海上保安レポート 2023

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安能力のさらなる強化


海上保安庁で働く「人」


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

1 治安の確保 > CHAPTER VII. 海賊対策
1 治安の確保
CHAPTER VII. 海賊対策

全世界の海賊及び船舶に対する海上武装強盗(以下「海賊等」)事案は、世界各国の政府機関や海事関係者の懸命な取組により近年減少傾向にあるものの、依然として脅威は存続しています。

主要な貿易のほとんどを海上輸送に依存する我が国にとって、航行船舶の安全を確保することは、社会経済や国民生活の安定にとって必要不可欠であり、極めて重要な課題です。

海上保安庁では、東南アジア海域等へ巡視船を派遣し、海賊対策のためのしょう戒や沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援等を行うとともに、海賊対処のため、ソマリア沖・アデン湾に派遣されている海上自衛隊の護衛艦へ海上保安官を同乗させるなど、海賊対策を実施しています。

令和4年の現況
1 東南アジア海域の海賊等について

令和4年の東南アジア海域における海賊等発生件数は58件であり、前年より増加しました。また、マラッカ・シンガポール海峡における海賊等発生件数も増加している状況で、現金、乗組員の所持品、船舶予備品等の窃盗が多数を占めています。

これらの海賊対策のため、海上保安庁では、平成12年から東南アジア海域等に巡視船・航空機を派遣し、公海上でのしょう戒のほか、寄港国海上保安機関等との連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいます。新型コロナウイルス感染症の拡大下においても、令和4年5月及び令和5年2月には、巡視船をインドネシア周辺海域やベトナム等に派遣し、沿岸国海上保安機関と連携訓練を実施しました。

令和4年5月 インドネシア海運総局等及びフィリピン沿岸警備隊との連携訓練

令和4年5月 インドネシア海運総局等及びフィリピン沿岸警備隊との連携訓練

令和5年2月 ベトナム海上警察との連携訓練

令和5年2月 ベトナム海上警察との連携訓練

2 ソマリア沖・アデン湾の海賊等について

ソマリア沖・アデン湾における海賊等発生件数は、国際海事局(IMB:International Maritime Bureau)の年次報告書によると、令和4年は0件であり、近年は比較的低い水準で推移しています。これは、アデン湾における自衛隊を含む各国部隊による海賊対処活動、船舶の自衛措置、民間武装警備員による乗船警備等、国際社会による海賊対策の成果の現れといえます。

しかしながら、ソマリア国内の不安定な治安や貧困といった海賊を生み出す根本的な要因が未だ解決していない状況にかんがみれば、海賊等の脅威は存続しているといえます。海上保安庁では、海賊対処のために派遣された海上自衛隊の護衛艦に、海上保安官を同乗させ、海賊の逮捕、取調べ、証拠収集等の司法警察活動に備えつつ、自衛官とともに海賊行為の監視、情報収集等を行っており、平成21年に第1次隊を派遣して以降、令和5年3月末までに合計44隊352名を派遣しています。

令和4年11月には、ジブチ共和国に職員を派遣し海賊護送にかかる手続きを確認するなど更なる連携強化に取り組みました。

今後の取組

海上保安庁では、今後とも、海賊対処のために派遣される海上自衛隊の護衛艦に海上保安官を同乗させるほか、ソマリア沖・アデン湾や東南アジア海域等の沿岸国海上保安機関に対する法執行能力向上支援にも引き続き取り組み、関係国、関係機関と連携しながら、海賊対策を的確に実施していきます。

ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動

船橋 一雄 隊長
現場の声

第42次ソマリア周辺海域派遣捜査隊
船橋 一雄 隊長


ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動
 
ソマリア沖・アデン湾における海上保安官の活動

我々、第42次ソマリア周辺海域派遣捜査隊8名は、海上自衛隊護衛艦「はるさめ」に乗艦し、令和4年5月22日に長崎県佐世保市佐世保港を出港、同年12月4日に帰国し、201日間の派遣を完遂しました。派遣中は、洋上とはいえ外気温が40度になる環境下において、海賊の逮捕・護送等について海上自衛官と訓練を重ねながら、海賊事案の発生に備えました。ソマリア沖・アデン湾は、世界の物流にとって極めて重要な海域であり、航行船舶の安全を確保するこの任務は、日本だけではなく世界にとっても重要なものであると認識しています。ソマリア沖・アデン湾での海賊事案は減少しており、当隊の派遣中に海賊事案は発生しませんでしたが、我々が海上自衛隊と任務を遂行すること自体が、海賊事案発生の抑止力になっているのだと実感することができました。このような重要な任務に就くことができたことを光栄に思います。