた。
  • 2. 海上保安機関等の長は、海洋の安全及び平和そして美しい海洋環境は、国際社会の幸福と繁栄に不可欠なものと認識した。
  • 3. 海上保安機関等の長は、海上の安全の確保、遭難と災害対応の準備、海洋環境保全、そして国際海洋法のもと海洋における法の支配に基づいた、海洋の秩序を保つことは世界中の人々が安心して海を利用し様々な恩恵を享受するための不可欠な基盤であることを再確認した。
  • 4. 海上保安機関等の長は、近年の環境変化がより深刻な災害をもたらし、また航行環境にも影響を与える可能性があることを憂慮した。
  • 5. 海上保安機関等の長は、過激主義や急進主義がみられるような社会環境の変化、またその結果として海上におけるテロや犯罪の脅威についても憂慮した。
  • 6. 海上保安機関等の長は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に含まれる世界的な人口の増加、気候変化、環境に対する影響、過剰漁業、IUU漁業及び破壊的な漁業慣行、食料安全保障、組織犯罪による社会的な不安定、過激派による暴力行使、難民の流入による不安定といった、今日世界が直面する課題に広く対応するものであることを認識した。
  • 7. 海上保安機関等の長は、地球規模の変化及び、これに起因する事案において、the first responders and front-line actorsである海上保安機関等の役割の重要性の高まりについて意識した。
  • 8. 海上保安機関等の長は、世界の海上保安機関等の間における既存の地域枠組みを越えた連携の強化や対話を拡大することの重要性、また、世界が直面している課題を克服するための世界中の地域の知恵と専門的技術そして知識を結集することの重要性を確認した。
  • 9. 今後、海上保安機関等の長は、下記にあげる具体的な方策により、海上の安全、海上のセキュリティ及び環境保護の対策を継続するという決意を再確認した。
    • 1)大規模海洋汚染や自然災害、海難事故への緊急対応など各地域、各国における先進的な成功事例や経験を共有していく。
    • 2)新たな技術を活用した海上犯罪対策など各地域、各国における先進的な成功事例や経験を共有していくこと。
    • 3)海上保安機関等の教育及び訓練において各地域、各国における先進的な成功事例や経験を共有していくこと。
    • 4)世界的にCoast Guardとして共通の行動理念の理解を深めつつ、それに基づく人材育成システムの構築や地域間協力及び国際協力のあり方を検討していくこと。
  • 10. 海上保安機関等の長は、海上保安機関等のさらなる対話と連携の場として世界的な海上保安機関の会合が必要であることを考慮する。
  • 11. それゆえ、海上保安機関等の長は、この新たな協力枠組みのさらなる発展のために、目的、管理規則及び会議運営等について議論するための実務者レベルでの会合を開催することを決定している。
  • 12. この総括は、参加した海上保安機関等の長の全般的な支持を受けて世界海上保安長官級会合の議長によって作成された。
2 北太平洋海上保安フォーラム
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット集合写真
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット集合写真
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット署名の様子
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット署名の様子
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット
第18回北太平洋海上保安フォーラムサミット

北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組みであり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。

このフォーラムの枠組みのもと参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、毎年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。

平成29年6月には、油防除をテーマとした多国間多目的訓練がアメリカ・シアトルにおいて行われたほか、9月には、東京で長官級会合等が開催され、密輸・密航等の不法取引やセキュリティ対策に関する好事例、大規模な海難や災害発生時における対策について、情報交換を行うとともに、北太平洋の公海における漁業監視共同パトロールの実施状況についての報告と今後の実施計画について議論されました。議論の総括として共同宣言が採択され、北太平洋の治安の維持と安全の確保における、参加6か国間での連携・協力の推進が確認されました。

3 アジア海上保安機関長官級会合

アジア海上保安機関長官級会合は、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡等を抱えるアジア地域の海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組みで、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。

平成29年10月には、第13回長官級会合がパキスタンで開催され、本会合では、「捜索救助」、「海洋環境保全」、「海上不法活動の予防・取締り」及び「海上保安能力に係る人材育成」の4分野について、各国・機関から取組み状況が発表されたほか、海賊対策などの不法行為への対処にはメンバー間の継続的な連携・協力が必要であることを再確認するとともに、アジアの経済成長や気候変動に伴う新たな課題に対処するために、各国・機関間の実務的な連携や能力の向上がいっそう重要であることを確認し、安全で、明るく、美しい、アジアの海をいつまでも保つため、この連携を維持・発展させることに合意する共同宣言を採択しました。

また、本会合では、新たにトルコの参加について合意され、参加国は20か国・1地域となりました。


第13回アジア海上保安機関長官級会合集合写真
第13回アジア海上保安機関長官級会合集合写真
第13回アジア海上保安機関長官級会合
第13回アジア海上保安機関長官級会合
二国間での連携・協力
1 韓国

海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計15回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。

16回目となる協議は、平成29年9月東京において開催され、最近の両機関による連携・協力状況を評価するとともに、今後、特に自然災害対応分野において担当者間で意見交換を推進していくことで合意しました。

また、海上保安庁と韓国国立海洋調査院との間では、海洋調査の分野での連携・協力を進めるため、平成元年から日韓水路技術会議を設置し、技術的な意見交換を行っています。


討議の記録の交換
討議の記録の交換
日韓海上保安当局間長官級協議
日韓海上保安当局間長官級協議
2 ロシア
日露海上警備機関長官級会合
日露海上警備機関長官級会合

海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航等の不法活動等の取締り等に関する相互協力のため、平成12年9月に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。

平成29年7月には、モスクワ(ロシア)において4年ぶりとなる長官級会合を開催し、地方機関における合同訓練等を通じた二国間協力及び北太平洋海上保安フォーラムでの多国間協力について評価するとともに、今後の連携・協力の方向性について意見交換を行いました。同10月には、第一管区海上保安本部長を団長とする代表団及び巡視船「つがる」がサハリン(ロシア)を訪問し、サハリン州国境警備局と連携した密輸・密航容疑船捕捉訓練、海上火災船消火及び海中転落者救助の海難救助訓練を行いました。

3 インド

平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー号」(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しています。

平成30年1月には、第17回長官級会合をインド・デリーで開催し、海賊対策に関する情報や知識・技能の共有を実施したほか、昨年実施した人的交流を評価し、両機関の連携・協力の重要性を確認しました。これにあわせて函館海上保安部巡視船つがる(ヘリコプター1機搭載型)をチェンナイに派遣し、インド沿岸警備隊との間で連携訓練を実施し、日印両長官が同訓練を視察しました。また、巡視船つがるの寄港にあわせてインド沿岸警備隊が捜索救助訓練を開催、スリランカ、モルディブ、セーシェル、オーストラリア等15カ国からの参加者が同訓練を見学しました。平成12年以来の両国間のパートナーシップが広がりを持ってきており、地域の連携協力の強化につながることが期待されます。


訓練を視察する日印両長官
訓練を視察する日印両長官
日印海上保安機関長官級会合
日印海上保安機関長官級会合
4 べトナム
覚書交換式(於:総理官邸)
覚書交換式(於:総理官邸)

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持などについて覚書を締結しました。覚書に基づく平成28年6月に開催された実務者会合においては、海上保安庁が策定したベトナム海上警察の教育訓練体制の整備や海上保安業務全般の能力向上に対する協力支援をまとめたマスタープランについて協議し、今後の支援の方向性について合意しました。

平成29年6月、巡視船「えちご」(ヘリコプター1機搭載型)をダナン(ベトナム)に派遣し、ベトナム海上警察との間で連携訓練を実施し、同訓練には日本政府が供与したベトナム海上警察の巡視船が初参加しました。また、訓練に先立ち、ベトナム海上警察に対し、法執行能力向上を目的とした違法操業漁船取締りに関するワークショップを開催しました。

5 フィリピン
覚書交換式(於:マニラ)
覚書交換式(於:マニラ)

平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした長官級の協力覚書を締結しました。同協力覚書に基づき、平成29年5月に航空機を、同年6月に巡視船をフィリピンへ派遣し、PCG等と連携訓練を実施しました。

国際緊急援助活動について

我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁もこれに協力しています。

平成29年9月に発生したメキシコにおける地震被害では、国際緊急援助隊・救助チームとして海上保安官14名が、メキシコの首都メキシコシティー中心部の被災地3か所において、関係省庁等の隊員とともに救助活動を行いました。


海上保安庁国際緊急援助隊(JDR)派遣実績
海上保安庁国際緊急援助隊(JDR)派遣実績