海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 災害に備える > CHAPTER I 事故災害対策
4 災害に備える
CHAPTER I 事故災害対策

ひとたび船舶の火災、衝突や沈没等の事故が発生すると、人命、財産が脅かされるだけでなく、事故に伴って油や有害液体物質が海に排出されることにより、自然環境や付近住民の生活にも甚大な悪影響をおよぼします。海上保安庁では、事故災害の予防に取り組むとともに、災害が発生した場合には関係機関とも連携して、迅速に対処し、被害が最小限になるよう取り組んでいます。

平成28年の現況
1 事故災害への対応

船舶火災

平成28年に発生した船舶火災隻数は65隻で、前年と比べ8隻減少しました。

船舶火災隻数を船種別で見ると、漁船の火災隻数が最も多い傾向が続いており、平成28年においても、漁船の火災隻数は36隻と、全体の約55%を占めています。

このような船舶火災に対して海上保安庁では、消防機能を有する巡視船艇からの放水等による消火活動を実施しています。


船舶火災隻数
船舶火災隻数


油排出事故

平成28年に海上保安庁が確認した油による海洋汚染発生件数は293件で、前年と比べ46件増加しました。海上における油排出事故等では原因者による防除が原則となっているため、海上保安庁では、原因者が適切な防除を行うための指導・助言を行っています。一方、油等の排出が大規模である場合や、原因者の対応が不十分な場合には、関係機関と協力のうえ、海上防災のスペシャリストである機動防除隊等により海上保安庁自らが防除を行っています。

平成28年においては、11月の三重県四日市港着岸中のセメント運搬船が、燃料油の移送作業中にポンプの停止を失念したため、甲板上に燃料油が溢れ、海上に流出した事故をはじめ、120件の油排出事故に対応しました。


海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故件数
海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故件数

油流出の状況
油流出の状況

海上に広がった油の拡散措置の状況
海上に広がった油の拡散措置の状況

2 事故災害対処のための体制強化

海上保安庁では、事故災害に対して、迅速かつ的確な対応を行うための体制の整備を進めています。現場で対応にあたる海上保安官に対して、海上火災や油排出事故等への対応等に関する研修・訓練を実施しているほか、平成28年12月には9年ぶりに海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に基づく「排出油等防除計画」の修正を行いました。

また、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」に基づく関係省庁連絡会議において、油排出事故等に備え図上訓練を実施し、関係省庁間の対応体制を確認するなど、体制の強化を図っています。

海上に排出された油等の防除等を的確に行うためには、排出された油等がどのように流れるかを予想することが重要です。

海上保安庁では、油排出事故等に備えるため、測量船等で観測した海象(海流、水温等)の情報を基に油等が漂流する方向、速度等を予測する漂流予測に取り組んでいます。

さらに、日本周辺の海況を自律型海洋観測装置(AOV)、イリジウム漂流ブイ及び海洋短波レーダーにより海流の情報等をリアルタイムに収集することで、漂流予測の精度向上に努めています。

このほか、全国の沿岸域の地理・社会・自然・防災情報等を沿岸海域保全情報としてとりまとめ、インターネット上で公開しています。


大規模流出油関連情報(PC版)

URL http://www4.kaiho.mlit.go.jp/CeisNetWebGIS/

大規模流出油関連情報(スマートフォン版)

QRコード

3 国内連携

事故災害による被害を防止するためには、事業者をはじめとする関係者に事故災害に対する意識を高めていただくことや地方公共団体等の関係機関との連携が重要です。海上保安庁では、タンカー等の危険物積載船の乗組員や危険物荷役業者等を対象とした訪船指導、運航管理者等に対する事故対応訓練、タンカーバースの点検等を実施しています。また、地方公共団体、漁業協同組合、港湾関係者等で構成する協議会等を全国各地に設置し、災害発生時に迅速かつ的確な対応ができるよう油防除訓練や講習等を実施しています。


4 国際連携

油や有害液体物質等による海洋環境汚染は、我が国だけでなく周辺の沿岸国にも影響を及ぼすことから、各国と連携した対応が重要です。海上保安庁では、各国関係機関との合同訓練や国際海事機関(IMO)の関係委員会への参加等、国際的な取り組みに貢献しています。また、海上保安庁では、研修等を通じてこれまで培ってきた海上災害への対応に関するノウハウを各国関係機関に伝えることで、海上防災体制の構築を支援しています。

平成28年においては、9月下旬から約2か月間、独立行政法人国際協力機構(JICA)の協力のもと、7か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム、フィジー、ジブチ)から19名の現場指揮官クラスの職員を招へいし、国際海事機関(IMO)のモデルコース()に準拠した内容をさらに充実させた油防除対応者向けの研修を実施しました。

*IMOモデルコース
IMOの各加盟国が国際条約やIMOの勧告等の技術的要件を満たすために必要な教育訓練を実施するに当たり、モデルとなるコースプラン、教材、詳細な計画書等の訓練カリキュラムを示したもの。


オイルフェンス展張実習
オイルフェンス展張実習

油・水質分析実習
油・水質分析実習
今後の取組み

海上保安庁では、平成32年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることをふまえ、今後とも、巡視船艇・航空機や防災資機材の整備、現場職員の訓練・研修等を通じ、事故災害への対処能力強化を推進するとともに、関係者への適切な指導・助言、国内外の関係機関との連携強化を通じて、事故災害の未然防止や事故災害発生時の迅速かつ的確な対応に努めます。