海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

2.大規模海難ゼロに向けて

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

1. 安全性と効率性が両立した
船舶交通環境の維持・向上

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 航海を支える > 1. 安全性と効率性が両立した船舶交通環境の維持・向上
航海を支える
1. 安全性と効率性が両立した船舶交通環境の維持・向上
目標 Target
 海上保安庁では、近年の海上輸送の高速化、大型化に伴い、船舶交通が特にふくそうする東京湾、伊勢湾、瀬戸内海及び関門港(以下「ふくそう海域」という。)において、航路を閉そくするような大規模海難の発生数ゼロと、死者・行方不明者を伴う海難船舶隻数の減少を目標に掲げ、海難の未然防止に努めています。
平成19年の現況
  ▲神子元島(静岡県)での乗揚げ事故
▲神子元島(静岡県)での乗揚げ事故
(1) 海難発生状況について
 平成19年に航路を閉そくするような大規模海難は発生していませんが、海難船舶隻数は2,579隻であり、平成18年に比べ35隻増加しました。また、死者・行方不明者を伴う海難船舶隻数は59隻で、平成18年に比べ8隻減少しました。
 発生状況としては、見張り不十分や操船不適切といった運航者の基本となる安全意識が欠如した乗揚げ、衝突海難が目立ちました。例えば、静岡県神子元島において、1か月間に2隻の貨物船が乗揚げした海難や、伊豆大島沖合で外国貨物船と外国コンテナ船が衝突し、2隻がL字型を成した衝突状態のまま約3日間漂流するといった海難が発生しています。
 過去5年間の海難隻数は横ばい状態にありますが、死者・行方不明者を伴う海難隻数は漸減しています。
▲伊豆大島沖合での衝突事故
▲伊豆大島沖合での衝突事故
▲伊豆大島沖合での衝突事故
御前埼灯台(静岡県)
▲御前埼灯台(静岡県)
(2) ふくそう海域における安全対策について
 ふくそう海域では、海上交通センターにて航行船舶の動静把握や航行管制を行い、航路及びその周辺海域に常時配備している巡視船艇と連携し、航行船舶の安全に必要な情報の提供や不適切な航行をする船舶に対して指導を行ったほか、海上交通関係法令に違反した船舶に対しては、徹底した取締りを実施しました。
 また、東京湾では長い間船舶交通の障害となっていた「第三海堡」の撤去工事が完了し、伊勢湾では伊勢湾海上交通センターが平成15年に運用開始したことや中山水道開発保全航路の浚渫工事が完了したこと、一定の大きさ以上の船舶に対するAISの搭載が義務化されたことなど船舶交通を取り巻く環境が大きく変化しました。
 このような新たな海上交通環境に対応するため「海上交通安全法施行規則」の改正等を行い、東京湾では浦賀水道航路における航路横断制限区間の廃止や航路航行義務区間の見直しなどを、伊勢湾では伊良湖水道航路における航路航行義務区間の特例廃止等を行いました。
(3) 各種海難防止対策について
(1)海難防止思想の普及
 平成18年は発達した低気圧の来襲により、多数の死者を伴う船舶海難が多発しました。また、死者・行方不明者を伴う船舶海難のうち気象・海象に対する不注意を原因としたものが全体の約4割を占めました。
 このため、海難防止対策として、平成19年7月16日から31日までの間、官民一体となって展開した平成19年度全国海難防止強調運動においては、「気象海象の早期把握と適切な対応」をキーワードに掲げ、広く国民の皆さんに対し注意を呼びかけるなど、これまでの海難調査の分析結果に基づき、各種船舶や地域の特性を踏まえた安全指導等を実施し、海難防止思想の普及等に努めました。
(2)外国籍船に対する海難防止対策
 我が国周辺海域の地理や気象・海象、航法等に不案内な外国人船員が乗り組んでいる外国籍船の海難を防止するため、我が国周辺の気象・海象の特性やその情報の入手方法、ふくそう海域における航法及び航路標識の設置状況等について、外国語版リーフレットを配布するなどして周知徹底を図りました。
 特に冬季の日本海では、近年、木材流出事故が多発していることから、外交ルートを通じ関係国へ木材流出事故防止について申し入れを行ったほか、11月を海難防止指導強化月間として日本海側の港に入港する木材運搬船に対して集中的に周知・指導を実施しました。
(3)台風等特異気象時における海難防止対策
 台風等特異気象時の海難を未然に防止するため、最新の気象・海象情報の早期把握や荒天時における早期避難等の適切な対応について指導を行うなど、安全対策の徹底を推進しました。
 また、平成18年10月に大型貨物船の座礁事故が相次いだ鹿島港では、関係行政機関等で構成する「現地連絡会議」にて再発防止策の検討を行い、低気圧接近時における避難勧告基準の新設や連絡体制の確立等を行いました。平成19年には、避難勧告を4回発令し再発防止に努めました。
(4) 航路標識等の整備について
 平成15年から順次導入してきたAISを活用した次世代型航行支援システムが平成19年12月に大阪湾海上交通センター(兵庫県)での運用を開始したことにより、ふくそう海域AIS網で切れ目なくカバーすることとなりました。また、視認性や識別性に優れた航路標識の整備を実施しました。
■AISカバーエリア図
AISカバーエリア図
今後の取組み
(1) AISを活用した新たな安全対策
 海上保安庁では、船舶の高速化等海上交通環境の変化に対応し、航行船舶の安全を確保するため、AISを活用した次世代型航行支援システムの整備等を踏まえ、平成19年9月に新たな船舶交通安全政策について交通政策審議会に諮問しました。今後、海難事故等を踏まえた制度等の適切な見直しや港内交通管制の効率化及び強化、新たな航路標識制度の創設等について検討を進めることとしています。
■AISメッセージによる情報提供イメージ
AISメッセージによる情報提供イメージ
(2) 海難防止思想の幅広い普及
 海難を防止するためには、船舶運航者をはじめとする海事関係者やマリンレジャー愛好者、さらには国民一人一人の海難防止に関する意識を高めることが重要です。
 このため、海上保安庁では、訪船指導や海難防止講習会等のあらゆる機会を通じて海上交通ルールの遵守、安全運航の励行を引き続き指導していきます。特に、毎年7月には「海難ゼロへの願い」をスローガンに、官民一体となって「全国海難防止強調運動」を実施するほか、地域の特性を踏まえた「地方海難防止強調運動」を実施し、船舶運航に携わる方々はもとより、国民の皆さんに対しても広く海難防止を呼びかけ、海難防止思想の普及を図ります。
訪船指導 海難防止講習会
▲訪船指導 ▲海難防止講習会
(3) 航路標識の整備及び機能維持

(1)AISを活用した次世代型航行支援システムの運用・整備
 我が国の沿岸海域をAIS網で切れ目なくカバーするため、ふくそう海域に加え、平成19年度に整備した北海道、東北、北陸、山陰沿岸海域においてAISを活用した次世代型航行支援システムの運用を開始するほか、南九州及び南西諸島海域に整備し、平成21年度の全国運用を目指します。
(2)ふくそう海域における航路標識の高規格化整備
 ふくそう海域における航行船舶の指標となる航路標識の視認性や識別性を向上させるため、航路標識の高規格化整備を進めます。
 高規格化とは、標識の浮体(ブイ)と重りをチェーンで繋ぐ方式から、パイプと最小限の連結具を用いて繋ぐ方式へ変更するもので、潮流等による振れ回りが大幅に軽減されるため、船舶運航者は、航路幅を広く活用できるだけでなく、航路をより直線的に表示できることから、航路がよりはっきりと確認できるようになります。

■航路標識の高規格化
航路標識の高規格化
(3)航路標識の省エネ・エコロジー化
 地球温暖化の防止など自然環境に配慮し、航路標識の電源に太陽電池等自然エネルギーを導入するよう努めています。これら自然エネルギーを利用した航路標識は、災害発生時の停電等に左右されることなく安定的に電源供給が行われるため信頼性が向上します。
 また、航路標識用光源には、これまで白熱電球を多く使用してきましたが、省電力タイプの効率的な光源が開発されたことから、これらを積極的に導入します。
 平成20年度はこうした取組みを200か所で実施し、航路標識の省エネ・エコロジー化を図ることにより、航路標識からの二酸化炭素排出量を低減し、地球温暖化の防止に努めます。平成20年3月末現在、自然エネルギー化は全航路標識の約69%で実施しています。
(4)航路標識の機能維持(防災・安全対策)
 大規模地震発生時には、被災地での救助、救援活動や緊急物資の輸送等において、海上輸送が重要な役割を担います。
 このため、災害に強い航路標識を整備し、災害発生時の海上輸送の安全を確保を図っていきます。平成20年度は航路標識施設の耐震、耐波浪補強を11か所で実施します。
(4.) 海上交通に関する法秩序の維持
 海域利用の多様化、海上交通の複雑化に対応して船舶交通の安全を確保するため、基本的な海上交通ルールとして海上衝突予防法を定めています。また、船舶交通がふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海の三海域には海上交通安全法を、入出港船舶が多い港内には港則法を、それぞれ海上衝突予防法の特別法として定めています。これら法令の適切な運用と励行によって海上交通の秩序の維持が図られています。
 このような法制度のもと、海上保安庁は適時適切な情報の提供や指導に努めているところですが、安全意識を欠いた船舶運航者が見受けられるのも事実です。このため、海難発生の原因となる悪質な法令違反に対しては、徹底した取締りを実施していきます。
■航路標識の省エネ・エコロジー化
航路標識の省エネ・エコロジー化