海上保安レポート 2011

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 新たな海洋立国に向かって


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 領海等を守る

3 生命を救う

4 青い海を護る

5 災害に備える

6 海を識る

7 交通の安全を守る

8 海を繋ぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


おわりに

3 生命を救う > ChapterI 海難救助
3 生命を救う
ChapterI 海難救助

海では海難等により毎年数多くの命が失われています。もちろん未然に防止するための様々な取組みを行なっていますが、残念ながら海難等は、毎年発生しています。

海上保安庁では、海難等による死者・行方不明者をできる限り減少させるため、発生した海難等に対し、迅速かつ的確な捜索救助活動を行うとともに、安全意識の高揚等の海難防止思想の普及、救助体制の充実・強化、さらには、民間救助組織等との連携・協力等を行っていきます。

平成22年の現況

平成22年の海難及び船舶からの海中転落による事故者数は13,412人で、自力又は救助機関等により救助されたのは13,219人(うち救助機関等によるもの4,440人)でした。このうち1,653人を海上保安庁が救助しましたが、救助に至らず死亡または行方不明となった方の数は197人でした。この人数は、平成21年と比較して85人の減少となっています。

緊急通報用電話番号「118番」による海難等発生情報の通報(第一報)は1,113件であり、全体の通報件数の44%を占めています(平成21年度は1,176件、全体の43%)。また、このうち879件が携帯電話からの通報でした。2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合は、79%で、上昇の傾向を示しています。

救助・救急体制の充実強化のため、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士の配置を拡充しています。平成22年度は、新潟航空基地に8名を配置し、救助・救急体制の充実強化を図りました。


■海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移 ■2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合
海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移 2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合

新潟航空基地に全国7番目となる機動救難士を配置!

平成22年10月1日、新潟航空基地に機動救難士8名が配置(全国7番目)されました。

機動救難士は、ヘリコプターと連携して海難船舶の遭難者等を迅速に救助する専門チームで、ヘリコプターからの降下・吊上げ救助技術のほか、潜水能力等を有しています。新潟航空基地への配置により、日本海東部海域の救助体制がさらに強化されました。

新潟航空基地機動救難士 機動救難士発足式
▲新潟航空基地機動救難士 ▲機動救難士発足式
今後の取組み

1 海難情報の早期入手

海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、「緊急通報位置情報システム」を導入しています。これにより、携帯電話からの「118番」通報の際に、音声と併せて発信位置情報が通知され、迅速かつ的確な対応が可能となります。

さらに、海上保安庁では、世界中どの海域からでも衛星通信等により救助を求めることが可能な「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、無線通信による海難情報の受付を24時間体制で運用しています。

海上保安庁では、これらを活用しながら、海難情報の早期入手と初動対応の時間短縮に努めていきます。


2 救助・救急体制の充実・強化及び救助・救急能力の向上

吊り上げによる救助
▲吊り上げによる救助
特殊救難隊員による雪中訓練
▲特殊救難隊員による雪中訓練

海上保安庁では巡視艇の複数クルー制を拡充し、救助・救急体制の充実・強化を図ります。

また、我が国周辺での海難及び人身事故の約9割が、沿岸から20海里(約37キロメートル)未満で発生しているため、機動救難士体制の構築等、更なる救助体制の充実・強化に努めていきます。なお、平成23年度には、仙台航空基地に8名の機動救難士を配置予定です。

さらに、高度な知識・技能を有する特殊救難隊員、潜水士救急救命士の救助・救急能力及び巡視船艇・航空機による救助能力の向上を図っていきます。

救急救命士については、処置範囲が拡大する傾向にあることも踏まえ、救急救命処置の技能について定期的な研修を行う等、メディカルコントロール体制の充実・強化を図っていきます。

また、海中転落等の際には、より迅速かつ的確な救助活動のため、転落者の漂流範囲等を予測していますが、今後リアルタイムの海潮流を把握し、漂流予測システムを活用することで、より高精度の漂流予測を目指します。


3 他機関との協力体制の充実

消防機関との合同訓練(海保と消防の潜水士)
▲消防機関との合同訓練(海保と消防の潜水士)

広い海をカバーするためには、日頃から警察・消防等の救助機関や民間救助組織と連携・協力することが重要です。

特に、沿岸部で発生する海難に対しては、空白地域のない救助エリアの確保や円滑な救助活動を実施できるよう(社)日本水難救済会やライフセービングクラブ等の民間救助組織との関係の構築・発展に努めていきます。

我が国周辺海域で発生した海難には、中国、韓国、ロシア、米国といった関係国の救助調整本部(RCC)と協力し、合同で救助活動を行う等、引き続き連携を図っていきます。

また、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を、米国の通報制度(AMVER)と連携して運用し、引き続き海難救助の効率化を図っていきます(平成22年参加船舶2,717隻)。