海上保安レポート 2009
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はじめに


TOPICS 海上保安の一年

特集


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

領海等を守る

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

交通の安全を守る

海を繋ぐ


目指せ!海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 災害に備える > 1. 事故災害対策
災害に備える
1. 事故災害対策
目標
 船舶の衝突、乗揚げ、沈没等により油や有害液体物質等が海上へ流出するような海難が発生すれば、船舶交通に支障が生じるだけでなく、付近の環境を破壊するなど様々な被害が発生します。
 海上保安庁では、これらの海難に伴う海洋への油や有害液体物質の流出等の事故災害の予防に努めるとともに、事故災害発生時の被害を最小限に抑えることを目標としています。
平成20年の現況

平成20年には、海上保安庁は油流出事故222件に対応しました。事故件数を船種別に見ると、事故発生時に海洋環境への影響の大きいタンカーは10件で全体の約5%を占めています。

また、平成20年には、船舶火災が86件発生しました。船舶火災件数を船種別に見ると、漁船が45件と全体の約52%を占めています。

海上保安庁では、消火や延焼防止のための措置として、消防船艇をはじめとする消防能力を有した巡視船艇を配備して船舶火災に備えています。また、事故災害への対 処能力を向上させるとともに、事故発生時における関係機関との連携を強化することが重要です。平時から、関係省庁はもとより、独立行政法人海上災害防止センター等の防災関係機関や民間団体と連携し、流出油防除資機材の取扱いや火災消火等の合同訓練を行うなど、官民一体となった海上防災体制の充実に努めました。

このほかに、大規模油流出事案等への対応は、近隣諸国との連携も重要であることから、中国、韓国及びロシアの関係機関との油防除にかかる合同訓練に参加するなど、国際的な連携を図りました。

また、万一の油流出事故には、あらかじめ沿岸域の情報を収集・整理しておくことも重要となります。このため、日本全国の沿岸域における地理・社会・自然・防災情報等を「沿岸海域環境保全情報」として整備・更新し、地理情報システムGIS)を使用してインターネット(Ceis Net)で提供しています。

爆発・炎上する台船と消火活動中の消防艇「きよたき」
▲爆発・炎上する台船と消火活動中の消防艇「きよたき」
関門港台船爆発・炎上事故

平成20年11月4日、福岡県北九州市関門港太刀浦において、係留中の台船が、自船で実施した溶接作業中に爆発・炎上し、乗組員9名のうち1名が負傷する事故が発生しました。海上保安庁では、直ちに消防艇などの巡視艇を出動させ消火活動等を実施し、約4時間後、付近船舶へ延焼させることなく鎮火に成功しました。

今後の取組み
(1)流出油及び有害液体物質の防除対策の強化

海上保安庁では、油や有害物質等の流出事故が発生した場合には、これらの防除に関する防除方針を作成し、原因者等による防除措置が適切になされるよう指導、助言等を行っていきます。また、緊急を要する場合や原因者のみで対応できない場合は、海上保安庁自らが保有するオイルフェンスや大型油回収装置等の資機材を使用して防除措置を実施し、被害を最小限にする措置を講じていきます。

平成19年6月14日にはOPRC-HNS議定書が発効し、これまでOPRC条約により油のみであった汚染事故の対象物質がHNSにまで拡大され、HNSによる汚染事故についても迅速かつ的確な対応がとれる体制を確保することとなりました。海上保安庁では、ガス検知器や密閉式防護衣等のHNS対応資機材を充実させると共に、物質の性状等に応じた防除措置や原因者への指導・助言が適切に行えるよう機動防除隊員等へ研修を実施するなど、油等の排出事故に対し迅速かつ効果的に対処し得る体制の確立を図っていきます。さらに、海上保安庁では、「油等汚染事故に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」の事務局として、関係機関との連携を強化し、油等汚染事故への準備及び対応について積極的に取り組んでいきます。


●主な合同訓練(事故災害)
主な合同訓練(事故災害)

(2)国際協力体制の構築

大規模な油等の流出事故が発生した場合、その影響は複数の国に及ぶことがあり、被害を最小限にするためには、各国連携して事故対応にあたることが必要です。

このため、海上保安庁では、船舶に起因する海洋汚染の防止に関する国際条約の作成・改正等を行う「国際海事機関海洋環境保護委員会」等の関係会議に必要に応じ出席するとともに、日本海及び黄海における海洋環境の保全を目的として近隣諸国と進める「北西太平洋地域海行動計画NOWPAP)」へ参画するなどして、事故発生時に関係国が協力して対応できる体制の構築にも努め、国際的な連携を図っていきます。

また、近隣諸国との合同油防除訓練の実施や国際協力機構JICA)を活用した油等の防除分野における外国機関の職員に対する人材育成等を通して、関係国との協力体制を充実強化していきます。


(3)消防体制の確保
有害物質の防除措置を行う機動防除隊
▲有害物質の防除措置を行う機動防除隊

消防船艇をはじめとする全国各地の消防能力を有する巡視船艇を有効に運用し、海上における消防体制の確保に努めていきます。また、海上交通安全法に定める航路を航行する原油、LNG等の危険物を積載した大型タンカーに対しては、同法に基づき、消防設備を有した船舶の配備の指示等を実施します。これらの船舶に火災が発生した場合に備え、職員に対する消防研修も実施するなど、大規模火災に対応できる体制の確保に努めていきます。

●沿岸海域環境保全情報の表示例(Ceis Nethttp://www2.kaiho.mlit.go.jp/)
沿岸海域環境保全情報の表示例

(4)原子力災害の防災対策
炎上する漁船への消火活動
▲炎上する漁船への消火活動

原子力災害が発生した場合、海上において救助・救急活動、モニタリングの支援等を実施します。このため、専門機関における海上原子力防災研修を職員に受講させ 放射線測定器等の取扱いを習熟させます。また、現有する放射線測定器等の維持管理、米国原子力艦の寄港地における放射能調査、関係機関との連携の強化等を引き続き図っていきます。

(5)漂流予測・沿岸海域環境保全情報の充実

流出油等の挙動を適切に予測し、漂流・拡散を最小限にするため、漂流予測を活用しています。この精度向上のため、測量船等により気象や海象(海流、水温等)の 情報をリアルタイムで収集します。また、相模湾や伊豆諸島において防災や環境保全等に役立てるため、海水の流れをリアルタイムに観測する海洋短波レーダー等を活用します。

また、沿岸海域環境保全情報の整備・更新を引き続き行います。


●海洋短波レーダーにより観測された海流図
海洋短波レーダーにより観測された海流図