海上保安レポート 2017

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 平和な海の継承〜海上保安庁の使命〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の 任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

7 海をつなぐ > CHAPTER II 諸外国への能力向上支援
7 海をつなぐ
CHAPTER II 諸外国への能力向上支援

主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、海上輸送の安全確保は、安定した経済活動を支える上でも極めて重要です。

しかしながら、世界的にも重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡やソマリア沖・アデン湾では、航行の安全を脅かす海賊事案が発生するなど、航行の安全を脅かす海賊事案が発生しています。

海上保安庁では、東南アジアをはじめとした周辺国に対し、海上保安庁が有する知識技能を伝え、各国の海上保安能力の向上を目指した支援を通じて、海上輸送の安全確保に貢献しています。

平成28年の現況
1 東南アジア諸国への支援

海上保安庁では、東南アジア諸国の海上保安機関に対する海上保安能力向上支援のため、(独)国際協力機構(JICA)や日本財団の枠組みにより、海上犯罪取締り、救難・環境防災等の海上保安分野に関して、東南アジア諸国等の海上保安機関の職員を日本に招へいし、研修を実施しているほか、海上交通等さまざまな分野の専門的な知識を有する海上保安官を専門家として各国に派遣しています。また、東南アジア諸国へ巡視船を派遣し、派遣先国で乗船研修や連携訓練を実施しています。


フィリピンに対する支援

海上保安庁では、フィリピン沿岸警備隊(PCG)に対して支援を実施しています。平成12年から、海上保安行政全般に関するアドバイザーとして、同隊に専門家を派遣しているほか、平成14年から平成24年までの10年間、専門家を追加派遣し、海難救助、海洋環境保全・油防除、航行安全、海上法執行、教育訓練の分野における人材育成支援のためのJICA技術協力プロジェクトを実施しました。平成25年からは、海上法執行実務の能力強化支援のための技術プロジェクトを実施しています。


インドネシアに対する支援

インドネシアでは、平成18年、海軍や海上警察、海運総局等の海上保安行政を実施している様々な機関の業務を調整する、海上保安調整会議(BAKORKAMLA)が設立されました。海上保安庁では、同調整会議の設立以後、平成23年5月まで、海上救難防災対策や同調整会議の体制強化等に関する支援を行ったほか、平成24年1月からは、マラッカ・シンガポール海峡の海上交通安全のために我が国が供与したVTS(船舶通航業務)の運用能力向上のため、運輸省海運総局にJICA専門家として海上保安官を派遣しています。また、同国のVTS運用における実務的素養を育成するため、平成28年5月及び11月には、海上交通センターの運用管制官等を派遣し、VTSの運用及び管制官育成についての技術的支援を実施しました。平成28年10月は、12回目となったアジア海上保安機関長官級会合がインドネシア・ジャカルタにて開催されるのにあわせて、巡視船えちごを派遣し、インドネシアの海上保安機関やインド沿岸警備隊との合同訓練を実施しするとともに、インドネシア海上保安機関との間で海賊情勢・対策に関する意見交換を行いました。

また、同年12月には、インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)との連携・協力関係の発展に関する意見交換を行い、今後の連携・協力関係の発展に向けて協議するための連絡窓口を設定することに合意しました。


インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)の表敬
インドネシア海上保安機構(BAKAMLA)の表敬

マレーシアに対する支援
巡視船「おき」
巡視船「おき」
 
巡視船「えりも」
巡視船「えりも」

マレーシア海上法令執行庁(MMEA)に対して、その設立準備段階であった平成17年から専門家を派遣し、組織体制作りや人材育成のための技術協力プロジェクトを実施しています。平成23年7月からは、海上法執行、海難救助、教育・訓練の分野での能力・体制の強化ために専門家を派遣し、組織犯罪等の情報収集・分析・捜査や特殊救難技術に関するセミナーや講義等を通じた支援を実施しています。

また、平成29年1月には、当庁から初となる外国海上保安機関への巡視船供与が行われ、釧路海上保安部所属巡視船「えりも」及び、境海上保安部所属巡視船「おき」をマレーシア海上法令執行庁に供与し、同国周辺海域の安全確保や能力向上の一助となることに加え、本供与を契機に、両海上保安機関の連携・協力がますます発展することが期待されます。


カンボジアに対する支援

カンボジア唯一の外洋に面した国際港湾であるシハヌークビル港において、我が国の協力により港湾整備等の事業が進められています。海上保安庁は、同港における電子海図の作成について、技術移転を目的とした研修への協力のほか、同事業の推進にあたっての技術的な助言等を行ってきました。平成28年12月には、電子海図作成プロジェクト終了を迎えるにあたり、カンボジア国公共事業運輸省が主催し、プロジェクトの成果を発表するセミナーがシハヌークビルで開催され、当庁からも専門家が参加しました。


シハヌークビルにおけるセミナー
シハヌークビルにおけるセミナー

複数国に対する支援
ASEAN地域訓練センター
ASEAN地域訓練センター
 
VTS管制官育成に関する日ASEAN地域会合
VTS管制官育成に関する日ASEAN地域会合

航行船舶の増大が見込まれ、海難が多発しているASEAN諸国の海上交通安全の確保を目的として、海上保安庁では平成26年から3年間、VTS管制官育成に関する日AESAN地域会合を開催しました。

この結果、VTS管制官育成のためのASEAN全体を対象とした地域訓練センターをマレーシアに設立することとなり、平成29年7月の開講に向けた準備を行っています。今後は、国際基準に合致した訓練を当該センターにて実施し、ASEAN諸国のVTS管制官育成を支援していきます。

また、マラッカ・シンガポール海峡における通航量の増大及び通航船舶の大型化に対応するため、最新技術による同海峡の精密水路測量と電子海図の高度化について、沿岸3か国(マレーシア、インドネシア、シンガポール)からの協力要請を受け、海上保安庁は、水路測量に係る技術的な協力を行っており、平成26年から平成28年に完了するまでは、緊急を要する5海域の精密水路測量が行われました。

さらに、平成29年から平成32年までの4年計画において、上記以外のマラッカ・シンガポール海峡の分離通行帯全域を対象とした水路測量を実施し、電子海図の更新が行われる予定です。



2 各国水路機関への支援

海上保安庁では、昭和46年から40年以上にわたり、JICAと協力し、アジアやアフリカ等の開発途上国において水路測量業務に従事する水路技術者を対象とした集団研修を毎年実施しています。これまでに42ヶ国から約420名の水路技術者が参加し、各国の水路業務分野で活躍する人材を輩出しています。

測量実習
測量実習
六分儀による岸線の測量
六分儀による岸線の測量

平成28年は、6月から約半年間、JICAと協力し、開発途上国で水路測量に従事する技術者(カンボジア、インドネシア、ミャンマー、フィリピン)を対象とした、海図作製能力向上のための研修を開催しました。

本研修は、JICAが実施する本邦研修中で国際的な資格が取得できる唯一の研修で、本研修を終了した研修員には、水路測量国際B級資格が付与され、修了生の多くは各国水路当局の幹部として活躍しています。

海上保安庁は、本研修を通じ開発途上国の海図作製能力を向上させることで、世界における航海の安全に貢献しています。

※水路測量国際B級資格
各国の教育機関が実施する水路測量技術者養成コースに対し、水路測量等の国際基準を定める国際委員会(IBSC)により認定される資格で、国際A級、B級の2つに分かれる。


3 ソマリア沖・アデン湾

海上保安庁では、ソマリア沖・アデン湾の沿岸国に対しても、東南アジア諸国への支援の経験をふまえたさまざまな支援を行っています。

平成28年5月から6月にかけて、JICAの協力のもと、アジア・アフリカ等の海上保安機関の現場指揮官クラスを招へいし、海賊対策をはじめとする海上犯罪取締り能力を強化することを目的とした「海上犯罪取締り」研修を開催しました。この研修は、「海賊対策国際会議」(平成12年4月・東京)の中で合意された「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づき行われるもので、平成13年度の開始から今年で16回目となり、これまでに計24か国1地域、262名を受け入れています。平成20年度以降は、ソマリア周辺海域における海賊対策強化の必要性が高まったことを受け、アジア諸国のほか、中東、東アフリカ諸国の海上保安機関職員を招へいし、国際犯罪の取締り等に関する講義、捜査活動に関する実技等の研修を行っています。

また、海賊の身柄を我が国に護送する必要が生じた場合に、迅速かつ円滑な護送を行うため、平成29年2月には、昨年に引き続き、当庁航空機をジブチ共和国へ派遣して海賊護送訓練等を実施し、更なる連携強化を図りました。


制圧術研修
制圧術研修
捜査資機材取扱い研修
捜査資機材取扱い研修

海賊被疑者の拘束訓練
海賊被疑者の拘束訓練
航空機への護送訓練
航空機への護送訓練

4 海上保安政策課程における能力向上支援
(1)開講に至る経緯

海上保安庁では、平成16年に日本財団と協力のうえ、「第1回アジア海上保安機関長官級会合」を開催し、アジア地域における海上保安分野の課題について広く議論を行いました。

その後、同会合はアジア地域の19か国と1地域が参加して毎年開催され、各国の相互理解の醸成や情報共有に貢献してきました。「まずは人材育成分野の協力を最優先として議論する。」との審議結果と日本財団の強力な後押しを受け、海上保安庁は、「アジア海上保安初級幹部研修(AJOC)」を実施しました。

この研修の実績をふまえ、研修内容をレベルアップさせた新たなプログラムを開設すべく、日本財団との間で検討を行い、政策研究大学院大学と海上保安大学校が連携して実施する1年間の修士課程となる、「海上保安政策課程」を設立することとし、平成27年10月に開講しました。


(2)海上保安政策課程の目的と期待

二期生の授業風景等
二期生の授業風景等

海上保安政策課程は、アジア諸国の海上保安機関の相互理解の醸成と交流促進を通じて、海洋の安全確保に向けた各国の連携協力、そして「力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序」の強化の重要性について認識の共有を図るため、海上保安庁及びアジア各国の海上保安機関の若手幹部職員を対象として、世界で初となる海上保安政策に関する修士号を得るにふさわしいレベルの知識の修得を目的としています。本課程では、その教育を通じ、(1)高度の実務的・応用的知識、(2)国際法・国際関係についての知識・事例研究、(3)分析・提案能力、(4)国際コミュニケーション能力、を有する人材を育成することを目指しています。

平成28年9月、海上保安政策課程の第1期生(日本、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ベトナム)が全課程を修了し、学位記修士(政策研究)が授与されました。本課程を終えた学生には、海上保安分野の国際ネットワーク確立のための主導的役割を担っていくことが期待されます。

現在は本課程においては、第2期生(日本、フィリピン、マレーシア、インドネシア)が、高い知識の修得と共有認識の形成に向け日々研鑽を続けています。


政策課程 構造図
政策課程 構造図

今後の取組み

海上保安庁は、各国の海上保安機関設立時の支援や、長官級による会合を主導するなど、地域の海上保安能力向上にも貢献するとともに、これまで東南アジアの海上保安機関を中心に、世界79か国3地域から延べ1,800名以上の研修員を本邦へ招へいし、24か国へ約700名の職員を派遣しております。今後も、海上保安政策課程をはじめ、各種枠組みを通じた協力・連携を推進し、能力向上に関するさらなる支援を実施していきます。