海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 災害に備える > 1 事故災害対策
事故災害対策
 災害は様々です。船舶の衝突や乗揚事故による油の排出などの事故による災害や、台風や地震、津波などの自然現象による災害があります。
 これらの災害が発生すると、自然環境の破壊、ライフラインの断絶など皆さんの生活に大きな影響が及ぶことになります。その大きな事例といえば、ナホトカ号事故や阪神淡路大震災が思い起こされますし、海外に目を向ければインド洋津波被害などがあります。
 何時起こるか分からないこれらの災害に対して、発生した場合の迅速な対応、災害の拡大防止を行うことで、皆さんが安心できる生活を送れるよう、私たちは常に備えています。
目 標

 海上保安庁では、海洋への油・有害危険物質排出事故、原子力災害等の人為的災害による被害を最小限に食い止めることを目標としています。
 このために、
  1. ナホトカ号海難・流出油事故と同規模の大規模油排出事故が発生した場合に必要な船艇・資機材を迅速に動員し、防除措置を実施できる体制の確立
  2. 有害危険物質排出事故に対する防災体制の確立
  3. 原子力災害対策として、防災基本計画に定められた海上保安庁の業務を的確に実施できる体制の確立
  4. タンカー等の大規模火災に対応できる消防体制の確立
  5. 気象・海象情報収集体制の強化
  6. 沿岸域での自然情報、社会情報等の収集整理を
図ります。

平成16年の状況

 平成16年は、次の施策を実施し、体制の確立を図りました。
  1. 油排出事故発生時における関係機関とのさらなる連携強化を図るため、海上保安庁、関係行政機関等の役割分担及び作業の実施等を定める防除方針の位置づけを明確化するなど、油防除体制の見直しを行ったほか、関係機関との合同訓練を実施しました。
  2. 原子力災害対策として、関係職員に対する研修及び資機材の整備を実施したほか、関係機関との合同訓練に参加しました。
  3. 海上火災対策として、関係職員に対する研修を実施したほか、関係機関との合同訓練を実施し、消防能力の向上を図りました。
  4. 排出油の防除計画策定や防除作業実施のために、漂流予測を行い、油の漂流・拡散を最小限に食い止める必要があります。そのため、新たに巡視船4隻に船舶観測データ集積・伝送システムを搭載し、平成17年3月末現在、合計28隻の巡視船から現場のリアルタイムな海潮流や風の情報を収集しました。また、次世代型海流監視システム*1 を整備し、相模湾の海象情報をリアルタイムに収集しています。この収集した情報を基に漂流予測の精度を向上させました。
  5. 油排出事故に備えて、沿岸域の油汚染から重点的に保護すべき対象の情報を事前に収集し、整理しておくことが重要です。このため、沿岸域の地理情報、自然情報、社会情報、防災情報等をGIS*1を利用した「沿岸海域環境保全情報」として整備しています。平成15年6月には、防災関係機関に対しインターネットを利用して提供できるシステムの運用を開始しました。さらに、平成16年2月からは一般の方に対しても同様に情報提供を開始しています。

消防型巡視艇による放水訓練
▲消防型巡視艇による放水訓練

乗揚げ海難に伴う油排出
▲乗揚げ海難に伴う油排出

油排出事故の発生状況

 平成16年に海上保安庁が防除措置を講じた油排出事故は145件発生しました。事故件数を船種別に見ると、事故発生時に影響の大きいタンカーは10件で全体の7%を占めています。

▼防除措置が講じられた油排出事故件数
防除措置が講じられた油排出事故件数

船舶火災の発生状況

 平成16年は、船舶火災が138件発生しました。船舶火災件数を船種別に見ると、漁船が76件と依然として多く、全体の55%を占めています。海上保安庁では、全国各地の海上保安部署に消防船艇を始めとする消防能力を有する巡視船艇を配備しており、消火や延焼の防止のための措置等を講じています。

船舶火災の様子
▲船舶火災の様子

▼船舶の火災事故件数
船舶の火災事故件数

今後の取組み

[1]排出油防除対策の強化
 海上保安庁では、事故発生時における原因者等による防除措置の実施に必要となる防除方針を策定するとともに、防除措置の実施状況についての評価を実施していきます。さらに原因者側の対応が不十分な場合には、海上保安庁自らが保有する資機材を使用して排出油の防除等を実施し、被害を最小限にする措置を図ります。
 また、大規模油排出事故に対応するための国際協力体制の確立等を目的としたOPRC条約*1の平成7年の発効の際に設置された「油汚染事件に対する準備及び対応に関する関係省庁連絡会議」(事務局 海上保安庁)等を通じて、関係機関が一体となって油排出事故に対処するなど引き続き関係省庁の連携に努めます。
[2]国際協力体制の構築
 大規模な油排出事故が発生した場合、その影響は一国のみならず複数の国に様々な影響を及ぼすことがあるため、その被害を最小限に抑えるためには、関係国との協力関係が重要となります。
 海上保安庁は、隣国である韓国やロシアとの合同訓練や実務者会合等の実施といった二国間協力のみならず、NOWPAP(北西太平洋地域海行動計画)*2への参画、また、日本へのタンカールートの沿岸国であるフィリピン、インドネシアとの三国合同流出油防除総合訓練の実施等の多国間協力を推進することにより、油排出事故が発生した際に関係国が連携して円滑な対応を行うための体制の構築に努めるなど国際協力体制の一層の強化に努めます。
[3]有害危険物質排出に対する防災対策
 有害危険物質(HNS)についての準備及び対応に関して規定した条約であるOPRCHNS議定書*3の早期発効が見込まれていることから、同議定書の国内法制化、批准に向けた検討を進めるとともに、事故発生時の国家的緊急時計画の策定に取り組んでいきます。
[4]消防体制の強化
 原油、LNG*4等の危険物を積載した大型タンカーに対して、海上交通安全法の指定航路通航時における消防能力を有した船舶の配備の指示、荷役中における消防能力の確保についての指導等を実施しています。また、関係職員に対する研修を実施するなど、引き続き海上消防体制の確保に努めます。
[5]原子力災害の防災対策
 原子力災害発生時には、海上保安庁は救助・救急活動、モニタリングの支援等を行いますが、これらの業務を的確に実施するため、専門機関における研修の実施、放射線測定器等の維持管理、関係行政機関や事業者との連携の強化等に努めます。
[6]気象・海象情報収集体制
 船舶観測データ集積・伝送システムの整備を進め、より多くの気象・海象情報を収集し、流出した油に関する漂流予測の更なる精度の向上に取り組んでいきます。
[7]沿岸海域環境保全情報の充実
 沿岸海域環境保全情報の収集・整理を引き続き行い、最新情報を維持し、内容の充実に努めます。