海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 生命を救う > CHAPTER II. 救助・救急への取組み
3 生命を救う
CHAPTER II. 救助・救急への取組み

海では、船舶事故や海浜事故等により、毎年多くの命が失われています。

海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、海難の発生に備えた救助体制の充実強化、民間救助組織等との連携・協力等に努めています。また、実際に海難が発生した場合には、救える命を救うために、昼夜を問わず、現場第一線へ早期に救助勢力を投入して、迅速な救助活動を行っています。

また、沿岸域での海難を防止し、死者・行方不明者数を減少させるため、関係機関とも連携・協力しつつ、自己救命策確保の周知・啓発等に取り組んでいます。

海上保安庁の海難救助体制
1 海難情報の早期入手

海上保安庁では、海中転落者の海上における生存可能時間や救助に要する時間等を勘案し、人命を救助するために、海難発生から情報を入手するまでの所要時間を2時間以内にすることを目標としています。

このため、海上保安庁では、海上における事件・事故の緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声とあわせて位置情報を受信することができる「緊急通報位置情報システム」を導入しています。このシステムにより、迅速かつ的確な対応が可能となっています。

さらに海上保安庁では、世界中のどの海域からであっても衛星等を通じて救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、24時間体制で海難情報の受付を行っています。

今後も、これらのツールを有効に活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応までの時間短縮に努めていきます。


救助要請から救助までの流れ(例)
救助要請から救助までの流れ(例)
2 海上保安庁の救助・救急体制

〜『苦しい 疲れた もうやめた では 人の命は救えない』〜

海難救助には、海上という特殊な環境の中で、常に冷静な判断力と『絶対に助ける』という熱い想いが必要とされます。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機を全国に配備するとともに、救助・救急体制の充実のため、潜水士機動救難士特殊救難隊といった海難救助のプロフェッショナルを拠点に配置しています。


全国の救助・救急体制(平成30年3月31日現在)
全国の救助・救急体制(平成30年3月31日現在)
潜水士(Diver)

転覆した船舶や沈没した船舶等に取り残された方の救出や、海上で行方不明となった方の潜水捜索などを任務としています。潜水士は、巡視船艇乗組員の中から選抜され、厳しい潜水研修を受けた後、全国22隻の潜水指定を受けた巡視船艇で業務にあたっています。

機動救難士(Mobile Rescue Technicians)

洋上の船舶で発生した傷病者や、海上で漂流する遭難者等をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを主な任務としています。機動救難士は、高度なヘリコプターからの降下技術を有するほか、隊員の約半数が救急救命士の資格を有しており、全国9箇所の航空基地等に配置され、特殊救難隊とともに、日本沿岸の大部分をカバーしています。

特殊救難隊(Special Rescue Team)

火災を起こした危険物積載船に取り残された方の救助や、荒天下で座礁船に取り残された方の救助等、高度な知識・技術を必要とする特殊海難に対応する海難救助のスペシャリストです。特殊救難隊は36名で構成され、海難救助の最後の砦として、航空機やヘリコプターを使用して全国各地の海難に対応します。平成29年2月には、昭和50年10月の発足からの累計出動件数が、5,000件となりました。


海上保安庁の救助・救急体制(平成30年3月31日現在)
海上保安庁の救助・救急体制(平成30年3月31日現在)
3 救助・救急能力の向上
救急救命士による救急救命処置
救急救命士による救急救命処置
医師と連携した洋上救急活動
医師と連携した洋上救急活動

海上保安庁では、海難等により生じた傷病者に対し、容態に応じた適切な処置を行えるよう、専門の資格を有する救急救命士を配置するとともに、救急救命士が実施する救急救命処置の質を医学的・管理的観点から保障するメディカルコントロール体制を整備し、さらなる対応能力の向上を図っています。また、巡視船艇・航空機の高機能化とともに、救助資器材の整備等を行うことにより、救助・救急体制の充実強化を図っています。

さらに我が国の広大な海で多くの命を守るためには、海面を漂う船等がどの方向に流れてゆくかを算出する漂流予測が重要となります。

一人でも多くの命を救えるよう、海上保安庁では、測量船等による海潮流の観測データを駆使して漂流予測に取り込んでおり、さらに気象庁の協力を得るなど、漂流予測の精度向上に努めています。

4 他機関との協力体制の充実
水難救済会との合同訓練
水難救済会との合同訓練
韓国海洋警察庁との合同訓練
韓国海洋警察庁との合同訓練

我が国の広大な海で、多くの命を守るためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織との密接な連携・協力体制を確立しておくことが重要です。特に、沿岸域で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう、合同海難救助訓練等を通じて、公益社団法人日本水難救済会やNPO法人日本ライフセービング協会等の民間救助組織との連携・協力体制の充実に努めています。

また、遠方海域で発生する海難に対しては、中国、韓国、ロシア、米国等周辺国の海難救助機関と協力して合同で捜索・救助を行うとともに、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)により米国の通報制度(AMVER)を活用し、要救助船舶から最寄りの船舶に救助に当たらせるなど、効率的で効果的な海難救助に努めています(平成29年JASREP参加船舶2,320隻)。

第22回北西太平洋捜索救助実務者会合の実施
署名式
署名式
会議中の様子
会議中の様子

平成29年11月28日から30日までの間、東京において第22回北西太平洋捜索救助実務者会合を開催しました。本会合は北西太平洋海域における中国、韓国、ロシアとの捜索救難に関する連携強化を目的として、我が国の提案により平成8年から毎年実施(開催国は持ち回り)しているものです。

今次会合には、各国の捜索救難を担当する部局の課長級が参加し、各国から年次報告や海難対応に関する有効事例の紹介を行ったほか、各国が有する懸案事項について議論を行うなど、一層の連携強化に資する関係を構築しました。

自己救命策確保の推進

海での痛ましい事故を起こさないためには、

(1)ライフジャケットの常時着用

(2)防水パック入り携帯電話等の連絡手段の確保

(3)118番の活用

の「自己救命策3つの基本」が重要です。

海上保安庁では、引き続き、メディア等さまざまな手段を通じて、「自己救命策3つの基本」の周知・啓発活動を実施していきます。

特に、漁船からの海中転落者は、ライフジャケット着用率が低く、過去5年間でみるとライフジャケット非着用者の死亡率は着用者の約2倍となっていることからも、海難防止講習会等を通じて、漁業者のライフジャケット着用率の向上を図っていきます。

また、ライフジャケットは、正しく着用することが大切であるのはもちろんのこと、特に膨脹式救命胴衣においては、日頃からのメンテナンスも非常に重要です。海に転落しても膨脹しない事故が実際に発生しており、メンテナンスの重要性についても周知・啓発に努めていきます。

なお、船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則の一部改正により、平成30年2月1日以降、小型船舶の船室外の甲板上では、原則、すべての乗船者にライフジャケットを着用させることが船長の義務になりました。(平成34年2月1日以降、違反点2点が付されます。)

マリンレジャー中の事故防止については、海上安全教室の開催や各種イベントでの海上保安庁ブースの設置等により周知・啓発活動を行い、マリンレジャーを安全に楽しめるよう努めます。

自己救命策3つの基本
自己救命策3つの基本
“膨脹式”救命胴衣の点検ポイント
“膨脹式”救命胴衣の点検ポイント