海上保安レポート 2020

はじめに


TOPICS 海上保安庁、この1年


特集 海上保安庁新時代


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 海上交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

6 海上交通の安全を守る > CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供
6 海上交通の安全を守る
CHAPTER IV. 航行の安全のための航路標識と航行安全情報の提供

海上保安庁では、船舶交通の安全と運航能率の向上を図るため、灯台をはじめとする各種航路標識を整備し管理しているほか、様々な手段を用いて、航海の安全に必要な情報を迅速かつ確実に提供し、船舶事故の未然防止に努めています。

令和元年の現況
1 航路標識の運用

船舶が安全かつ効率的に運航するためには、常に自船の位置を確認し、航行上の危険となる障害物を把握し、安全な針路を導く必要があります。海上保安庁では、このための指標となる灯台等の航路標識を全国で5,163基運用しています。

航路標識には、灯台のほか灯浮標(ブイ)、電波標識等様々な種類があり、光、形状、彩色、電波等の手段により、我が国の沿岸水域を航行する船舶の指標となる重要な施設であり、国際的な基準に準拠して運用しています。

2 灯台観光振興支援

第4次交通ビジョンでは、地域を活かす海上安全行政の推進として「灯台観光振興支援」を重点施策に掲げており、地方公共団体等による灯台の観光資源としての活用等を積極的に促すことにより、海上安全思想の普及を図り、これを通じて地域活性化にも一定の貢献を果たしていくこととしています。

加えて、地域のシンボルとなっている灯台を活用した地域連携や、全国に64基現存している明治期に建設された灯台の保全を行っています。

海上保安庁ではこれらを踏まえ、国民の皆様に灯台に親しんでいただくための取組を行っています。令和元年には、神戸市港湾局等と連携して遊覧船で神戸港の灯台を巡るイベントを実施したほか、島根県出雲市が主催する出雲日御碕灯台でのカップル参加型ライトアップイベントへの協力等を行いました。また、昨年に引き続き第2回目となる「灯台ワールドサミット」が千葉県銚子市において開催されるなど、灯台の利活用は広がりつつあります。

神戸港灯台巡り

神戸港灯台巡り

みさきナイトフェスタ in SUMMER(出雲日御碕灯台)

みさきナイトフェスタ in SUMMER(出雲日御碕灯台)

灯台ワールドサミット in 銚子

灯台ワールドサミット in 銚子

灯台を活用した取組の広がり

令和元年には、出雲日御碕灯台でのライトアップイベント等のほかにも、さまざまな取組が行われました。

灯台へのラッピング

城ケ島地区の魅力向上のため、神奈川県三浦市の認可地縁団体城ヶ島区と連携して、全国初の試みである灯台へのラッピングを城ケ島灯台に施しました。ラッピングのデザインには、灯台の下に広がる海の風景を模した「トリックアート風の線画の扉」や城ケ島灯台から安房埼灯台を結ぶハイキングコースが描かれた「城ヶ島の地図」に加え「マグロをくわえた猫のイラスト」が採用されています。

ラッピング初日の令和元年5月1日には、天皇陛下御即位記念慶祝行事として城ケ島灯台の特別公開を実施し、来場者はラッピングの記念撮影(インスタ映え)を楽しまれていました。

城ケ島灯台へのラッピング

城ケ島灯台へのラッピング

来場者による記念撮影

来場者による記念撮影

「日本夜景遺産」への認定

令和元年9月5日、香川県高松市の高松港玉藻防波堤灯台が「日本夜景遺産」に認定されました。「日本夜景遺産」とは、(一社)夜景観光コンベンション・ビューローが主体となり、日本各地の美夜景を発掘し観光資源化を促進することを目的として実施しているもので、当庁の灯台が認定されるのは今回が初めてです。

今回認定された高松港玉藻防波堤灯台は、高松市や高松海上保安部等がデザインを検討した、灯塔全体が赤く輝く世界でも珍しいガラスブロック製の灯台で、高松港のシンボルとして「せとしるべ」の愛称で多くの方に親しまれています。今回の認定を契機に、今後ますます地域活性化に貢献していくことが期待されます。

高松港玉藻防波堤灯台

高松港玉藻防波堤灯台

地域活性化に資する灯台活用に関する有識者懇談会

このようにさまざまな灯台の利活用が広がっている中、海上保安庁交通部でも、地方公共団体等に灯台をもっと活用していただくための取組を積極的に進めています。平成31年2月に「地域活性化に資する灯台活用に関する有識者懇談会」を設立して議論を行い、その結果を「灯台活用の拡大に向けた中間とりまとめ」として令和元年6月19日に公表しました。

令和元年10月25日には、この中間とりまとめで提言された「情報発信手法の改善」として、灯台イベントポータルサイト「灯台ノボリ〜灯台イベント盛りだくさん〜」が、(公社)燈光会や「灯台女子」不動まゆう氏協力のもと開設されました。

海上交通業務における新技術の活用、技術開発
新技術の活用
ドローンを活用した新たな航路標識保守手法の導入

高所や洋上で行われる航路標識の保守作業を安全かつ効率的に行うため、ドローンにより撮影した画像から作成する3次元モデルを用いた寸法計測に加え、AIを活用した不具合箇所を自動検出する外観点検の実用化に向け研究を進めています。

ドローンを活用した新たな航路標識保守手法の導入-1
ドローンを活用した新たな航路標識保守手法の導入-2
灯台の光源に高輝度LED(COB)を採用

従来のハロゲン電球・メタルハライドランプに代えて、省電力・長寿命の光源として近年、中・大型灯台への導入を進めている高輝度LED(COB)について、これまで実用化した回転灯器、照射灯に加え、より多くの灯台への導入を進めるため、現在、不動レンズや多面レンズといった全度型灯器への採用を検証しています。

灯台の光源に高輝度LED(COB)を採用
新技術の開発
AIS情報を活用した船舶動静予測技術の開発

航行管制業務における衝突防止のための情報提供を支援するシステムを構築するため、AIS情報のビックデータ解析結果を活用して船舶動静を予測し、衝突の危険等を認知する技術の開発を推進しています。

AIS情報を活用した船舶動静予測技術の開発
カメラ画像解析による船舶情報抽出技術の開発

AISを搭載していない小型船舶等の動静を把握するため、カメラ画像からの船舶検出で得られた船舶位置情報を地図上に表示させる技術の開発を推進しています。

カメラ画像解析による船舶情報抽出技術の開発
3 水路図誌、水路通報、航行警報
水路図誌

海上保安庁では、水深や浅瀬、航路の状況といった航海の安全に不可欠な情報を、海図等の水路図誌として提供しています。

水路通報

航路標識の変更、地形及び水深の変化等、水路図誌を最新に維持するための情報や、船舶交通の安全のために必要な情報を水路通報としてインターネット等で提供しています。令和元年は約27,100件を提供しました。

航行警報

航路障害物の存在等船舶の安全な航海のために緊急に周知が必要な情報を航行警報として衛星通信、無線放送、インターネット等で提供しています。

また、利用者が視覚的に容易に情報を把握することができるよう、警報区域等を地図上に表示したビジュアル情報をインターネットで提供しています。

船舶交通安全情報(水路通報・航行警報)
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ
水路通報・航行警報位置図ビジュアルページ(スマートフォン向け)
QRコード
今後の取組
航路標識の老朽化、防災対策

耐用年数が超過し、劣化の進んだ灯台も多いことから、老朽化対策を推進します。また、台風などの自然災害時における灯台の倒壊・損壊を防止するため、耐震・耐波浪整備、海水浸入防止対策を推進します。

航路標識に関する技術開発

灯台の光源や灯火監視に関する新技術の導入のほか、ドローンやAIを活用した新たな灯台の保守管理のための取組を推進していきます。