海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 海をつなぐ連携 > 1 国際的な連携・協力のさらなる強化
国際的な連携・協力のさらなる強化
 近年の厳しい国際テロ情勢、東南アジアで多発する海賊、広範囲な被害が予想される大規模油流出 事故等、我が国一国のみの対応では、解決ができない問題が山積しています。そこで、広範な分野で の関係国との連携・協力関係の中で、物理的なボーダーのない海の秩序維持を確保していく必要があ ります。
 さて、ここでは、海上保安庁の業務の中でも、特に、我が国を取り巻く国際情勢と密接な関連を有 する分野について紹介いたします。
近隣諸国との連携協力関係の強化

 我が国を取り巻く海域は、水産資源に富むとともに、主要な貿易航路にもなっており、古くから周辺国の経済活動が幅広く行われてきました。
 このように多面的で国際的な性質を持つ海は、我々に豊かな生活を与えてくれる源ですが、一方においては、国境を越える犯罪、大規模な海洋汚染や海上災害の発生する場でもあるという厳しい一面も持っています。
 海上保安庁が、「国民の安全と財産を守る」という使命を全うするためには、近隣諸国との連携・協力の推進を図ることが必要不可欠となっています。
 そのため、我が国に隣接する、韓国・ロシア・中国との間では、連携協力に関する文書に署名し、長官級による協議を継続して実施しています。さらに、我が国の主要な海上交通路となっている東南アジア各国の海上保安機関との連携協力関係の強化・拡充に努めています。
 平成16年度には、韓国海洋警察庁及びインド沿岸警備隊との間で、それぞれ長官級による協議を実施し、今後さらに連携・協力関係の強化に互いに取り組んでいくことが確認されました。
 また、インド沿岸警備隊との間では海上テロ及び海賊対策の分野における連携訓練、韓国海洋警察庁との間では海上テロ対策合同訓練、ロシア連邦保安庁国境警備局との間では海難救助及び違反船舶追跡捕捉のための合同訓練を実施しました。これらの訓練は、いずれも実践に即したシナリオで行われ、日頃からの良好な協力関係をさらに維持発展させることができました。
 さらに平成16年5月に行われた海上保安庁観閲式には、中国から初めて中国交通部海事局の船舶が参加するなどこれまで取り組んできた連携・協力関係強化が目に見える形での成果として表れています。

インド沿岸警備隊との連携訓練
▲インド沿岸警備隊との連携訓練

観閲式に参加する中国海事局の「海巡21」
▲観閲式に参加する中国海事局の「海巡21」

多国間での連携

北太平洋地域海上保安機関長官級会合
 社会経済の急速な国際化が進む中で、我が国を取り巻く海上秩序の安定と発展のためには、二国間に加えて多国間での地域レベルの協力関係を構築・発展させていくことがきわめて重要となっています。
 北太平洋地域において、これら諸問題に対応すべく、平成12年以降、海上保安庁のイニシアチブにより「北太平洋地域海上保安機関長官級会合」が進められてきており、平成16年、第5回会合が開催されるに至りました。
 本会合では、海上セキュリティが各国共通の重要課題である中、更なる連携強化と具体化のため、海上テロ対策についてのベスト・プラクティス(実践事例集)の採択、海上テロ・密航等の事案に対する共同オぺレーションの実施について合意し、北太平洋6カ国(日本・米国・カナダ・ロシア・韓国・中国)の具体的な協力関係を一層強化することについて共同宣言を採択しました。また、本会合においてはこれまでオブザーバーとして参加していた中国が正式メンバーとして参加し、名実ともに北太平洋地域の海上保安機関トップが一堂に会するサミット会合となりました。
 海上保安庁では、平成17年に日本で開催予定の第6回会合に向け、海上テロ対策、密輸・密航対策等について積極的に貢献していきます。
アジア海上保安機関長官級会合
 平成12年、アジア地域で多発していた海賊への対策を検討するため東京で開催された「海賊対策国際会議」において「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択され、以後これに基づいてアジア地域における海賊対策のための連携・協力体制の推進が図られてきました。
 このような中、各国の共通の懸念である昨今の厳しいテロ情勢に対応するため、平成16年2月、タイで開催された「第4回海賊対策専門家会合」において、従来の海賊対策のみならず、海上テロ対策を内容とする海上セキュリティの維持の効果的な方策を検討する会合の開催が提案されました。
 これを受け、海上保安庁は平成16年6月、東京において「アジア海上保安機関長官級会合」を開催し、これまで構築された海賊対策分野での協力体制を発展させ、新たに海上テロ対策分野での協力を強化するための取組みが検討され、関連情報の交換を目的とし、今後の取組み及び連携・協力の指針となる「アジア海上セキュリティ・イニシアチブ2004」を採択しました。
 海上保安庁では、このような連携協力関係を推進することにより、アジア地域における海上セキュリティの確保に努めていきます。

北太平洋地域海上保安機関長官級会合(カナダ・バンフ)
▲北太平洋地域海上保安機関長官級会合(カナダ・バンフ)

アジア海上保安機関長官級会合(東京)
▲アジア海上保安機関長官級会合(東京)

アジア太平洋海上保安主管庁フォーラム
 「アジア太平洋海上保安主管庁フォーラム」は、アジア・太平洋地域における航行安全、油防除対応、捜索救助等の分野における地域内協力の促進を図ることを目的として平成8年から開催されています。平成16年4月には第7回フォーラムが開催され、19の国と地域から関係者が出席しました。本フォーラムでは、海上安全や環境保護に関する議論が行われました。
 海上保安庁では今後もアジア太平洋地域における海上安全・環境保護のため、本フォーラムに積極的に参加していきます。

国際機関への貢献

国際海事機関(IMO)における取組み
 国際海事機関は、海上における安全及び海洋汚染の防止等の海事問題に関する国際協力を促進するための国連専門機関です。IMOでは、2001年9月の米国同時多発テロ事件を受け、テロ防止対策に資するIMO関連条約の見直しを行う一環として、「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(SUA条約*1)の改正の検討が行われており、海上保安庁は、この条約の見直しに参画しています。
 海上保安庁では、今後も海上における安全や海洋汚染防止分野での国際機関における議論に今後も積極的に貢献していきます。
国際水路機関(IHO)の組織改革への貢献
 海上保安庁を担当機関として我が国が加盟している国際水路機関(IHO)は、現在、75カ国が加盟し、航海の安全と海洋環境保全のための技術基準の作成、海図仕様の統一等に関する活動を行っています。近年のITの進展による、高度な測量機器の登場や海図の電子化(電子海図)等、技術向上の速度が速くなったことに対応するIHOの組織改革と国際水路機関条約の大幅な改正の議論を行うIHO総会(国際水路会議)が、平成17年4月に開催され、海上保安庁は、これに積極的に貢献しています。
国際航路標識協会(IALA)における取組み
 国際航路標識協会は、航行援助システムの設置、維持及びその関連事業に関する機関等によって構成されている非政府機関で、1957年に発足し、現在73カ国が加盟しています。
 IALAでは、国際海事機関(IMO)や国際水路機関(IHO)等、他の海事関係国際機関と密接な連携を保ちつつ、灯台や灯浮標などの航路標識はもとより、船舶自動識別装置(AIS)等の新たなシステムを活用した航行援助システムの構築のための指標となる各種勧告やガイドラインの策定を行っています。
 IALAの理事に選任されている海上保安庁は、これらの活動に積極的に貢献しています。

海洋環境保全のための取組み

北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)地域油流出緊急時計画の署名・実施
 大規模な油流出事故は、事故が発生した一国にとどまらず沿岸国に広範囲な被害をもたらすことから、この対策のためには、周辺国の協力体制の構築は欠かすことができません。
 このため、平成6年9月に日本、ロシア、中国、韓国の4カ国は、日本海及び黄海の海洋環境の保全を目的とする「北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)」を採択しました。この行動計画に基づき、海洋汚染緊急時対応に関する沿岸国の協力体制の整備、環境データベースの構築、環境モニタリング等が行われ、海上保安庁は関係省庁と連携してこれらの取組みに積極的に参画しています。
 この取組みの一つとして、平成16年11月には、同海域において大規模な油流出事故が発生した場合に、関係4カ国が協力して対応するための枠組みとして策定された「NOWPAP地域油流出緊急時計画」に国土交通大臣が署名し、正式に実施されることとなりました。本計画には、大規模油流出事故発生時の援助要請、共同オペレーション、報告及び通信、後方支援、広報対応等に関する手続き等が盛り込まれています。
 また、平成16年12月には、NOWPAP事業の企画や取りまとめ、関係国との調整などを行う本部事務局が富山と釜山に設置され、活動を開始しました。

NOWPAP地域油流出緊急時計画署名記念式典(韓国・釜山)
▲NOWPAP地域油流出緊急時計画署名記念式典(韓国・釜山)

サハリンプロジェクトシンポジウム・日露油防除専門家会合の開催
 現在、ロシア連邦サハリン州では、サハリン大陸棚石油・天然ガス開発事業(いわゆるサハリンプロジェクト)が進められています。この事業の進展に伴い、我が国北方海域を中心として、新しいタンカールートが生まれつつあるとともに、これに伴い大規模な油排出事故が発生する可能性が生じつつあります。
 このため、平成17年1月、ロシア連邦海洋汚染・海難救助調整庁長官をはじめとする政府関係者及びプロジェクト事業関係者を招き、サハリンプロジェクトの現状及び今後の見通し、並びに、万が一の油汚染事故発生時の対応等に関するシンポジウムを札幌市で開催し、日露両国間における相互理解の促進、協力体制の構築を図りました。
 また、日露両国の政府関係者による日露油防除専門家会合を開催し、油汚染事故発生時の対応について両国の協力体制に係る問題点の抽出、改善を図るための意見交換及び情報交換を実施し、合同油防除訓練の実施等、今後も引き続き油防除に関する協力を続けていく旨の共同発表を行いました。

第4回日露油防除専門家会合の模様(札幌)
▲第4回日露油防除専門家会合の模様(札幌)