海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 交通の安全を守る > CHAPTER IIIふくそう海域・港内等の安全対策
6 交通の安全を守る
CHAPTER III ふくそう海域・港内等の安全対策

海上保安庁では、海上交通の安全確保を図るため、海上交通ルールを遵守するように指導を行っており、特に、ふくそう海域では、事故発生数を「ゼロ」とすることを目標として、海上交通センターにおいて24時間体制で的確な情報提供や管制に努めています。また、さまざまな手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

平成28年の現況

船舶交通がふくそうする東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・関門海峡での船舶事故隻数は704隻と、船舶事故全体の約35%を占めており、過去5年では、若干の減少傾向にあります。これらの海域で事故が発生した場合には、尊い人命や財産が失われるばかりでなく、航路の閉塞や交通の制限による物資輸送が滞ることで、国際貨物輸送のほぼ100%を海上輸送に頼る我が国の経済活動に大きな影響をおよぼすこととなることから、海上保安庁では、ふくそう海域での海上交通の安全を確保するため、次の取組みを実施しました。


1 海域毎の交通ルール及び安全対策

海上交通ルールには、基本的なルールを定めた「海上衝突予防法」のほか、特別なルールとして東京湾・伊勢湾・瀬戸内海に適用される「海上交通安全法」、法令で定める港に適用される「港則法」があります。海上保安庁では、これらの法令を適切に運用することで海上交通の安全確保を図っています。


ふくそう海域における安全対策

海上交通の要所となっている東京湾・伊勢湾・瀬戸内海・関門海峡には、海上交通センターを設置して、航行船舶の動静を把握し、船舶の安全な航行に必要な情報の提供や、大型船舶の航路入航間隔の調整を行うとともに、巡視船艇との連携により、不適切な航行をする船舶や、航路を塞いでしまう船舶への指導等を実施しています。


ふくそう海域における安全対策
ふくそう海域における安全対策

港内における安全対策

港則法に基づき、全国の86港を特定港に指定し、船舶の入出港状況の把握、危険物荷役の許可、停泊場所等の指定を行い、港内の安全確保を図っています。


沿岸における安全対策

AISを活用した航行安全システムを運用し、日本沿岸において乗揚げや走錨のおそれのあるAIS搭載船に対して注意喚起や各種航行安全情報を提供しています。


2 一元的な海上交通管制の構築

我が国は国際貨物輸送のほとんどを海上輸送が担っており、国内輸送においても、海上輸送が半数近くを占めています。東京湾においては、渋滞や管制信号待ちによる船舶交通の混雑が発生しており、安全かつ効率的な船舶の運航を実現する必要があります。

また、輸送効率の向上やコスト削減を図るために船舶の大型化が進み、LNG(液化天然ガス)取扱量も増加していることから、これらの船舶が事故を起こした場合、その影響は甚大となる可能性があります。さらに、津波等が発生し、一斉に避難する船舶により湾内が非常に混雑した場合には、船舶を迅速かつ円滑に安全な海域に避難させる必要があります。

このため、まずは東京湾において、海上交通センターと4つの港内交通管制室を統合することとし、船舶交通を一体的に把握するためのレーダー等の必要な設備を整備した上で、船舶に対し必要な情報提供、法律に基づく命令・管制を実施するシステムを構築していきます。


東京湾における一元的な海上交通管制の構築のねらい
東京湾における一元的な海上交通管制の構築のねらい

(1)海上交通センターと港内交通管制室の統合

海上交通センターと港内交通管制室の統合のイメージ
海上交通センターと港内交通管制室の統合のイメージ

(2)施設整備

高性能なレーダーの整備
高性能なレーダーの整備

高性能な監視カメラの整備
高性能な監視カメラの整備

(3)海上交通安全法等の一部を改正する法律

東京湾における一元的な海上交通管制の構築を進めるとともに、その運用にあわせて、海上交通安全法等の一部を改正しました。

これにより、津波等の非常災害発生時の迅速かつ円滑な安全海域への避難を目的として、船舶に対して移動等を命令することができる制度が創設されます。

また、平時においても、混雑を緩和し、安全かつ効率的な船舶の運航を実現するため、海上交通安全法港則法に基づく事前通報手続きが簡素化されるとともに、港内の水路を航行しようとする船舶に対し、必要な指示ができるようにする制度等も創設されます。

上記を内容とする海上交通安全法等の一部を改正する法律(平成28年法律第42号)は、平成28年5月18日に公布され、平成30年1月中の施行が予定されています。


海上交通安全法等の一部を改正する法律の概要とねらい
海上交通安全法等の一部を改正する法律の概要とねらい

今後の取組み

東京湾における一元的な海上交通管制の構築に向けて、引き続き、機器・施設及び制度の整備を推進していくとともに、管制官の育成体制の充実・強化等を図ります。

海上交通センターからの注意喚起により船舶の乗揚げを回避!!

平成28年11月、関門海峡海上交通センターの運用管制官がAIS運用卓を監視中、長崎県壱岐島付近海域にある浅瀬に接近する貨物船(外国籍)を確認しました。

運用管制官は、貨物船に対し、国際VHF無線電話で浅瀬に接近している旨の注意喚起をした結果、貨物船の乗揚げを回避することができました。

海上交通センターからの注意喚起により船舶の乗揚げを回避
海上保安学校に管制課程を新設!!
管制課程学生採用試験パンフレット

海上交通センターで勤務する運用管制官は、国際航路標識協会(IALA)が定める国際標準に則った高い技能が求められているとともに、近年のAIS搭載船舶の増加等に伴う情報提供業務の拡大や非常災害時における船舶に対する移動命令の権限の付与等、その役割は複雑化・高度化しています。

このような状況に対し、運用管制官の育成体制の強化を図るため、高い管制技能・英会話能力を持つ運用管制官を継続的に養成する「管制課程」を、平成30年4月に海上保安学校に新設することとしました。

なお、同課程の採用試験は平成29年度から実施されます。

国際標準に基づく運用管制官の資格を取得するとき章の着用が認められます。
国際標準に基づく運用管制官の資格を取得するとき章の着用が認められます。
伊豆大島西方への推薦航路の設定に向けて

ふくそう海域の一つである伊豆大島西方における安全対策を検討したところ、国際海事機関(IMO)の決議に基づく航路方式で、対面航行を「強制」はしないが「推奨」する航路(推薦航路)の設定が適切との結論が得られました。

推薦航路の設定には、IMOにおける採決が必要なため、平成28年11月に本邦初となる推薦航路設定に係る提案文書をIMOに提出し、平成29年3月に開催されたIMOの小委員会において提案が合意されました。

今後、本提案は本年6月に開催されるIMOの海上安全委員会での審議・採択を経て、平成30年1月に運用開始予定です。運用開始に併せ、推薦航路の海図への記載やバーチャル航路標識を設置する予定です。

提案した推薦航路
提案した推薦航路
排出ガス規制に伴うLNG船の普及や新エネルギー利用拡大について安全面での対応

船舶からの排出ガスの国際的な規制の強化(全海域を対象に、SOx排出規制を現行の「3.5%以下」から「0.5%以下」)が2020年に開始されることに伴い、排出ガスが重油燃料と比較してクリーンなLNG(液化天然ガス)燃料船の普及が世界的に見込まれています。また、将来的に水素をエネルギーとして利用する“水素社会”の実現に向けた検討も進められています。

海上保安庁では、このような新エネルギーの利用拡大に向けた検討に積極的に参画し、安全の観点から必要な助言を行うなど、海上輸送や荷役事業の安全対策ガイドラインの策定等に携わっています。

液化水素運搬船イメージ図
液化水素運搬船イメージ図
 
「ship to ship方式」LNGバンカリングイメージ図
「ship to ship方式」LNGバンカリングイメージ図