「うーん、また出た・・・」
ここは日本三大急流の一つ、潮流が渦巻く鳴門海峡。第五管区海上保安本部所属の測量船「うずしお」の船底に取り付けられているマルチビーム音響測深機のモニター画面を凝視していた観測員がつぶやいた。ソナーが海底に捉えた影はこれまでに十点目を超えていた。
「また(影が)出た。これもそうじゃないですか?」
この日測量船が探しているのは、水深40mの海底に沈められた船である。
「船長、マルチビーム音響測深機で反応のあった異常点を、今度はサイドスキャンソナーで調査します。」
観測員と「うずしお」の乗組員が後部甲板でサイドスキャンソナーのえい航準備にとりかかった。
地元漁業関係者から小松島海上保安部(徳島県)に、底引網が海底に引っかかって切れるという相談が持ちかけられたのは今から5ヵ月前であった。網には船体の一部と思われるものが絡まっているという。保安部では直ちに不法投棄事件として捜査を開始し、ついに廃船が投棄された海域を突き止めたのであった。
40m先にある長さ十数メートルの船を探すのである。容易に見えそうなものだが、たかが40mでも、水面から40m下となると、海面から目視で探すことは不可能である。我々の武器は超音波だ。海底の高まりを超音波を使うマルチビーム音響測深機で見付け、その地点を、超音波を使って海底の様子を写真のように示すサイドスキャンソナーで精査する。
サイドスキャンソナーにケーブルがつながれ、測量船の船尾から海面に降ろされた。測量船の後方で警戒している巡視艇の見守る中、サイドスキャンソナーは徐々に青い海に消えてゆき、海底の音響画像をモニターに映し出す。物言わぬ海底が我々にその姿をひらいた瞬間である。 測量船のソナーによる探査データを解析した結果、海底に沈んでいる船舶は13隻に及び、これらの資料を基に海上保安部では不法投棄の被疑者を検挙したのである。
海中への不法投棄が後を絶たないのは、海がすべてを包み込んで沈黙を続けるという背景があるのであろう。だからこそ海を舞台とした違法行為には海上保安官は断固として立ち向かうのである。