海上保安レポート 2008

●はじめに


特集1 海上保安庁 激動の10年

特集2 海洋基本法を見据えた海上保安庁の取組み〜新たな海洋立国の実現に向けて〜

1.体制を充実させて

2.海洋調査により海を拓く

2.大規模海難ゼロに向けて

特集3 海上保安庁のあゆみ


海上保安庁の任務・体制


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海を繋ぐ


目指すは海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編


本編 > 生命を救う > 1. 海難救助
生命を救う
1. 海難救助
目標 Target
 海上保安庁では、海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を平成22年までに年間220人以下とすることを目標に掲げ、これを達成するため航空基地等への機動救難士の配置による海難救助体制の強化等各種施策に精力的に取り組んでいます。
平成19年の現況
救急救命士による手当
▲救急救命士による手当
 平成19年の海難及び船舶からの海中転落による要救助者数は17,301人で、自力又は救助機関等により救助されたのは17,076人(救助機関等によるもの5,324人)であり、このうち1,977人を海上保安庁が救助しました。救助に至らなかった死者・行方不明者数は225人で、平成18年と比較して49人減少しました。
 ライフジャケット着用率は52%で、平成18年より10%向上するとともに、海難等の発生から2時間以内に情報を入手する割合も75%で平成18年より3%増加しました。
 また、緊急通報用電話番号「118番」による海難等発生情報の第一報は1,023件(全体の40%、平成18年度は1,013件、全体の37%)で、そのうち791件が携帯電話からの通報でした。
 これらは、目標の実現に向け安全意識と自己責任意識の高揚を目指し「ライフジャケットの着用率の向上」と「海難等発生情報の早期入手」を重点に全国海難防止強調運動等を通じて広く啓発活動を行ったこと、関西空港海上保安航空基地(大阪府)の機動救難士を4名増員するなど救助体制の充実強化を図ったこと、携帯電話の普及とともに、国民の方々に「海のもしもは118番」が徐々に浸透してきた成果と考えられます。
■海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移
海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数の推移
■ライフジャケット着用率の推移
ライフジャケット着用率の推移
■118番第1報とそれ以外の通報による情報入手時間の違い
118番第1報とそれ以外の通報による情報入手時間の違い
今後の取組み
 海上保安庁では、海上における遭難者を一人でも多く救助するために、海難情報の早期把握、救助勢力の早期出動に努め、体制の整備、平素からの訓練等の積み重ねにより救助能力の向上を図るとともに、安全意識の啓発とライフジャケットの着用を推進し、目標の達成を目指します。
(1) 海難情報の早期把握
 海難発生情報等を速やかに入手できれば、遭難者の迅速な救助の実現につながります。そのため、海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番」を運用しており、船舶電話や携帯電話等から「118」をダイヤルすると、直接海上保安庁へ事件・事故の通報や救助要請をすることが可能となっています。また、平成19年4月からは、目印になるものが少ない海上において、正確に通報者の位置を把握するために「緊急通報位置情報表示システム」を導入しており、携帯電話等から当庁へ寄せられる音声通報と併せて位置情報通知を受信し、電子海図上に表示させることで、海難救助等への対応時間の短縮を図っています。
 さらに、海上保安庁では、世界中のどの海域からでも遭難した船舶が衛星通信等を利用して救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、無線通信による海難情報の受付を24時間体制で運用しています。
 この他、日米SAR協定に基づき我が国が捜索救助活動に責任を負う北緯17度以北、東経165度以西の広大な海域において、通報船舶の動静を把握し、責任海域における海難救助の効率化を図ることを目的とした制度である日本の船位通報制度(JASREP)の運用を行っています(平成19年参加船舶2,712隻)。さらに米国の船位通報制度(AMVER)と連携して、日米間の海域では空白のない通報体制を構築しています。 
 海上保安庁では、このようなシステムや制度を活用しながら、引き続き海難情報の早期把握により、レスポンスタイムの短縮に努めていきます。
(2) 救助勢力の早期出動
 巡視船艇・航空機等の救助勢力は24時間の即応体制をとっており、海難発生情報を入手した場合には、迅速に現場に駆けつけ救助活動を実施できるようにしています。しかしながら、巡視艇が1隻しか配備されていない部署では、乗組員の休養日等に海難等が発生した場合、緊急出動体制に不備が生じたり、海難等への初動が遅延するなどの問題がありました。そこで、平成20年1月から34部署の巡視艇に複数クルー制を導入しています。複数クルー制については、引き続き拡充することとしており、年間を通じてより迅速な緊急出動体制を確保していきます。
 さらに、日頃から警察・消防機関や民間救助組織の効率的な連携等によるレスキューネットワークの構築に努め、迅速かつ的確な救助活動を実施していくほか、我が国周辺海域で発生した海難に関し、中国、韓国、ロシア、米国といった関係国の救助調整本部(RCC)と協力し、救助活動を合同で実施するなど連携を図っていきます。
(3) 救助能力の向上
潜水捜索
▲潜水捜索
吊り上け救助
▲吊り上け救助
 現場に到着した救助勢力には、遭難者を迅速にしかも安全に救助するための救助能力が求められます。
 このため、困難な条件下においても救助するための高度な知識・技能を有する特殊救難隊員、潜水士や救急救命処置を行うことができる救急救命士の資格を有した海上保安官を養成していきます。救急救命士については、実施する救急救命業務の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制の充実・強化を図ります。
 また、海上保安庁では我が国周辺で発生した海難及び人身事故の約95%が、沿岸から20海里(約37km)以内の海域で発生していることから、沿岸海難等の対応が重要であると考えています。これを踏まえ、ヘリコプターの機動性、高速性及び吊り上げ救助能力を活用し、レンジャー救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士を沿岸海難が多発する海域を管轄とする航空基地等に配置しています。平成20年度には4名増員することにより、沿岸海域での迅速な救助、救急救命処置が実施できる人命救助体制の強化を図ります。
 さらに、海潮流等により遭難者の位置が刻々と変化する海上において救助勢力を最短時間で到着させるために、高精度な漂流予測システムを活用しています。これにより、捜索区域、救助方法等の決定など、より迅速かつ的確な救助活動の実施に努めていきます。
(4) ライフジャケット着用の推進
ライフジャケットの着用指導
▲ライフジャケットの着用指導
 海中に転落した遭難者が無事に生還するためには、まず、海に浮かんでいることが必要となり、これによる体力の消耗を抑え、救助船の到着を待つことが重要です。このため、ライフジャケットの着用は必須であり、なお一層の推進を図ります。特に平成19年における海中転落による死者・行方不明者のうち約6割は漁船に関係するものであり、漁業者のライフジャケット着用率も約3割と低調でした。平成20年4月1日から一人乗り漁船のライフジャケット着用義務が拡大されたことなども踏まえ、漁業者を対象とした海難防止講習会等を通じライフジャケット着用の推進や安全意識の啓発を重点的に実施していきます。
Report file 4
野島埼南方で海上自衛隊イージス艦と小型漁船が衝突、乗組員2名が行方不明
 平成20年2月19日午前4時頃、野島埼の南方約42kmの海上で、千葉県勝浦市川津漁港を出港し御蔵島東方海域ではえ縄漁の予定であった漁船「清徳丸」(総トン数7.3トン、乗組員2名)と、横須賀港に帰港中のイージス艦「あたご」(基準排水量7,700トン、乗組員281名)が衝突し、「清徳丸」の船体が2つに分断され浮流しました。この衝突により「清徳丸」の乗組員2名は行方不明となりました。
 海上保安庁は、本庁(東京都)に「護衛艦あたご・漁船清徳丸衝突海難対策室」、第三管区海上保安本部(神奈川県)に同じく衝突海難対策本部を設置し、3月2日までの間、巡視船艇延べ52隻、航空機延べ34機、特殊救難隊員延べ36人を出動させ、海上自衛隊、水産庁、千葉県、海洋研究開発機構等とも協力し、全力を挙げて行方不明者の捜索に当たりました。
(左)衝突で分断した清徳丸の船首部 (右)船首部の捜索にあたる特殊救難隊員
▲(左)衝突で分断した清徳丸の船首部 (右)船首部の捜索にあたる特殊救難隊員