海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 >海を識る > 1 航海の安全のための情報提供
航海の安全のための情報提供
 船舶を安全に運航するには、予定進路上の海域の気象、海象、水深などの情報を事前に把握しておく必要があります。座礁などすることなく安全な航海を実現するため、航海者は海図などの航海用刊行物を用いて、あらかじめ航海計画を立てるとともに、航海を始めた後は、海図、GPS、灯台などを頼りに自船の位置を調べ、その先の進路が安全かどうか確かめながら進みます。このためには、最新の信頼できる情報が必要不可欠です。
 海上保安庁では、航海の安全のために必要な正確で最新の情報を印刷物、FAX、インターネットなどで提供しています。  
目 標

 死亡・行方不明・負傷者を伴う海難事故の防止はもちろん、船や貨物などの財産や自然環境を守るためにも、航海の安全に必要な様々な情報を分かりやすく速やかに提供することが必要です。海上保安庁は、これらの情報提供によって、海難事故船舶隻数減少の実現を目指します。

平成16年の状況

(1)海図等の刊行
 水路測量や海象観測などを実施して得られた情報によって、航海用海図、特殊図、水路誌及び特殊書誌を刊行しています。(資料編第24参照)
 これらの刊行物により、水深や港湾、航路の状況などの地理的な情報及び海象情報、さらには、管区海上保安本部が海域の実態に応じて行っている航行安全指導の内容などを識ることができます。
 港湾の改修や航路のしゅんせつなどによる地形等の変化は、船舶が安全に運航するために特に重要であり、海上保安庁では補正図などを発行し、利用者が最新の状態を識ることができるようにしています。平成16年度には、大船渡湾付近等の沿岸部の測量や輪島港の測量などを実施しました。
 そのほかにも、航海の参考用として、狭水道や内湾における潮流の状況を表した潮流図、日本沿岸における定置漁具の所在状況を表した漁具定置箇所一覧図等の特殊図を刊行しています。
 また、近年、外国人船員が増加している日本近海の海運の状況を踏まえて、英語のみで表記した海図及び水路書誌を刊行し、外国人船員にも分かりやすい情報提供を行っています。
 さらに、国連海洋法条約では、国の権限が及ぶ海域の範囲を「海図」に描き公表することとなっています。陸上の領土と同様に海上には領海があり、領海線とその基点となる低潮線、直線基線を海図に記載しています。

▼航行安全指導内容表示例、漁具定置箇所一覧図
航行安全指導内容表示例、漁具定置箇所一覧図

(2)航海用電子海図の刊行
 航海用電子海図(ENC*1)は、電子海図表示システム(ECDIS*2)によって画面上に自船等の位置や、速力、針路などを表示させ、航海の安全に必要な情報を識ることができます。海上保安庁では、ECDISに必要なENC及び最新維持のための電子水路通報(ER*3) を刊行しています。また、安全で手軽な航海用電子海図を目指し、これまでの「東京湾至足摺岬」などのような海域ごとの提供単位を細分化、より小さな「セル*4」単位で平成17年4月より提供を開始しました。さらに、確実な更新情報の入手を促進するための「ライセンス制」及び国際的コピープロテクト仕様が作成されたのに伴いコピーを防止するための「コピープロテクト」も同時に導入しました。各国の電子海図刊行区域は全世界的には充分とはいえませんが、東アジア水路委員会*5 (EAHC)において、南シナ海の電子海図の整備・刊行に係る問題について議論を行った結果、東アジア各国が協力し作製することになりました。我が国にとってこの海域はエネルギー資源輸送の生命線であることから、この作製に積極的に参加し、平成17年3月31日南シナ海航海用電子海図が刊行されました。

ECDIS、ENC表示例

▼電子海図(ENC)のセル単位での提供
電子海図(ENC)のセル単位での提供

(3)水路通報・航行警報
 海図や水路書誌に記載されている内容を最新のものに維持するための情報や船舶交通の安全に必要な情報などを掲載した水路通報や管区水路通報を、毎週1回印刷物やインターネットなどで提供しています。平成16年には、約23,000件の情報を提供しました。
  また、スマトラ沖地震に伴う水深変化のおそれなど船舶交通の安全のために緊急に周知することが必要な情報は、衛星通信、インターネットなどによりNAVAREA(ナバリア)XI航行警報*1 NAVTEX(ナブテックス)航行警報*2、日本航行警報*3、地域航行警報*4として提供しています。これらの航行警報は、携帯電話、ファクシミリ放送、ラジオ、漁業無線局を通じた提供も行っています。平成16年には、約12,000件の情報を提供しました。

 さらに,我が国周辺海域の海流等の海況を取りまとめた海洋速報(毎週1回)や黒潮等の海流の状況を短期的に予測した海流推測図(毎週1回)のほか、流氷による海難防止のための情報として海氷速報をインターネット等により提供しています。

インターネットによる航行警報検索
▲インターネットによる航行警報検索

▼水路通報・航行警報の概念図
水路通報・航行警報の概念図

今後の取組み

 国際水路機関(IHO)では、近年のIT技術の進展により、技術向上の速度が速くなったことに対応するため、IHOの組織改革及び国際水路機関条約の大幅な改正を検討しています。
 この改正によって、IHOの役割は航海の安全への貢献のみならず環境汚染、地域科学、地球科学、海洋データの提供など様々な分野へ広がり、より活動的で機能的な国際機関へ発展することが期待されています。
 この改正の検討を踏まえ、IHOの作業部会にあたる海図標準化作業部会(CSPCWG)*5では、希少動植物の生息域や国立公園等の範囲など環境関連情報を航海用海図に記載するため、表現手法に係わる仕様の改訂を進めており、海上保安庁は同部会のメンバーとしてこれに積極的に取り組んでいきます。