海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 災害に備える > 2 自然災害対策
自然災害対策

目 標

 海上保安庁では、地震、津波等の自然災害発生時における人命・財産等の被害を最小限に食い止めることを目標としています。このため、
  1. 自然災害発生時の応急対策を迅速・的確に実施する体制の確立
  2. 地震・火山活動やそれに伴う津波に関する精度の高い事前情報の提供
  3. 高潮・津波等による異常な潮位の情報のリアルタイムな提供による防災への寄与
を図ることとしています。

平成16年の状況

  1. 平成16年には過去最高である10個の台風が上陸し、日本各地で大きな被害を引き起こしたほか、新潟県中越地震(10月23日)などの大規模な地震が発生しました。海上保安庁では、巡視船艇・航空機による被害状況調査及び捜索活動などの災害応急対策を実施するとともに、地方自治体からの要請により、次のとおり陸域にてヘリコプター等により孤立した住民の救助、救援関係者の空輸などを実施しました。・平成16年7月新潟・福島豪雨―ヘリコプターによる孤立者の救助61名・平成16年7月福井豪雨―ヘリコプターによる孤立者の救助27名・台風21号に伴う豪雨(三重県)―ゴムボート等による孤立者の救助21名・台風23号に伴う豪雨(京都府)―ヘリコプターによる孤立者の救助 3名・平成16年新潟県中越地震―ヘリコプターによる孤立者等の空輸466名
  2. 東海地震等に備え合同訓練を実施するなど、関係機関等との連携の強化を図りました。
  3. 海底地殻変動の観測を強化するため、海底基準局を宮城県沖の1局の設置に協力したほか、潮岬沖に1局整備し、地殻活動の評価等に活用されるデータの取得を開始しました。
  4. 平成16年9月の紀伊半島南東沖を震源とする地震について、GPS連続観測、海底地形調査及び海底地殻変動観測の成果は、地震調査委員会においてそれぞれの地震の評価に活用されました。また、同年11月から17年1月にかけて発生した釧路沖を震源とする地震についても、GPS連続観測による成果は地震調査委員会において地震の評価に活用されました。
  5. 津波による被害の軽減を図るため、海域における津波の情報の挙動を記載した「津波防災情報」を、一般への周知のためインターネットにより公開しました。
  6. 日本沿岸の29カ所の験潮所で観測された台風、津波等による異常な潮位の情報をインターネット等によりリアルタイムに提供しました。
また、海上保安庁の潮位情報と気象庁を含む他の機関の潮位情報との共有化を推進しました。

ヘリコプターによる救助
▲ヘリコプターによる救助

▼津波観測記録図
津波観測記録図

今後の取組み

[1]迅速・的確な応急体制の確立に向けて
 海上保安庁では、地震等の自然災害が発生した場合、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等災害応急対策を迅速・的確に実施します。特に人的被害の軽減を図るため、機動性の高い救助体制を構築する必要があることから、機動救難士の航空基地への配置を進めていきます。また、机上訓練、実働訓練の実施等を通じ、関係機関との連携を強化します。
 さらに、住民の避難及び支援物資の搬入等のため、海底地形等の自然情報、防災機関、医療機関、ヘリポートとして使用できる場所等の位置や地域の人口等の社会情報などを記載した「沿岸防災情報図」や火山噴火活動の総合的な基礎情報をデータベース化した「海域火山基礎情報図」を整備し、防災関係機関に提供していきます。

▼沿岸防災情報図
沿岸防災情報図

▼津波防災情報図
津波防災情報図

[2]地震発生予測の精度向上に向けた調査
 我が国は、4つのプレート(太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレート)が複雑に接する場所に位置しており、プレート境界で起きる巨大地震は、これらのプレート同士の押し合いで生じた地殻の歪が原因と考えられています。
 海底の歪みの蓄積状況を把握し巨大地震発生の予測精度を高めるためには、海底の地殻変動を観測する必要があります。
 しかし、陸上では、GPSにより、広く地殻の変動が観測されていますが、海底地殻変動の観測は技術的に難しいことから、これまで実態は明らかになっていませんでした。
 そこで、海上保安庁では、東京大学と共同で、GPS衛星からの電波を用いた測位技術と海中の距離を音波で測る技術を用いて海底地殻変動を観測する手法を開発しました。
 海底地殻変動観測は、海底に基準点を設置し、船を介して陸上の基準局と海底基準点の位置関係を精密に求め、長期にわたってその位置を繰り返し観測することにより、精度よく海底の地殻の動きを捉えるものです。海上保安庁では、引き続き、安定した観測精度が得られるように、技術レベルの向上を図りつつ観測を行い成果を提供していきます。

▼海域火山基礎情報図
海域火山基礎情報図

[3]海域火山活動の監視
 日本周辺には、多くの火山島及び海底火山があります。海上保安庁では、それらのうち活動している31カ所の海域火山の監視を航空機によって行っています。
 そのうち7カ所の海域火山については、測量船による海底地形、地質構造の調査を実施し、火山付近の地殻構造やマグマの位置の把握に努め、基礎情報図の整備を行っています。
 これらのデータは航行船舶の安全情報として活用されるほか、防災対策の基礎資料として活用されます。

[4]津波対策
 東南海・南海地震が発生した場合、大規模な津波による災害の発生が予想されていることから、スマトラ沖地震に伴い発生した大津波による災害を踏まえ、津波対策を講じておく必要があります。
 このため、プレート境界域における詳細な海底地形などのデータを整備するための調査を引き続き実施し、地震規模や津波の予測精度の向上を図ります。
 また、津波が発生した場合には、特に港内の船舶に甚大な被害が発生することが懸念されています。港ごとに地震発生から津波の来襲までの時間は様々であり、津波の規模や船舶への影響等も、港の形態、利用状況等によって異なります。このため、港ごとに船舶津波対策協議会を設立し、海上保安庁が作成した「津波防災情報*1」も活用しながら必要な対策を策定していきます。