我が国周辺海域において、海上保安庁が直面する多岐にわたる重大な事態は年々多様化しています。刻々と変わりゆく変化の予兆を的確に捉え、国民の皆様の安全・安心をこれからも守り抜くという断固たる決意を胸に、組織一丸となって24時間365日、今この瞬間も日本の海を守っています。
我が国周辺海域を巡る情勢について、尖閣諸島の接続水域では、中国公船をほぼ毎日確認し、領海侵入も繰り返され、中国公船の大型化、武装化、増強も進んでいます。
日本海に目を移すと、大和堆周辺海域では、北朝鮮漁船等による違法操業が後を絶たず、北朝鮮籍とみられる高速艇の巡視船への接近や水産庁取締船との接触事案も発生し、沿岸部では、遭難した北朝鮮漁船の漂着や北朝鮮からのものと思料される漂流・漂着木造船も数多く確認されています。
加えて、我が国の同意を得ない外国海洋調査船による調査活動や激甚化する自然災害など、危機は増大しています。
尖閣諸島は、南西諸島西端に位置する魚釣島(うおつりしま)、北小島(きたこじま)、南小島(みなみこじま)、久場島(くばしま)、大正島(たいしょうとう)、沖ノ北岩(おきのきたいわ)、沖ノ南岩(おきのみなみいわ)、飛瀬(とびせ)等から成る島々の総称です。
尖閣諸島の長期にわたる平穏かつ安定的な維持及び管理を図るため、海上保安庁にて、平成24年9月11日、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南小島の三島を取得し、保有しています。
尖閣諸島周辺の領海の面積は約4,740km2で東京都と神奈川県の面積を足した面積(約4,605km2)とほぼ同じ広さです。また、尖閣諸島周辺の領海・接続水域を四国と重ね合わせると、その広さや形が良く似ています。海上保安庁では、この広大な海域で、昼夜を分かたず、巡視船艇・航空機により領海警備を実施しています。
尖閣諸島周辺の接続水域においては、ほぼ毎日、中国公船による活動が確認されており、平成31年/令和元年1年間の確認日数は282日と過去最多を数えました。また、平成31年/令和元年の4月から6月にかけては、連続確認日数が64日間となり、これは過去最長のもので、領海への侵入も繰り返されています。さらに中国公船の大型化・武装化・増強も確認され、1,000トン級以上の隻数も海上保安庁の約2倍となっています。
海上保安庁では、引き続き、事態をエスカレートさせることなく、国際法や国内法に則り、冷静に、かつ、毅然と対応しています。
魚釣島沖で警戒監視中の巡視船
中国公船(奥)を警戒監視する巡視船(手前)
尖閣諸島周辺海域では、外国漁船による活動も続いています。平成31年/令和元年の領海からの退去警告隻数については、中国漁船は147隻となっており昨年に比べ増加し、台湾漁船については104隻と昨年に比べ減少しています。
平成31年2月に、宮古島海上保安部に配備が完了した規制能力強化型巡視船をはじめとした勢力により、迅速かつ的確に対応しています。
宮古島海上保安部に配備されている規制能力強化型巡視船
外国漁船に退去警告を行う巡視船
尖閣諸島周辺海域における外国漁船の退去警告隻数 (令和元年12月31日現在)
退去警告隻数(中国漁船)
退去警告隻数(台湾漁船)
日本海中央部の「大和堆」は、周囲に比べ水深が浅く、イカやカニ等の日本海有数の好漁場となっています。
近年、大和堆周辺の我が国排他的経済水域(EEZ)では、北朝鮮や中国籍とみられる漁船が違法操業を行っており、同海域で操業する日本漁船の安全を脅かす状況となっています。
背景図:海上保安庁、©Esri Japan
北朝鮮漁船(木造船)に退去警告を行う巡視船
北朝鮮漁船(木造船)に退去警告をする巡視船
北朝鮮漁船(鋼船)に放水をする巡視船
巡視船による放水から退避する北朝鮮漁船(鋼船)
日本のイカ釣り漁船付近を警戒する巡視船
北朝鮮漁船(木造船)に退去警告をする巡視船
北朝鮮漁船(鋼船)に放水をする巡視船
北朝鮮漁船(鋼船)に退去警告をする海上保安官
夜間に巡視船からの放水を受ける北朝鮮漁船(鋼船)
北朝鮮漁船(木造船)に放水をする巡視船
令和元年にあっても、日本のイカ釣り漁の漁期(6月から)を前にして、北朝鮮や中国籍とみられる漁船が大和堆周辺海域に近付くことを未然に防止し、日本漁船の安全を確保するため、5月下旬から大型巡視船を含む複数隻の巡視船を大和堆周辺海域に配備しました。水産庁とも連携しつつ、同海域に接近しようとする北朝鮮や中国籍とみられる漁船延べ1,320隻に退去警告を行い、そのうち252隻は放水により我が国EEZの外側に向け退去させました。
大和堆周辺海域に接近しようとする北朝鮮や中国籍とみられる漁船は、6月をピークに一旦減少し、8月下旬以降は、再び増加する傾向が見られましたが、11月中旬以降、北朝鮮や中国籍とみられる漁船は再び減少し、12月に入り、我が国EEZの外側も含めてほとんど確認されなくなりました。
今後も、北朝鮮や中国籍とみられる漁船の動向と日本漁船の操業状況等、その時々の具体的状況に応じて必要な体制を整え、水産庁等の関係省庁とも連携して対処していきます。
近年、日本海沿岸へ北朝鮮からのものと思料される木造船等の漂流・漂着が相次いでいます。
長大な海岸線を有する我が国において、沿岸域の警戒は重要であり、海上保安庁では、『巡視船艇・航空機による巡視警戒の強化』、『地元自治体や関係機関との情報共有及び迅速な連絡体制の確保の徹底』を行うとともに、漁船や地元住民からの不審事象の通報に関する働きかけを推進し、漂流・漂着木造船等の早期発見に努めているところです。令和元年度には、第二管区海上保安本部・青森海上保安部において機動監視隊を結成し、巡回・パトロールを強化しています。また、漂流・漂着木造船の情報を入手した場合には、海上保安官を向かわせ、船体や船内の状況を詳細に調査するとともに、生存者がいる場合には、徹底した事情聴取を行い、関係機関と連携し、漂流・漂着に至った経緯の確認等を行っています。
海上保安官による漂着木造船の調査状況
背景図:海上保安庁、©Esri Japan
我が国の排他的経済水域等において、外国船舶が調査活動等を行う場合は、国連海洋法条約に基づき、我が国の同意を得る必要があります。
しかし、近年、我が国周辺海域では、外国海洋調査船による我が国の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動(特異行動)が多数確認されています。
海上保安庁では、巡視船・航空機による警戒監視等を行い、特異行動を確認した場合には、活動状況や行動目的の確認を行うとともに、中止要求を実施するなど、関係省庁と連携して、適切に対応しています。
我が国の同意を得ない調査活動を行う中国海洋調査船
我が国の周辺海域において、衝突や転覆、乗揚げ、火災等、様々な海難が発生しています。
海上保安庁では、巡視船艇や航空機を出動させるほか、「特殊救難隊」、「機動救難士」、「機動防除隊」等、高度な専門技術を有するスペシャリストを派遣するなどして、人命の救助や火災の消火、排出された油の防除等、様々な活動を全力で行っています。
平成31年/令和元年においては、2,058隻の船舶事故が発生しました。北海道東方沖においては、日本漁船の転覆海難が相次いだほか、5月には、千葉県東方沖において、貨物船同士の衝突・沈没海難も発生しました。また、台風接近時においても、沖縄県東方沖における貨物船の機関故障・漂流や、石川県西方沖における貨物船の火災、東京湾における貨物船の沈没海難が発生しました。
海上保安庁では、令和元年度、計510隻、1,661人を救助しました。
令和元年9月、沖縄県糸満市喜屋武埼南東約72kmの海上で、パナマ船籍の貨物船「LAKE KONPIRA」(以下、「L号」)の機関が故障し、漂流する事案が発生しました。
現場海域には台風13号が迫っており、暴風が吹き荒れ、高波などにより救助作業は困難を極めましたが、巡視船、航空機、特殊救難隊、機動救難士等の活躍により無事に救助を完遂しました。
那覇航空基地
上席機動救難士
田中 孝幸
激しく揺れるL号船上で安全を確保しながら、言葉が十分に通じない外国人船員と協力して曳航準備作業にあたり、過酷な状況で迅速な作業と判断を求められました。
巡視船「くだか」航海長
秋山 誠
曳航索がいつ切断してもおかしくない中、針路と速力を絶えず微修正しながら、絶対に乗揚げさせないという強い信念を持って作業に当たりました。
四囲を海に面している我が国にあって、海においても、薬物の密輸や国内への密航、暴力団の資金源となる組織的な密漁、船内での窃盗や海洋への廃棄物の不法投棄等、様々な犯罪行為が発生しています。
海上保安庁では、巡視船や航空機等によるしょう戒、海上保安官による旅客船やターミナルの見回り等により犯罪の未然防止を行うとともに、犯罪発生時には、法と証拠に基づき、犯人の検挙に努めています。
令和元年は、薬物の密輸入事犯が相次ぎ発生しました。6月、静岡県賀茂郡において、過去最多の押収量となる覚醒剤の密輸入事犯を摘発したほか、11月には、兵庫県神戸市において、過去最多の押収量となるコカインの密輸入事犯を摘発しました。また、熊本県天草市や愛知県豊橋市においても、覚醒剤やコカインの密輸入事犯を摘発しました。
密航については、7月、福岡県福岡市において、訪日外航旅客船(外航クルーズ船)を利用して、観光目的と偽り、不正に上陸した2名を逮捕しました。
また、密漁事犯については、全国で水産資源の乱獲が後を絶ちません。組織的な密漁として、令和2年3月、広島県福山市において、漁船6隻を使用して、なまこを密漁した8名を逮捕しました。
海上保安庁では、航海安全、海洋権益の確保、防災、海洋環境の保全などのため、測量船や航空機、自律型潜水調査機器(AUV)や自律型海洋観測装置(AOV)等の観測機器を活用し、我が国周辺の広大な海域の調査を実施しています。
また、測量で得られたデータを基に、海図(航海用の海の地図)を作製し、刊行しています。
■平成25年11月20日、海上保安庁が西之島付近の海上において新たな島を確認
■その後、活発な噴火が継続し、新たな島は噴火前の島を覆って大きく拡大
■海上保安庁では、継続的な調査を実施
■平成29年6月、令和元年5月に、噴火による地形の変化を反映した海図を刊行
■令和元年12月、再び噴火活動を確認
近年、集中豪雨や台風等深刻な被害をもたらす自然災害が頻発しています。令和元年も、房総半島台風・東日本台風や8月の前線に伴う大雨等の自然災害が相次ぎ、それに伴う被害も各地で発生しました。
海上保安庁では、自然災害が発生した場合、政府のもと一丸となり、組織力、機動力を活かして、海上においてはもちろん、陸域においても、巡視船艇や航空機、特殊救難隊、機動救難士、機動防除隊等を出動させ、被害状況調査を行うとともに、被災者の救出や行方不明者の捜索を実施しています。
また、地域の状況やニーズに合わせ、SNS等で情報発信を行いつつ、給水支援や入浴支援、支援物資の搬送等を実施しています。