船舶の衝突、乗揚げ、沈没や火災等の事故は、人命を脅かすだけでなく、油や有害液体物質等の流出を伴った場合には、周辺海域をはじめ、周辺住民の生活に甚大な影響を与えることがあります。
海上保安庁では、これらの事故災害に対して、消防能力を有する巡視船艇や防除資機材等を活用し迅速に対応することにより、災害発生時の被害を最小限に抑えることを目標としています。
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05 災害に備える
CHAPTER1 事故災害対策
船舶の衝突、乗揚げ、沈没や火災等の事故は、人命を脅かすだけでなく、油や有害液体物質等の流出を伴った場合には、周辺海域をはじめ、周辺住民の生活に甚大な影響を与えることがあります。 海上保安庁では、これらの事故災害に対して、消防能力を有する巡視船艇や防除資機材等を活用し迅速に対応することにより、災害発生時の被害を最小限に抑えることを目標としています。
平成21年には、海上保安庁は油流出事故186件に対応しました。事故件数を船種別に見ると、事故発生時に海洋環境への影響の大きいタンカーは10件で全体の約5%を占めています。 また、船舶火災が90件発生しました。船舶火災件数を船種別に見ると、漁船が56件と全体の約62%を占めています。 海上保安庁では、消火や延焼防止のための措置として、消防船艇をはじめとする消防能力を有した巡視船艇を配備して船舶火災に備えています。また、事故災害への対応能力の向上を図るとともに、関係省庁はもとより、独立行政法人海上災害防止センター等の防災関係機関や民間団体と連携し、流出油防除資機材の取扱いや火災消火等の合同訓練を行うなど、官民一体となった海上防災体制の充実及び関係機関との連携強化に努めました。9月には、稚内海上保安部(北海道)が稚内市総合防災訓練の一環として、海上災害防止センターと連携し、流出油防除訓練を行いました。訓練は、地震発生により稚内港から沖合いに避難した貨物船とサハリンIIプロジェクトで生産された原油を搭載した大型タンカーが衝突し、積荷の原油約5,000トンが海上に流出したとの想定で実施しました。 このほか、大規模油流出事案等への対応は、近隣諸国との連携も重要であることから、「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」の枠組みによる、中国、韓国及びロシアの関係機関との油等の防除にかかる会合や机上訓練を実施したほか、7月には、インドネシアで開催された「インドネシア・フィリピン合同油防除訓練(MARPOLEX2009)」に参加するなど、国際的な連携を図りました。
ESIマップが完成
海上保安庁では、沿岸域において的確な油防除活動ができるよう、日本全国の海岸線の性状を図に表した環境脆弱性指標図(ESIマップ)2,147図を完成させました。また、インターネット(CeisNet)で提供している沿岸海域環境保全情報のうち、主な更新情報として、5年に一度更新される全国の漁業権情報を反映させました。
大学との連携によりケミカルタンカーで発生した正体不明の物質を解明
8月11日、石垣港沖に錨泊した、濃硫酸を積載したケミカルタンカー(総トン数3,269トン)の損傷部分付近の破口から化学反応によるものと思われる白煙及び積荷の温度上昇が認められた危険な状況が発生しました。石垣海上保安部(沖縄県)には機動防除隊及び特殊救難隊を派遣し、相互協力の下に周囲のガス検知と破口の応急修理を分担して実施しました。 この対応終了時、対応した隊員の装備の一部からぬめり気のある酸性物質が検出されましたが、海上保安庁による調査では原因の究明には至りませんでした。そのため、機動防除隊が研修等で協力している横浜国立大学に調査を依頼しました。しかし、関連する文献等が一切見当たらなかったことから、同大学学内実験室で同大学職員立会いの下、海水へ硫酸を混入させる実験を行い、「俗に言う“追い出し現象”によって塩酸が生成するらしい」との推察を得ました。この推察をもとに、海上保安大学校で反応実験等の検証を行ったところ、この推察が正しかったことが立証されました。海上保安庁では、大学等とも協力して事故災害に対応していきます。
1 流出油及び有害液体物質の防除対策の強化
海上保安庁では、油や有害物質等の流出事故が発生した場合には、これらの防除に関する防除方針を作成し、原因者等による防除措置が適切になされるよう原因者及び関係者に対し指導、助言を行っていきます。また、緊急を要する場合や原因者のみで対応できない場合は、海上保安庁が保有するオイルフェンスや大型油回収装置等の資機材を使用して防除作業を実施し、被害を最小限にする措置を講じていきます。さらには、関係機関との連携を強化し油流出事故の対策に取り組んでいきます。 また、平成19年6月14日にOPRC-HNS議定書が発効したことを受け、有害液体物質による汚染事故に対して迅速かつ的確な対応がとれる体制を確保することになりました。有害液体物質は、種類が多く、その性状に応じた防除措置等をとることが求められるため、ガス検知器や密閉式防護衣等の有害液体物質対応資機材を充実させるとともに、物質の性状等に応じた防除措置や原因者への指導・助言が適切に行えるよう機動防除隊員等へ研修を実施するなど、有害液体物質の排出事故に対し迅速かつ効果的に対処し得る体制の確立を図っていきます。 2 国際協力体制の構築
海洋環境汚染は、我が国だけの問題ではなく、各国と連携して対応することが重要です。海上保安庁では、海洋環境保護のための各種条約の採択、締結及び改正等に対応するため、国際海事機関(IMO)の関係委員会に出席するなど、国際的な取組みに対応していきます。 また、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的として近隣諸国と進める「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」への参画、合同油防除訓練の実施を通じて、事故発生時に関係国が協力して対応できる体制の構築にも努め、国際的な連携を図っていきます。 海洋汚染に関する知識・能力が十分でない途上国に対しては、国際協力機構(JICA)を活用し、海洋環境保全や海上防災に対応するために必要な知識等を習得させるため、各国の担当者に対する研修等を実施します。 3 消防体制の確保
海上保安庁では、海上における船舶の火災等に対応するため、消防船艇をはじめとする全国各地の消防能力を有する巡視船艇を有効に運用し、海上における消防体制の確保に努めていきます。また、海上交通安全法に定める航路を航行する原油、LNG等の危険物を積載した大型タンカーに対しては、同法に基づき、消防設備を有した船舶の配備の指示等を実施します。また、これらの船舶に火災が発生した場合に備え、職員に対する消防研修を実施するなど、大規模火災に対応できる体制の確保に努めていきます。
着岸中の貨物船から火災が発生
6月14日午前1時過ぎ、大阪ポートラジオから海上保安庁に対して「阪南港に着岸中のカンボジア籍貨物船の貨物倉で積荷のスクラップが炎上中」との「118番」通報がありました。海上保安庁では消防船「かいりゆう」や巡視船艇を派遣するとともに、他機関とも協力して消火活動を実施した結果、正午過ぎに貨物船は鎮火しました。なお、海上保安庁ではスクラップ積載船舶の火災に関する研究を行っています。研究の詳細はコラム Vol.07をご覧ください。
4 原子力災害の防災対策
海上保安庁では、原子力災害が発生した場合、海上において救助・救急活動を実施するとともに、モニタリングの支援をするなど、被害を抑えるための対応をしていきます。このため、専門機関における海上原子力防災研修を職員に受講させ放射線測定器等の取扱いを習熟させます。また、現有する放射線測定器等の維持管理、米国原子力艦の寄港地における放射能調査、関係機関との連携の強化等を引き続き図っていきます。 5 漂流予測・沿岸海域環境保全情報の充実
海上保安庁では、流出油等の挙動を適切に予測し、的確な防除体制をとるため、漂流予測を活用しています。この漂流予測の精度向上のため、測量船等により気象や海象(海流、水温等)の情報をリアルタイムで収集していきます。また、相模湾や伊豆諸島において防災や環境保全等に役立てるため、海水の流れをリアルタイムに観測する海洋短波レーダー等を活用していきます。 また、万一の油等の流出に備え、日本全国の沿岸域における地理・社会・自然・防災情報等を「沿岸海域環境保全情報」として整備・更新し、地理情報システム(GIS)を使用してインターネット(Ceis Net/http://www2.kaiho.mlit.go.jp/)で提供していきます。
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