海上保安レポート 2010

はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


05 災害に備える > CHAPTER2 自然災害対策
05 災害に備える
CHAPTER2 自然災害対策

我が国では、これまで巨大地震により大きな被害をたびたび受けてきました。また、毎年、台風により全国各地で被害が発生しています。海上保安庁では、これらの自然災害が発生した際に、迅速な対応を行うため、日頃から訓練等を実施するとともに、広く一般に対する情報提供を行うなど、被害を最小限に抑えることを目標としています。

平成21年の現況

海上保安庁では、地方自治体等との連携強化を図るため、東海地震、東南海・南海地震及び首都直下型地震等の自然災害に備えた合同訓練を174回実施しました。平成21年8月11日に駿河湾を震源とする地震が発生した際には、巡視船艇・航空機を出動させ、沿岸部の被害状況調査を行うとともに、航行警報を発出して航行船舶等に対して注意喚起を行いました。

また、東海地震や東南海・南海地震等に代表される海溝型地震は、その震源域の大部分が海域にあるため、基盤となるデータが少なく、調査研究が十分に進んでいません。海上保安庁では、将来の海溝型地震の発生が予想される日本海溝や南海トラフ等の太平洋側海域において、測量船による海底地殻変動観測等を行い、地震の発生予測につながる海域の地殻変動データの整備に努め、その結果を地震調査研究推進本部等に報告しています。

平成21年は駿河湾を震源とする地震の際に定常の観測に加えて緊急観測も行いました。

このほかにも、南方諸島及び南西諸島の海域にある火山島や海底火山の構造等の調査及び火山の活動状況の監視を実施し、航行船舶等に対して注意喚起を行うとともに、火山噴火予知連絡会等に報告しました。


◆海底地殻変動観測の概要
海底地殻変動観測の概要
時々刻々と変化する測量船の位置を決める「キネマティックGPS測位」と、測量船と海底に設置した
海底基準点との距離を音波で測る「音響測距観測」を組み合わせて、海底基準点の位置を高精度で求めます。
平成17年(2005年)宮城県沖の地震後の海底の動き 〜世界初! ひずみの解消から蓄積開始に至る動きを捉えた〜

平成17年8月16日、宮城県沖のプレート境界でマグニチュード7.2の地震が発生しました。この地震の震央のごく近傍(約10km)には海底地殻変動観測の基準点(「宮城沖2」海底基準点、平成16年設置)があり、地震前後の観測から同基準点が地震により東向きに約10cm移動したことが検出されました。その後も観測を継続したところ、平成18年末頃まではほとんど動きがありませんでしたが、平成19年頃から年間6.5cmの速さで西北西に動き始めたことが分かりました。

これらの動きは、平成17年の地震を引き起こした原因である地殻ひずみの蓄積が、同地震の発生により解消され、一年程度の移行期間を経て、再びひずみの蓄積が開始されたことを示唆していると考えられます。

これら一連の過程を海底で捉えたのは世界でも初めてであり、今後の宮城県沖地震の場所や規模などの予測に役立つと期待されています。


◆宮城県沖の海底の動き(地震の前後の「宮城沖2」海底基準点)
宮城県沖の海底の動き(地震の前後の「宮城沖2」海底基準点)
今後の取組み
1 機動性の高い救助体制の構築
巡視船「いず」による給水訓練
巡視船「いず」による給水訓練

海上保安庁では、事故や災害発生時にヘリコプターを使って迅速に救助等の対応をとるため、機動救難士を航空機基地に配置していきます。平成22年度においては、新潟航空基地に機動救難士を配置し救助体制の充実強化を図ります。また、机上訓練、実働訓練等を通じ、自然災害対応における関係機関との連携を強化します。

2 大規模地震の想定震源域における調査

海底で発生する地震のための調査研究は、まだ十分なデータが蓄積されていませんので、引き続き海底地殻変動観測等を実施し、調査結果を地震調査研究推進本部等に報告していきます。


3 海域火山の監視

現在も活動している南方諸島や南西諸島方面の海域火山について、火山付近の地質構造やマグマの位置の把握、海底火山の地下構造を解明するため、測量船による海底地形・地質調査等の科学的調査及び航空機による火山活動監視・観測を実施し、これらの監視や調査で収集したデータを火山噴火予知連絡会等に報告するほか、航行船舶への情報提供、防災対策の基礎資料として活用していきます。


4 防災情報の整備・提供

離島や沿岸域において、火山噴火や地震等の災害が発生した場合に、海上からの円滑な救助活動を行うため、海底地形等の自然情報に加え、陸上の医療機関や避難場所等の防災に必要な諸情報を網羅した沿岸防災情報図の整備を行っていきます。また、大規模地震による津波被害が想定される海域において、津波の波高、到達時間等を記載した「津波防災情報図」を整備・提供していきます。

さらに、地震発生、火山の噴火や津波の到達が予想される場合等においては、航行警報を発出し速やかに航行船舶等に注意を促していきます。


5 港内における津波対策
防災訓練の様子
防災訓練の様子

地震が発生し大規模な津波の来襲が想定される場合、港内の舶船への甚大な被害の発生が懸念されます。予想される津波の規模や船舶への影響等は港ごとに異なることから、主要な港を中心にそれぞれ「船舶津波対策協議会」を設立し、海上保安庁が収集・整理した津波防災に関するデータを活用しながら必要な対策の充実を図ります。