海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

1 治安の確保 > CHAPTER VII. 海賊対策
1 治安の確保
CHAPTER VII. 海賊対策

全世界の海賊及び船舶に対する海上武装強盗(以下「海賊等」という。)事案は、世界各国や海事関係者の懸命な取組により近年減少傾向にあるものの、依然としてソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等において海賊等の脅威は存続しています。

主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。

海上保安庁では、海賊対処のために派遣されている海上自衛隊の護衛艦への海上保安官の同乗、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等により、海賊対策を実施しています。

令和元年の現況
ソマリア沖・アデン湾の海賊等について

ソマリア沖・アデン湾における海賊等発生件数は、国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によると、令和元年は0件であり、近年は比較的低い水準で推移しています。これは、ソマリア沖・アデン湾における自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動、船舶の自衛措置、民間武装警備員による乗船警備等、国際社会による海賊対策の成果の現れといえます。

しかしながら、ソマリア国内の不安定な治安や貧困といった海賊を生み出す根本的な要因が未だ解決していない状況を鑑みれば、海賊等の脅威は存続しているといえます。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官8名を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年に第1次隊を派遣して以降、令和2年3月末までに合計35隊280名を派遣しています。さらに、令和2年2月には、ジブチ共和国において、関係機関と連携して海賊護送訓練を実施するなど更なる連携強化に取組みました。

また、平成25年11月に施行された「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」に基づき、小銃を所持して警備を行う民間武装警備員の技能確認や対象船舶の我が国入港時の立入確認等、同法の的確な運用に努めています。

海上保安庁では、これらの取組のほか、同海域の沿岸国海上保安機関が自立的に海賊対処等の法執行活動が行えるよう、同機関職員に対する能力向上支援等を行っています。

(ソマリア沖・アデン湾の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、3 ソマリア沖・アデン湾沿岸国に対する支援で詳しく説明していますのでご覧ください。)

東南アジア海域の海賊について

令和元年の東南アジア海域における海賊等発生件数は53件であり、前年より減少しました。地域別においては、特にインドネシア及びフィリピンにおける海賊等発生件数が減少しており、これは各国海上保安機関による海上しょう戒の強化が功を奏したものと見られています。

従来、海賊等は、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等を盗むといった窃盗や海上武装強盗事案が多数を占めていましたが、近年、フィリピン沖のスールー海・セレベス海では船員誘拐や船員への銃撃といった重大な事案も発生しております。

このような状況において、海上保安庁では、平成12年から東南アジア海域等に巡視船・航空機を派遣し、寄港国海上保安機関と海賊対処連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいます。令和元年度においては、巡視船を6月から7月にかけてブルネイ・ダルサラーム国及びインドネシアへ、12月から令和2年2月にかけてインド及びマレーシアへ派遣し、航空機を令和2年1月にマレーシアへ派遣するなど、各国海上保安機関との間で連携訓練等を実施しました。

特にインド及びマレーシアの海上保安機関と実施した海賊対処連携訓練には、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づいてシンガポールに設置された情報共有センター(ISC)も訓練に参加するなど、海上保安機関のみならず国際機関とも連携した訓練を実施しています。そのほか、東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関職員に対し研修等を行うなど、法執行能力向上のための支援に積極的に取り組んでいます。

(東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関への能力向上支援については、1 インド太平洋沿岸国への支援で詳しく説明していますのでご覧ください。)

今後の取組

海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援にも取組み、関係国、関係機関と連携しながら、海賊対策を的確に実施していきます。


ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動

前田 隊長
現場の声

第34次ソマリア周辺海域派遣捜査隊
前田 隊長


第34次ソマリア周辺海域派遣捜査隊
第34次ソマリア周辺海域派遣捜査隊
アデン湾を航行する船舶を護衛する護衛艦さざなみ
アデン湾を航行する船舶を護衛する護衛艦さざなみ

平成21年にソマリア周辺海域で海賊による商船への襲撃が頻発していることを受け始まった「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」(「海賊対処法」)に基づく海賊対策の活動は、海上保安庁、自衛隊、民間船舶会社等の努力によって、10年以上が経過した令和の時代に入っても海賊被害件数を低い水準で抑えることができています。

酷暑のソマリア沖での長期派遣は非常に困難な任務ではあるものの、我々第34次ソマリア周辺海域派遣捜査隊も日本国を代表してその任務の一翼を担い、遠く離れた異国の地で、法執行機関として自衛隊と連携した任務に当たることは重責とやりがいを感じます。