海では海難や船舶からの海中転落等により毎年数多くの命が失われています。海上保安庁では、平成22年までに海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を年間220人以下とすることを目標に掲げています。このため、安全意識の高揚等海難防止思想の普及、機動救難士を配置するなど救助体制の充実・強化、さらには、民間救助組織等との連携・協力等を行い、目標の達成に取り組みます。
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03 生命を救う
CHAPTER1 海難救助
海では海難や船舶からの海中転落等により毎年数多くの命が失われています。海上保安庁では、平成22年までに海難及び船舶からの海中転落による死者・行方不明者数を年間220人以下とすることを目標に掲げています。このため、安全意識の高揚等海難防止思想の普及、機動救難士を配置するなど救助体制の充実・強化、さらには、民間救助組織等との連携・協力等を行い、目標の達成に取り組みます。
平成21年の海難及び船舶からの海中転落による要救助者数は12,655人で、自力又は救助機関等により救助されたのは12,371人(うち救助機関等によるもの4,131人)でした。このうち1,399人を海上保安庁が救助しましたが、救助に至らず死者・行方不明者となった方の数は282人でした。この人数は、平成20年と比較して8人の増加となっています。 また、平成21年のライフジャケット着用率は45%で、残念なことに平成20年より3%減少しています。 緊急通報用電話番号「118番」による海難等発生情報の通報(第一報)は1,176件であり、全体の通報件数の43%を占めています(平成20年度は1,044件、全体の40%)。また、このうち831件が携帯電話からの通報でした。2時間以内に海上保安庁が海難等の情報を入手した割合は、73%で、近年はおおむね横ばいの傾向を示しています。 ライフジャケットの着用は、海中転落者の体力の消耗を抑えることにもつながり、生存の可能性もライフジャケットの非着用時に比べ格段に高まります。また、海難発生時の早期通報が迅速な救助活動につながります。そのため海上保安庁では、海難防止強調運動等において、テレビ、ラジオ及びインターネット等様々な媒体を活用し、広く国民に対して、海に出る際のライフジャケットの着用や海難発生時の「118番」などによる早期通報等の自己救命策確保の推進を図りました。 また、救助・救急体制の充実強化のため、ヘリコプターからの降下・吊り上げ救助技術、潜水能力、救急救命処置能力を兼ね備えた機動救難士の配置を拡充しています。平成21年度は、那覇航空基地に新たに8名の機動救難士を配置し、さらに、平成22年度中に、新潟航空基地に新たに8名の機動救難士を配置します。これで機動救難士の配置される基地は、全国で7箇所となります。 1 海難情報の早期入手
海上保安庁では、緊急通報用電話番号「118番」を運用するとともに、通報者の所在位置を把握するため、「緊急通報位置情報システム」を導入しています。このシステムにより、携帯電話から「118番」通報があった場合には、音声通報と併せて位置情報通知を受信し、電子海図上に発信位置が表示されるため、迅速かつ的確な救助等の対応をとることが可能となっています。 さらに、海上保安庁では、遭難した船舶が世界中どの海域からでも衛星通信等を利用して救助を求めることができる「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度(GMDSS)」に基づき、無線通信による海難情報の受付を24時間体制で運用しています。 海上保安庁では、このようなシステムや制度を活用しながら、今後も引き続き海難情報の早期入手に努め、初動対応の時間短縮に努めていきます。 2 救助・救急体制の充実・強化及び救助・救急能力の向上
海上保安庁では巡視艇の複数クルー制を拡充していくことで、救助・救急体制の充実・強化を図ります。 また、我が国周辺で発生した海難及び人身事故の約9割が、沿岸から20海里(約37キロメートル)以内の海域で発生していることから、機動救難士の航空基地等への配置を拡充し、迅速な救助体制を構築していきます。さらに、高度な知識・技能を有する特殊救難隊員、潜水士、救急救命士の救助・救急能力及び巡視船艇・航空機による救助能力の向上を図っていきます。救急救命士については、処置範囲が拡大する傾向にあることも踏まえ、実施する救急救命処置の質を医学的観点から保障するメディカルコントロール体制(救急救命士の業務執行体制)の充実・強化を図っていきます。 ほかにも、捜索区域や救助方法の決定等、より迅速かつ的確な救助活動のため、漂流予測システムを活用していきます。 3 他機関との協力体制の構築
広い海をカバーするためには、海上保安庁のみで対応するのではなく、日頃から警察・消防等、他の救助機関や民間救助組織と連携・協力することが極めて重要です。 特に、沿岸部で発生する海難に対しては、民間救助組織を育成し、沿岸部に空白のない救助拠点を整備することが重要であるため、(社)日本水難救済会及び(財)日本海洋レジャー安全・振興協会の活動を引き続き積極的に支援していきます。 沿岸部以外についても、我が国周辺海域で発生した海難には、中国、韓国、ロシア、米国といった関係国の救助調整本部(RCC)と協力し、救助活動を合同で実施するなど引き続き連携を図っていきます。 また、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約(SAR条約)」に基づき、任意の相互救助システムである日本の船位通報制度(JASREP)を、米国の通報制度(AMVER)と連携して運用し、引き続き海難救助の効率化を図っていきます(平成21年参加船舶2,653隻)。
4 ライフジャケット着用の推進
海上保安庁では、着用率が低く、海中転落による死者・行方不明者が多い漁船乗船者を中心に、海難防止講習会における指導や、LGL(ライフジャケット着用推進員)の活動の支援等を通じて、ライフジャケット着用について普及・啓発に努めていきます。
緊急通報用電話番号「118番」が運用開始10周年
海上保安庁では、海で発生した事件・事故の緊急通報用電話番号として、警察の「110番」、消防の「119番」のように覚えやすい局番なしの3桁電話番号「118番」を運用しています。「118番」は平成12年5月1日に運用が開始され、本年で運用開始から10年目を迎えました。 平成19年には、携帯電話等の通報から発信位置を迅速に把握することができる「緊急通報位置情報通知システム」を導入し、携帯電話(第三世代と呼ばれる機種)及びIP電話からの通報の場合、位置情報もあわせて通知されるようになりました。目印となる物が極めて少ない海上では、通報者が現在位置を正確に伝えられないため、音声通報と合わせて位置情報が通知されることにより、迅速かつ的確な海難救助活動等が可能となり、要救助者の生存率が高まることにもつながっています。 しかしながら、「118番」は、「110番」等と比較すると、10年目を迎えても、一般国民に十分に浸透しているとはいえません。海上保安庁では、今後も工夫を凝らした積極的な普及・啓発活動を実施し、「118番」が広く一般国民に浸透するように努めていきます。
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