いまなお手付かずの原始林が生い茂り、最後の秘境と呼ばれる北海道知床半島。
この半島の突端には、陸の孤島と化した知床岬灯台があり、紋別海上保安部(北海道)では、ヘリコプターやチャーター船を使って2ヵ月おきに巡回点検を行っています。
平成16年7月某日、知床岬灯台の点検に船で出発した巡回班4名は、高波のため、やむなく手前の避難港で上陸し、そこから徒歩で灯台に向かうことにしました。
知床半島は野生動物の宝庫で、巡回中にはエゾシカ、キタキツネなどが愛くるしい姿を見せてくれますが、動物園以外では見たくないヒグマも多く生息しています。
巡回班は、腰にヒグマ撃退スプレー(主成分:唐辛子)を下げ、人間の存在を知らせる鈴を鳴らし、用心しながら約3kmのケモノ道を歩き続けました。
灯台が間近となり、緊張感が薄らいできた時、巡回班の目に、海岸を闊歩するヒグマ(推定200kg)の姿が飛び込んできました。その距離約500m。
ヒグマは巡回班とほぼ同時に人間の存在に気づき、威嚇して向かってきましたが、巡回班が一心不乱に振り続ける鈴の音にまいったのか?何事もなかったようにその場から立ち去っていきました。
その後、巡回作業を終え、行きと同じく帰りも海岸の稜線に沿って歩き出した途端、先頭を歩いていた職員がこわばった面持ちで「山の斜面に熊がいる…」と声にならない声をあげました。この時のヒグマとの距離は実に約30m。
襲われればひとたまりもない危険な距離でしたが、幸いなことに、ヒグマは巡回班の風上側にいて、まだ人間には気づいていない様子。今度は人間の方がまいりました!とばかりに、熊に悟られぬよう差し足・忍び足で一目散に逃げ出しました。
声をあげた職員は、昨年も遠くからヒグマを目撃していますが、これほどまでの異常接近は初めてで、「貴重な体験をしたが足が震えた。」と語っていました。
しかし、そこは船舶交通の安全確保に使命感を燃やす巡回担当の面々!これまで以上に「熊よけ防止グッズ」を整え、熊出没にもひるむことなく巡回に当たっています。