海上保安レポート 2004

●はじめに


■TOPICS 海上保安の1年


■特集1 海洋権益の保全とテロ対策

■特集2 海保の救難


■本編

治安の確保

生命を救う

青い海を護る

災害に備える

海を識る

航海を支える

海をつなぐ連携


海上保安庁の業務・体制


海を仕事に選ぶ


海保の新戦力


その他


資料編


 
本編 > 青い海を護る > 1 海洋環境保全対策
海洋環境保全対策
 皆さんは海に行ったときにどんな気持ちになりますか。海水浴、魚釣り、ボート遊びなどで楽しい気持ちになったり、水平線に沈む夕陽を見て穏やかな気持ちになったり、海は気持ちを豊かにしてくれます。もし、そんな海がビニール袋などのゴミで汚されていたら、また海の色がどんよりと濁り、いやなにおいがしていたらどのように思われるでしょうか。
 一度壊れた環境を元に戻すことはたやすいことではありません。海上保安庁では、取締りを行うだけでなく、汚染の調査を行って皆さんにその状況を正確に伝えることや、啓発活動を通じて、海をきれいにしようという気持ちを持ってもらうことにより、皆さんと一緒に青い海を護っていきたいと考えています。  
目 標

 海上保安庁では、海洋環境保全のため、海洋汚染状況の把握、汚染源の特定等による新たな汚染の防止、海洋環境の改善を目標として取り組んでいます。
 この目標への具体的な指標として、平成14年から18年において海洋汚染源確認率*1を平均85%以上とすることを目指します。

平成16年の状況

平成16年は、青い海を護るために以下の施策を講じました。

  1. 日本周辺海域における海上漂流物目視調査、全国海岸漂着ゴミ分類調査、海洋汚染調査の集計及びその結果を公表しました。平成15年より漂着ゴミ調査実施回数は21回、同調査参加人数は4,708名それぞれ増加しており、参加者や広報を通じて地域住民の海洋環境に対する意識の高揚を図ることができました。
  2. 海洋環境保全推進週間などの機会を利用し、一般市民及び事業者の人々に対して海洋環境保全思想の普及・啓発活動を実施しました。「未来に残そう青い海」図画コンクール作品応募数は平成15年より4,486件増加しました。
  3. 緊急通報用電話番号「118番」、ホームページなどを通じた情報の提供を呼びかけました。
  4. 平成12年以降、毎年冬季に日本海側の海岸に大量に漂着しているポリ容器の問題について、韓国側と交渉を続けた結果、平成15年6月以降、韓国海洋水産部によるノリ養殖業者への指導、ポリ容器の保管所の建設、漁民等が回収した漂流ゴミの買取り等のポリ容器対策につながりました。
  5. 廃船指導票の活用により放置船艇の現状回復を図りました。(廃船撤去率は約51%)
  6. 海洋汚染源確認率は82%でした。
  7. 東京湾及び大阪湾について、各再生行動計画に基づき、海洋環境モニタリング等を実施しました。また、平成16年7月には、東京湾の現状と今後の再生への取り組みを多くの方々に知っていただくため、「東京湾再生のためのシンポジウム」(主催:東京湾再生推進会議)を開催しました。

海洋汚染の現状

[1]海上保安庁が確認した海洋汚染
 平成16年、海上保安庁では海上における油、廃棄物、赤潮などの海洋汚染発生を425件確認しました。種類別にみれば、油が112件減少したものの依然として海洋汚染は後を絶ちません。
[2]主な海洋汚染事例
(1)漂流・漂着ゴミ
 海岸に漂着するゴミには、ビニールやプラスチック、タバコのフィルターといった石油化学製品が多くの割合を占めています。通常、石油化学製品は細かい破片になってもそれ以上分解しないため、回収しない限り増える一方です。これらを海洋生物が誤って食べるなど海洋生態系への悪影響が懸念されています。

▼海洋汚染の発生確認件数の推移
海洋汚染の発生確認件数の推移

 下の図は、主に平成16年6月と11月の海洋環境保全推進週間にあわせて、全国各地において131回行った海岸漂着ゴミ分類調査をまとめた全国漂着ゴミマップです。これら漂着ゴミのうちのほとんどが日常生活から発生する身近なものでした。

▼平成16年度 全国漂着ゴミマップ
平成16年度 全国漂着ゴミマップ

(2)放置外国船舶
 乗揚げ、沈没等により動けなくなり、責任者である船舶所有者がこれを撤去せず、そのまま放置されている外国船舶は、平成17年3月末現在日本全国で9隻あります。これに起因する油濁事故や船舶の撤去等は、責任者である船舶所有者等が賠償し、措置等を行うのが原則です。しかし保険に加入していない等の事情により、これを行わないケースが問題となっています。このため油濁損害賠償保障法が改正され、日本に入港する外航船舶の所有者等に対して新たに保険加入の義務付け等がなされることとなりました。また、船舶所有者に代わってやむを得ず油防除や船舶撤去を行う地方公共団体に対し、国が一定の支援を行う制度も設けられています。

今後の取組み

[1]海洋環境保全対策
 海上保安庁では目標を達成するために、

  • 国民の環境保全意識を高め、海洋汚染を未然に防止することを目的とした「指導・啓発活動」
  • 海洋汚染の現状を把握し、その情報を提供することを目的とした「海洋汚染調査」
  • 各種法令違反を摘発し、原状回復を図る「監視取締り」

という手法を組み合わせて用い、海洋環境保全対策に取り組んでいます。
(1)指導・啓発活動
 海を職場とする海事・漁業関係者に対し、船や職場を訪問して、不注意による油などの排出を防止するための技術的な指導、廃棄物の適正処理の指導、油等の違法排出を防止するための関係法令の周知などを行います。
 また、一般市民、特に次世代を担う子どもたちに対しては、海岸漂着ゴミ分類調査、海上保安官が作成した環境紙芝居の上演や水質検査実験等の環境教室、「未来に残そう青い海」図画コンクールを通じ、幼い頃から環境保全の心を持ってもらえるように指導・啓発を行います。これらに加えて、各種イベントの開催、海洋環境保全コーナーの設置等、広く一般市民を対象とした活動も実施しています。

巡視船内での環境紙芝居の実演
▲巡視船内での環境紙芝居の実演


■「船舶油濁損害賠償保障法」への対応
 外国船舶が座礁した場合に、船舶所有者等が船主責任保険に加入していない等の事情により、船舶の撤去等を自ら行わず、地方公共団体が代わりに撤去等を行った場合に費用が支払われない事案や船舶がそのまま放置される事案が発生し、船舶航行の障害となるとともに、漁業被害や油等の流出による海洋汚染等の障害を生じさせて問題となっていました。このため「油濁損害賠償保障法」が改正され、「船舶油濁損害賠償保障法」として本年3月1日から施行されています。
 同法により、船舶所有者等への保険加入の義務付け、入港に際しての事前通報等が義務付けられました。
 海上保安庁では、同法の遵守を励行するため、関係機関との連携を強化しています。


(2)海洋汚染調査
 海洋汚染の現状を把握するため閉鎖性の高い海域等において、海水及び海底堆積物を採取し、石油、PCB*1、重金属のほか、新たな海洋汚染物質である内分泌かく乱物質*2として危惧される有機スズ化合物*3の一つであるTBT*4(トリブチルスズ)の調査を実施します。
 さらに、我が国周辺海域における放射能水準を把握するため、海水及び海底土に含まれる長寿命人工放射性物質についても調査を実施します。
 これらの調査結果は、海洋汚染防止の推進を図るためインターネットで公開するほか、報告書として関係機関に送付しています。
(3)監視取締り
「治安の確保」、3.「各種海上環境事犯の摘発」を参照してください。

[2]大都市圏の「海の再生」の推進(関係省庁、自治体と連携した施策)
 大都市を抱え生活排水などが大量に流れ込み、いわゆる都市・生活型公害の改善が遅れている東京湾や大阪湾では、富栄養化*5により慢性的に赤潮が発生し、また、有機汚濁により貧酸素水塊*6が生じ、水産動植物に大きな影響を与えるなど、多くの問題が発生しています。
  東京湾については、海上保安庁、関係省庁及び自治体による「東京湾再生推進会議」が設置され、「快適に水遊びができ、多くの生物が生息する、親しみやすく美しい「海」を取り戻し、首都圏にふさわしい「東京湾」を創出する」という大きな目標を掲げ、関係機関が連携し、各種環境改善施策を的確かつ効率的に行うこととし、平成15年3月に「東京湾再生のための行動計画」を取りまとめました。
 その一環として海上保安庁では、平成14年度に千葉灯標を利用して、表層から底層までの流れ・水温・溶存酸素量等の水質を連続的に測定し、そのデータをリアルタイムで伝送するモニタリングポストを設置し、観測結果をインターネットで情報提供しています。また、人工衛星を利用した東京湾における赤潮等の発生を常時監視するシステムを整備し、平成16年9月10日から、このデータをインターネットに公開しています。このデータと地方自治体等が実施する環境調査のデータを結合し、解析することにより汚染源の解明が促進され、関係省庁による各種施策の展開に寄与します。*7
 また大阪湾についても、関係機関による「大阪湾再生推進会議」が設置され、「森・川・海のネットワークを通じて、美しく親しみやすい豊かな「魚庭(なにわ)の海」を回復し、京阪神都市圏として市民が誇りうる「大阪湾」を創出する」という目標を掲げ、平成16年3月に「大阪湾再生行動計画」を取りまとめました。平成16年度より、同行動計画に基づいて大阪湾再生のための施策を進めています。
 さらに、平成17年度からは、改善が進みにくい他の閉鎖性海域についても「全国海の再生プロジェクト」として、関係省庁、自治体等と連携して海の再生を推進していくこととしています。
全国海の再生プロジェクト

▼海洋短波レーダーによる表層流観測
海洋短波レーダーによる表層流観測

CTD投入の様子
▲CTD*1 投入の様子

[3]地球温暖化などの地球環境問題への取組み
 地球温暖化は、各種の地球環境問題の中でも大きな問題です。地球表面の7割を占める海洋の状況は、地球温暖化と大きく関連していると考えられており、海上保安庁は、そのメカニズムを解明するために、太平洋沿岸国が実施している西太平洋海域共同調査(WESTPAC)に参加しています。この共同調査では、本州南方海域における水温、塩分、海流などのモニタリング観測を行っています。
 また、地球温暖化によって生じる可能性がある海面上昇の実態把握などのために、日本全国29カ所と南極昭和基地で潮位観測を実施しているほか、日本全国5カ所で地球重心からの海面の高さの絶対値の計測を行っています。
 さらに、気候変動の予測精度向上を目的とする「高度海洋監視システムの構築(アルゴ計画)」に参加し、野島埼と八丈島に海洋短波レーダーを設置して、黒潮のリアルタイム監視を行っています。
 このデータはインターネット等を利用して常時情報提供しています。


図画コンクール入賞作品紹介〜未来に残そう青い海〜
  海上保安庁では、平成16年に(財)海上保安協会の協力を得て、海洋環境保全推進週間に併せ、全国の小中学生を対象とした「第5回未来に残そう青い海・図画コンクール」を行い、約25,500点の応募がありました。
  作品について、審査員からは「すべての作品から子どもたちのエネルギーが感じられて、大変良いコンクールでした。特に小学生低学年の作品は素直で楽しく、大人が忘れてしまった表現するということの原点があるように思いました。」との総評をいただきました。
 このコンクールによって小中学生の皆さんに海洋環境の重要性を理解していただければと考えています。
 図画コンクールは平成17年も行う予定です。詳細は、海上保安部署にお尋ね下さい。
図画コンクール応募件数
▼海上保安庁長官賞受賞作品
海上保安庁長官賞受賞作品