海上保安レポート 2014

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安庁の精神 正義仁愛


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

5 海を知る > CHAPTER I 海洋調査
5 海を知る
CHAPTER I 海洋調査

海上保安庁では、海上の安全確保、海洋権益の保全、海洋資源の開発・利用といった様々な目的のために海洋調査を実施しています。特に、近年では、我が国の管轄海域や新たな海洋資源の開発・利用等への関心が高まる中、海洋権益保全の基礎となる海洋調査の実施が重要となっています。

平成25年の現況
■1 海洋権益の保全のために

海洋国家である我が国にとって、領海排他的経済水域(EEZ)等の海洋権益を保全することは極めて重要であり、このため、海洋権益の基礎となる海洋情報を収集することが不可欠となっています。海上保安庁では、測量船に搭載されたマルチビーム測深機や最新の調査機器である自律型潜水調査機器(AUV)等により、重点的に東シナ海や日本海といった海域での海底地形や地殻構造等の調査を推進するとともに、航空機に搭載した航空レーザー測深機等により、領海EEZの外縁の根拠となる低潮線等の調査を実施しています。

平成25年に本格的な運用が開始されたAUVによる海底地形調査では、鹿児島県奄美大島沖の海底火山で熱水・ガスの湧出を音響データとして捉えることができ、同海山に熱水活動が存在する可能性が高いことが分かるなど、海上保安庁の海洋調査が資源探査にも貢献しています。また、これまで海上保安庁が行ってきた海底地形調査の結果が実り、世界の海底地形名を公式に定める委員会で、我が国が提案した20件の海底地形名が承認されるなど、海上保安庁が実施する海洋調査の成果が着実に認められています。


■2 海上の安全確保のために

船舶の安全な航行を確保するためには、最新の情報が掲載された海図が必要です。また、海難事故発生時に迅速・的確な救助活動を行うためには漂流予測の精度が重要となります。海上保安庁では、測量船や航空機等を活用して水深や海底地形等の情報収集を行い、海図を最新の情報に更新するとともに、測量船や海洋短波レーダー等により海潮流や水温などの観測を行い、漂流予測の精度向上を図るなど、様々な海洋調査により、海上の安全確保を支えています。


■3 様々な目的のために

海洋調査は、海洋権益の保全や海上の安全確保といった目的のほか、海洋環境の保全や防災のためにも実施されています。

海上保安庁では、海洋環境の変化を的確に把握するため、海水や海底堆積物を採取し、汚染物質や放射性物質の調査を継続的に行っています。また、海底地殻変動観測や海底地形調査、海域火山の監視観測等を実施し、大規模地震発生のメカニズムや海域火山の構造等の解明に役立てています。

今後の取組み

海洋権益の保全のため、今後も引き続き、領海EEZ等における海底地形や地殻構造等の調査を実施するとともに、低潮線等の調査を実施していきます。

また、水深や海底地形、海潮流などの最新の観測結果を海図漂流予測へ反映させることで、より一層海上の安全確保に努めます。

さらに、海洋汚染調査や海底地殻変動観測、海域火山の監視観測など、様々な目的に合わせた海洋調査を実施することで、海洋情報の収集を行います。

小笠原諸島の西之島付近で火山噴火による新島を確認

平成25年11月20日、海上保安庁の航空機が、小笠原諸島に属する西之島の沖合において直径約100mの新島が出現し、噴火活動を行っていることを確認しました。西之島では、昭和48年から49年にかけての噴火以来39年ぶりの噴火となります。海上保安庁では、航海安全確保のため、直ちに航行警報を発出して航行船舶に注意を呼びかけるとともに、観測結果を火山噴火予知連絡会に報告するなど、噴火災害の防止に努めました。

その後も継続して観測を続けており、新たな火口の形成や溶岩の流出により陸地が拡大していることなどを確認しています。12月26日には、西之島の南岸まで溶岩が到達し、新島は西之島と一体となったことを確認しました。

これまでの観測によると、西之島を基点とした領海EEZが広がる位置まで陸地が拡大しています。ただし、拡大した領海EEZの範囲を確定するためには、海上保安庁が刊行する大縮尺海図に低潮線を記載することが必要です。今後火山活動が沈静化し、安全が確認された段階で精密な水路測量を行い、その成果を基に新たに形成された陸地や低潮線海図に記載します。

海上保安庁では今後も継続して観測を続け、西之島の火山活動の推移を見守っていきます。


11月20日撮影 西之島近辺の地図
11月20日撮影
12月13日撮影
12月13日撮影
1月12日撮影 3月24日撮影
1月12日撮影 3月24日撮影
海上保安庁の最新の調査機器

海上保安庁では、目的に合わせ、様々な調査機器を使用して海洋調査を実施しています。ここでは、数ある調査機器の中でも、最新の調査機器である「AUV」と「航空レーザー測深機」について紹介します。


AUVによる調査

AUVとは、「Autonomous Underwater Vehicle(自律型潜水調査機器)」の略で、プログラムされた経路を自動で航走しつつ調査を行う調査機器です。海底近傍まで潜航して調査を行うことから、高精度の海底地形情報を収集することができます。特に、これまでの測量船によるマルチビーム測量では検出できなかった深海域の微細な海底地形も、AUVを用いれば捉えることが可能となります。


◆AUVと測量船による海洋調査の比較
◆AUVと測量船による海洋調査の比較

航空レーザー測深機による調査

航空レーザー測深機は、航空機に搭載し、レーザーパルス波によって海底地形データを収集する測深機です。測量船が進入できない極浅海域での調査が可能で、低潮線等の調査に用いられます。


◆航空レーザー測深機による測深イメージ
◆航空レーザー測深機による測深イメージ