海上保安レポート 2021

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 現場「第一線」


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力
7 海をつなぐ
CHAPTER I. 各国海上保安機関との連携・協力

犯罪は国際犯罪組織が関与するものも発生し、事故・災害は大規模化する傾向にある中、一つの国の管轄権が行使できる海域には制約があります。

海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海でつながる諸外国と連携・協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、諸外国との合同訓練や共同パトロール等を通じ、これら海上保安機関間の協力関係を実質的な活動に発展させるよう主導し、さまざまな分野で連携・協力を図っています。

多国間での連携・協力
1 世界海上保安機関長官級会合(Coast Guard Global Summit) ※令和2年度にあっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、中止。

海洋の安全と平和、そして美しい海洋環境は、国際社会の繁栄に不可欠なものです。一方、近年は、地球規模での自然環境や社会環境の変化により、海洋においても、大規模な自然災害による被害や、薬物犯罪等国境を越える犯罪の脅威が拡大しています。このように地球規模の課題が拡がる中で、平和で豊かな海を次世代に継承していくためには、平和と治安の安定機能としての役割を担う海上保安機関が世界的に連携し協力することが強く求められるようになってきました。

こうした背景の下、世界の海上保安機関が地域の枠組を超え、法の支配に基づく海洋秩序の維持等基本的な価値観を共有し、世界規模で力を結集してこれらの課題に取り組むため、海上保安庁は、平成29年9月、世界各国の海上保安機関等のトップが一堂に会する「世界海上保安機関長官級会合」を世界で初めて、日本財団との共催により実現しました。

世界34か国1地域、38の海上保安機関等の長官級が参加したこの会合では、世界中の海上保安機関間における対話と連携・協力の強化、その知恵や先進的な取組を共有することの重要性を確認しました。

令和元年11月には、史上最大規模となる、世界75か国、84の海上保安機関等の長官級をはじめ190名以上が参加した「第2回世界海上保安機関長官級会合」を海上保安庁と日本財団の共催により東京において開催しました。この会合によって、世界各国の海上保安機関が、“the first responders and front-line actors”(海上で「最初に」「最前線で」活動する機関)として直面する地球規模の課題を克服するためには、引き続き共通の行動理念の理解を深め、全世界の海上保安能力を向上させることが重要であり、そのためにこの会合を継続して開催すること、地球規模の課題に対応するための人材育成に向けた取組に着手すること、先進的な成功事例及び経験等の情報を共有するためのウェブサイトの創設に向けて具体的な検討を行うこと等に合意しました。

令和2年は、第2回長官級会合において合意された各種検討を進める一方、新型コロナウイルス感染症の影響により、実施予定であった「第2回世界海上保安機関実務者会合」が延期され、令和3年度中に東京で開催される予定となっています。

第2回世界海上保安機関長官級会合の様子-1
第2回世界海上保安機関長官級会合の様子-2
第2回世界海上保安機関長官級会合の様子-3
第2回世界海上保安機関長官級会合の様子-4

第2回世界海上保安機関長官級会合の様子

2 北太平洋海上保安フォーラム(NPCGF) ※令和2年度にあっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、中止。

北太平洋海上保安フォーラムは、北太平洋地域の6か国(日本、カナダ、中国、韓国、ロシア、米国)の海上保安機関の代表が一堂に会し、北太平洋の海上の安全・セキュリティの確保、海洋環境の保全等を目的とした各国間の連携・協力について協議する多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成12年から開催されています。

このフォーラムの枠組の下、参加6か国の海上保安機関は、北太平洋の公海における違法操業の取締りを目的とした漁業監視共同パトロールや、現場レベルでの連携をより実践的なものとするための多国間多目的訓練(MMEX)等を行っています。また、今後の連携・協力の方向性やこれまでの活動の成果について議論するため、例年、長官級会合(サミット)と、実務者による専門家会合を開催しています。

令和元年6月には東京において、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」における海上警備対策と救助対応をテーマとした、多国間多目的訓練を実施しました。10月には、長官級会合がウラジオストク(ロシア)で開催され、参加6カ国が連携して実施する取組及び今後の活動の方向性について議論が行われたほか、海上での犯罪取締り等に関する情報交換も行われ、北太平洋の治安の維持と安全の確保における多国間での連携・協力の推進が確認されました。

令和元年 北太平洋海上保安フォーラムサミットの様子

令和元年 北太平洋海上保安フォーラムサミットの様子

多国間多目的訓練の様子

多国間多目的訓練の様子

3 アジア海上保安機関長官級会合(HACGAM) ※令和2年度にあっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、中止。

アジア海上保安機関長官級会合は、海上保安機関の長官級が一堂に会して、アジアでの海上保安業務に関する地域的な連携強化を図ることを目的とした多国間の枠組であり、海上保安庁の提唱により、平成16年から開催されています。

令和2年4月には、情報共有のプラットフォームとなるHACGAMウェブサイトの試行運用が始まりました。海上保安庁は、アジア地域の諸外国海上保安機関と、ウェブサイトを通じて地域的な連携強化に取り組みます。

第15回長官級会合会合集合写真(於:スリランカ)

第15回長官級会合会合集合写真(於:スリランカ)

二国間での連携・協力
1 アメリカ

海上保安庁は米国沿岸警備隊(USCG)を模範として設立、平成22年には「米国沿岸警備隊と海上保安庁との間の覚書」を署名・交換しました。同覚書に基づき、巡視船艇の相互訪問等の職員交流並びに情報共有・交換を実施しています。令和2年5月には、海上保安庁長官と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官により、電話会談が行われ、両機関の一層の連携強化について認識を一致したほか、両国の新型コロナウイルス感染症の感染拡大の状況や両機関における対応状況について情報共有がなされました。

このほか令和3年2月には、日米の法執行能力の向上を図るとともに、外国海上保安機関への能力向上支援等にも反映させていくことを目的として、海上犯罪の取締りに係る合同訓練を実施しました。

令和2年 海上保安庁長官と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官による電話会談(於:東京)

令和2年 海上保安庁長官と米国沿岸警備隊太平洋方面司令官による電話会談(於:東京)

令和2年 米国沿岸警備隊カッター「ウェイシー」への相互訪問(於:横須賀)

令和2年 米国沿岸警備隊カッター「ウェイシー」への相互訪問(於:横須賀)

令和3年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:小笠原)

令和3年 米国沿岸警備隊との合同訓練(於:小笠原)

2 韓国

海上保安庁と韓国海洋警察庁は、海域を接する両国間における海上の秩序の維持を図り、幅広い分野での相互理解・業務協力を推進するため、平成11年からこれまでに合計18回、日韓海上保安当局間長官級協議を開催しています。

令和2年6月には、第八管区海上保安本部と東海地方海洋警察庁が、10月には第七管区海上保安本部と南海地方海洋警察庁が双方の船艇・航空機を用いた日韓合同捜索救助訓練を実施しました。

令和元年 第18回日韓海上保安当局間長官級協議

令和元年 第18回日韓海上保安当局間長官級協議

3 ロシア

海上保安庁とロシア連邦保安庁国境警備局は、海上での密輸・密航の不法活動等の取締り等に関する相互協力のため、平成12年9月に締結した「日本国海上保安庁とロシア連邦国境警備庁(現ロシア連邦保安庁国境警備局)との間の協力の発展の基盤に関する覚書」に基づき、これまで原則年1回の長官級会合のほか、日露合同訓練等を実施し、協力関係の推進を図っています。

令和2年に開催予定であった長官級会合は延期となっているものの、11月には、第一管区海上保安本部とロシア連邦保安庁国境警備局との間で合同パトロールが実施され、両機関の連携を強化しました。

4 インド

平成11年に発生した、「アロンドラ・レインボー」号(日本人船長・機関長が乗船)がマラッカ海峡で海賊に襲われた事件で、インド沿岸警備隊が海軍と連携して海賊を確保したことを契機に、海上保安庁とインド沿岸警備隊は、平成12年以降、定期的に、長官級会合や連携訓練を実施しています。

令和3年1月には、第6回日印海上保安機関実務者会合をオンライン形式で開催し、ベストプラクティスの共有・課題のフォローアップを実施しました。

長官冒頭あいさつ

長官冒頭あいさつ

令和3年 日印実務者会合(オンライン)

令和3年 日印実務者会合(オンライン)

5 べトナム

平成27年9月、海上保安庁とベトナム海上警察(VCG)は、海上法執行機関として、安全で開かれ安定した海を維持することが両国の繁栄に寄与するとの価値観を共有し、海上保安分野に係る人材育成、情報の共有と交換の維持を目的とした長官級の覚書を締結しました。

令和2年12月には、VCGとの間でオンライン形式による実務者会合を開催し、海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)による研修をはじめとする、ベトナム海上警察に対する今後の支援の方向性について合意しました。

令和2年 日越海上保安機関実務者会合(オンライン)

令和2年 日越海上保安機関実務者会合(オンライン)

6 インドネシア

令和元年6月、海上保安庁とインドネシア海上保安機構(BAKAMLA)は、海上安全に係る能力向上、情報共有、定期的な会合の開催等に関し、両機関の連携強化を目的とした長官級の協力覚書に署名しました。

令和2年7月には、海上保安庁長官とBAKAMLAとの間で、オンライン形式で長官級会合を開催し、両機関の新型コロナウィルス感染症対策について、意見交換を実施しました。

令和2年 日尼海上保安機関長官級会合(オンライン)

令和2年 日尼海上保安機関長官級会合(オンライン)

7 フィリピン

平成29年1月、海上保安庁とフィリピン沿岸警備隊(PCG)は、海上保安に関する人材育成、情報交換など、協力を行う分野を明確化し、両機関の更なる協力・連携関係の強化を目的とした長官級の協力覚書を締結しました。

令和2年11月には、オンライン形式で日比海上保安機関長官級会合を開催し、引き続き、人材育成、海賊対策等の様々な分野で連携・協力を発展させることで一致しました。

令和2年 日比海上保安機関長官級会合(オンライン)

令和2年 日比海上保安機関長官級会合(オンライン)

国際緊急援助活動について

我が国は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において、大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助や災害復旧等の活動を行う国際緊急援助隊を派遣しており、海上保安庁の職員も国際緊急援助隊の一員として派遣され、多くの災害事案等に対応しています。

国際緊急援助隊の活動(令和2年8月モーリシャス沖油流出・座礁船周辺海域の調査)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(令和2年8月モーリシャス沖油流出・座礁船周辺海域の調査)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(令和2年8月モーリシャス沖油流出・油防除に関する研修)JICA提供

国際緊急援助隊の活動(令和2年8月モーリシャス沖油流出・油防除に関する研修)JICA提供

今後の取組

海上保安庁は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の維持・強化のため、二国間・多国間会合や合同訓練等を通じ、各国の海上保安機関との連携・協力を推進していきます。