海上保安レポート 2009
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はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


特集3 海保の海賊対策〜人類共通の敵への対応〜 > 3. ソマリア周辺海域の海賊対策
特集3 海保の海賊対策〜人類共通の敵への対応〜
3 ソマリア周辺海域の海賊対策
1.背景

欧州とアジアを結ぶ世界の海上輸送路の要衝であるソマリア沖・アデン湾においては、昨今、海賊が商船を襲撃する事件が頻発しており、我が国経済や国民生活に必要な物資の安定輸送に大きな影響を及ぼしかねない状況になっています。

2.対策

海賊対策は、海賊行為の予防及び鎮圧や海賊の逮捕及び捜査といった警察活動、国際的な枠組み作りや国際協力といった取組み等から構成される総合的な取組みであり、海上保安庁においては、次のような取組みを積極的に実施しています。

(1)ソマリア周辺海域派遣捜査隊の同乗
ソマリア派遣捜査隊任命式
▲ソマリア派遣捜査隊任命式
海上自衛隊及び海上保安庁による海賊対策に係る合同訓練(2月20日)
▲海上自衛隊及び海上保安庁による
海賊対策に係る合同訓練(2月20日)
護衛艦が海賊対策のため出港(3月14日)
▲護衛艦が海賊対策のため出港(3月14日)

海賊事案への対処は、海上における人命・財産の保護、治安の維持等について一義的責務を有する海上保安庁の任務であります。しかしながら、ソマリア周辺海域に巡視船を派遣することは、日本からの距離、海賊が所持する武器、各国では軍艦等が対応していること等を総合的に勘案すると現状においては困難な状況です。

このような状況を踏まえ、平成21年3月、海上警備行動が発令され、自衛隊が派遣されることとなりました。海上保安庁では、派遣される護衛艦に「ソマリア周辺海域派遣捜査隊」として、海上保安官8名を乗船させ、海賊の逮捕、取調べ等といった、海賊に対する司法警察業務に的確に対処していくこととしています。

また、我が国の経済社会及び国民生活における船舶航行の安全確保の重要性並びに国連海洋法条約の主旨にかんがみ、海賊行為の処罰及び海賊行為への適切かつ効果的な対処のために必要な事項を定め、海洋における公共の安全と秩序維持を図ることを目的とした「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」が、平成21年第171回国会(常会)に提出されています。

国際社会の対応

欧米のみならず、中国、韓国のアジア諸国等も部隊を派遣し、海賊しょう戒、民間船のエスコート等に従事しています。また、国際連合安全保障理事会においては、ソマリア沖の海賊行為の防止に向け、ソマリア領内で必要とされる「あらゆる措置を執ること」の決議が採択されています。

(2)ソマリア周辺諸国の海上法執行能力向上のための人材育成支援等

海上保安庁では、ソマリア周辺諸国の海上法執行能力向上のための人材育成支援として、平成20年10月に、独立行政法人国際協力機構JICA)の協力のもと「海上犯罪取締研修」を開催し、ソマリア周辺諸国の海上保安機関であるイエメン沿岸警備隊幹部職員等を我が国に招へいし、海賊対策をはじめとする海上犯罪の取締りに必要な知識・技術の移転を行っています。

また、平成21年2月には、イエメン沿岸警備隊主催の「ソマリア沖・アデン湾海賊対策に係る地域海上安全保障会議」に職員を参加させ、今後のソマリア周辺諸国に対する各国の支援のあり方等について議論を深めています。

海上保安庁としては、今後も、「海上犯罪取締研修」への関係国海上保安機関職員の招へい等、実施可能な支援を検討していきたいと考えています。

(3)国際会議への参加

平成20年12月に採択された国連安保理決議第1851号により、ソマリア沖での海賊の抑止のための関係国・関係機関との調整のためにコンタクト・グループが設置され、平成21年1月、第1回会合が米国にて開催されました。同会合においては、ソマリア沖での海賊行為の防止のための重要検討事項が抽出され、これらの重要事項を検討するため4つのワーキンググループが設置されました。

海上保安庁においては、これらの国際的な会議に参画するなどして、引き続き、ソマリア沖海賊対策に必要な情報収集、情報交換を行っていきたいと考えています。


「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」の概要
※第171回国会(常会)提出時点
海賊行為の定義
  • 船舶(軍艦等を除く。)の乗組員等が、私的目的で、公海又は我が国領海等において行う。
    (1)船舶強取・運航支配、(2)船舶内の財物強取等、(3)船舶内にある者の略取、(4)人質強要、(5) (1)〜(4)の目的での船舶侵入・損壊、他の船舶への著しい接近等、凶器準備航行の行為
海賊行為に関する罪
  • 上記の海賊行為をした者は、その危険性・悪質性に応じた刑に処する。
海上保安庁による海賊行為への対処
  • 海賊行為への対処は海上保安庁が必要な措置を実施する。
  • 海上保安官等は、警察官職務執行法第7条の規定による武器使用のほか、他の船舶への著しい接近等の海賊行為を制止するため、他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器使用(停船射撃)ができる。
自衛隊による海賊行為への対処
  • 防衛大臣は、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て海賊対処行動を命ずることができる。承認を受けようとするときは原則、対処要項(海賊対処行動の必要性、区域、部隊の規模、期間等を記載)を内閣総理大臣に提出する。
  • 内閣総理大臣は、承認をしたとき等には、国会報告を行う。
  • 自衛官に海上保安庁法の所要の規定、武器使用に関する警察官職務執行法・本法の規定を準用する。