近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震、激甚化する豪雨災害等、自然災害への対策は重要性を増しています。
海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するために災害応急活動を実施するほか、自然災害に備えた灯台等の航路標識の災害対策や防災情報の整備・提供、関係機関との連携強化等に努めています。
|
4 災害に備える > CHAPTER II 自然災害対策
4 災害に備える
CHAPTER II 自然災害対策
近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震、激甚化する豪雨災害等、自然災害への対策は重要性を増しています。 海上保安庁では、自然災害が発生した場合には、人命・財産を保護するために災害応急活動を実施するほか、自然災害に備えた灯台等の航路標識の災害対策や防災情報の整備・提供、関係機関との連携強化等に努めています。 1 自然災害への対応
海上保安庁では、地震、津波、台風、豪雨、火山等による自然災害が発生した場合には、被災者の救出、人員・救援物資の緊急搬送、被害状況の調査等の災害応急活動を実施しています。平成28年4月14日及び16日は、熊本県熊本地方を震源とする、最大震度7を観測する地震が2回発生し、熊本県、大分県を中心とした九州各地に甚大な被害をもたらしました。 海上保安庁では、地震発生後、直ちに巡視船艇・航空機等により沿岸部の被害状況調査を実施するとともに航行警報等により付近船舶に対し危険な漂流物、水深変化、港湾施設又は航路標識破損のおそれ等の情報提供を行いました。 さらに、熊本県からの要請に基づき、航空機による負傷者、入院患者等の緊急搬送を実施したほか、巡視船・航空機等による給水・食料支援、入浴提供等の被災地住民に対する支援を行いました。 これらの支援情報については、必要な人が随時確認できるよう、SNS等を活用して、被災者へお知らせしました。 また平成28年8月下旬に発生した北海道・東北地方における台風被害においても、巡視船艇・航空機を派遣し、行方不明者の捜索、孤立者の救助を行うとともに、航行警報等による注意喚起を実施しました。
2 東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組み
海上保安庁では、引き続き第二管区海上保安本部を中心に、東日本大震災からの復旧・復興に向けた取組みを実施しています。 平成28年においても、被災地住民の要望に真摯に応じ、地震発生日である11日を中心に、毎月潜水士による潜水捜索や警察、消防と合同捜索を実施しています。 また、被災地での海上交通の安全を確保するため、被災した灯台等の航路標識158基のうち、航路標識として廃止した2基を除き、仮復旧を含め156基を復旧させました。また、震災後の地盤の隆起により水深が変化した海域では、必要な水深測量も実施し、平成27年までの成果により、海図「女川湾」のほか9図を改版しました。(平成29年3月31日現在)
3 自然災害対処のための体制強化
海上保安庁では、東日本大震災への対応の経験もふまえ、近い将来に発生が懸念されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震をはじめとした自然災害に備えるための体制整備を進めています。 また、自然災害に伴う航路標識の倒壊や消灯を未然に防止し、災害時でも海上輸送ルートの安全確保を図るため、航路標識の耐震補強、耐波浪補強及び自立型電源化(太陽電池化)による防災対策を推進しています。加えて、津波等の非常災害発生時において、船舶を迅速かつ円滑に安全な海域に避難させるため、東京湾における海上交通センターと4つの港内交通管制室を統合のうえ、これらの業務を一元的に実施する体制の構築を推進しています。
4 防災情報の整備・提供
海上保安庁では、災害発生時の船舶の安全や避難計画の策定等の防災対策に活用していただくため、防災に関する情報の整備・提供も行っています。西之島をはじめとする南方諸島や南西諸島等の火山島や海底火山について、海底地形、地下構造等の調査、火山の活動状況の監視を実施し、付近を航行する船舶の安全に支障を及ぼすような状況がある場合には、航行船舶への注意喚起等を行っています。 そのほかにも、船舶の津波避難計画の策定等に役立つように、大規模地震による津波被害が想定される港湾及び沿岸海域を対象に、予測される津波の到達時間や波高、流向・流速等を記載した「津波防災情報図」を整備・提供しているほか、津波浸水想定の設定に活用してもらうため、海底地形のデータを自治体に提供しています。
5 海底地殻変動の観測
海上保安庁では将来の海溝型地震の発生が予想される南海トラフや東北地方太平洋沖地震後の挙動が注目される日本海溝において、陸側のプレート上に海底局を設置して、その動きを探る海底地殻変動観測を実施しています。 平成28年には、平成18年度から平成27年度にかけて得られた、南海トラフの海底に設置した15箇所の観測点における海底の地殻変動の実測データ等を用いて、分析を行いました。 その結果、南海トラフ巨大地震の想定震源域における海底は、北西方向に最大約6cm/年の速度(ペース)で移動し、移動速度も場所によって異なっていることがわかりました。移動速度の違いは、プレート境界の固着状態が場所によって異なることの証拠であると考えられます。 本研究成果は南海トラフ巨大地震の発生メカニズムの解明に貢献することが期待され、平成28年5月24日に英国の科学雑誌「nature」電子版にも掲載されました。
6 関係機関との連携
災害応急対応にあたっては地域や関係機関との連携が重要であることから、海上保安庁では関係機関との合同訓練に参画するなど、地域や関係機関との連携強化を図っています。平成28年度は、迅速な対応勢力の投入や非常時における円滑な通信体制の確保等を念頭に置いた防災訓練等、関係機関と連携した合同防災訓練を437回実施しました。また、主要な港では、関係機関による「船舶津波対策協議会」を設置し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら、港内の船舶津波対策を検討しています。 海上保安庁では、東日本大震災被災地の復旧・復興に向けた取組みを継続するとともに、平成32年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることをふまえ、起こりうる自然災害に備えるため、巡視船艇・航空機等の必要な体制の整備や、関係機関との連携強化、防災に関する情報の整備・提供、航路標識の防災対策等を引き続き推進していきます。 |