海上保安レポート 2019

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 増大する危機に立ち向かう


目指せ! 海上保安官


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

1 治安の確保 > CHAPTER I. テロ対策
1 治安の確保
CHAPTER I. テロ対策

世界各地において、イスラム過激派やその思想に影響を受けたとみられる者等によるテロ事件が多発しており、また、ISIL等のテロ組織が日本を含む各国をテロの標的として名指ししているなど、現下のテロ情勢は依然として非常に厳しい状況です。

海上保安庁では、巡視船艇・航空機による監視警戒、関連情報の収集、関係機関との緊密な連携による水際対策などの従来のテロ対策に加え、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会等を見据えた官民一体のテロ対策を推進し、よりいっそうテロ対策に万全を期すこととしています。

平成30年の現況

海上保安庁では、原子力発電所や石油コンビナート等の重要インフラ施設に対して、巡視船艇・航空機による警戒を行っているほか、旅客ターミナル、フェリー等のいわゆるソフトターゲットに重点を置いた警戒を実施しています。また、「G20大阪サミット及び関係閣僚会合」及び「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」等を見据えたテロ対策に取り組んでいます。

このほか、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際船舶・港湾保安法)」に基づき、平成30年は、外国からの入港船舶3,205隻に対して立入検査を行いましたが、テロとの関連が疑われる船舶は認められませんでした。

また、平成28年12月の「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」で決定した「海上保安体制強化に関する方針」の下、原発等テロ対処・重要事案対応体制の強化を段階的に進めるほか、「国際船舶・港湾保安法施行規則」を改正し、我が国港湾施設等に対する危害行為の防止等の措置を強化しました。

原発警戒の様子

原発警戒の様子

立入検査の状況

立入検査の状況

関係機関との合同訓練

関係機関との合同訓練

官民連携訓練

官民連携訓練


官民一体となったテロ対策の推進

欧米諸国等において発生しているテロは、公共交通機関や大規模集客施設といった、いわゆる「ソフトターゲット」が標的となる傾向にあります。ソフトターゲットを対象としたテロは「いつでも、どこでも」発生する可能性があることから、旅客ターミナルやフェリー等の臨海部や海上においてもテロ対策に力を入れて取り組む必要があります。一方、海上保安庁の勢力だけでこれら全てをカバーすることは困難であるため、これらの施設の運営者等の事業者と連携し、テロの未然防止策を推進することが不可欠です。

海上保安庁では、平成29年度から、海事・港湾業界団体と関係機関が参画する「海上・臨海部テロ対策協議会」を開催し、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を念頭に、海上・臨海部における具体的な危険を想定し、官民一体となったテロ対策について議論・検討を行っています。平成30年2月には、事業者によるテロ対策の実効性向上を目的とした「海上・臨海部テロ対策ベストプラクティス集」を策定し、これまで海事・港湾の事業者等5,000社以上(平成31年度3月末時点)に対して配布しました。

平成30年度は、東京湾内で発生が想定されるテロ事案を検討のうえ、各分野の専門家による研修及びそれらを踏まえた訓練シナリオに基づく机上訓練を行いました。そのほか、業界全体としてテロ対策に取組む姿勢のアピール等を目的とした「テロ対策啓発用ポスター」を作成しました。

テロ対策協議会で作成したベストプラクティス集(一部)

テロ対策協議会で作成したベストプラクティス集(一部)

海上・臨海部テロ対策協議会(机上訓練)の様子

海上・臨海部テロ対策協議会(机上訓練)の様子

テロ対策啓発用ポスター

テロ対策啓発用ポスター

G20大阪サミット及び関係閣僚会合に向けて

我が国が主催するサミットとして最大規模である2019年のG20大阪サミット及び関係閣僚会合の開催を見据え、海上保安庁では、平成30年4月以降、本庁、G20大阪サミット開催地を管轄する第五管区海上保安本部、関係閣僚会合開催地の周辺海域を管轄する各管区海上保安本部に海上警備準備本部等を設置し、海上警備の準備を進めています。平成31年4月には、これら海上警備準備本部を海上警備対策本部等に改組させ、警備体制に万全を期しているほか、全国の臨海部における警戒を強化するなど徹底したテロ対策を行っています。

特に、G20大阪サミットの会議場が位置する阪神港大阪区は、物流・経済活動の拠点として、貨物船等が昼夜を問わずに航行する海上交通の輻輳する海域であり、その特性に応じた海上警備が必要となることから、関係機関及び事業者等と緊密に連携し、テロの未然防止に万全を期しています。

今後の取組み

海上保安庁においては、今後ともテロが現実の脅威であるとの認識の下、テロの未然防止やテロ発生時の対処にかかる体制を確実に整備していくとともに、関係機関や事業者等とより緊密に連携し、官民一体となってテロ対策に取り組んでいきます。

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催まで1年余りとなるなか、海上保安庁では、平成26年に本庁及び第三管区海上保安本部に設置した大会準備本部において、海上警備体制の強化等、所要の対策を推進しています。

本大会は、選手村や競技会場等の多くが臨海部に位置するほか、いくつかの競技が海上で実施される予定であり、加えて、世界中から要人や観客等が集まることから、海上における警備が極めて重要です。このため海上・臨海部の安全安心を確保するため、海域の特性に応じた警戒要領を策定のうえ、訓練や必要な装備・資機材の整備等を通じ対処能力を向上させていきます。

今後、本大会に向けたテストイベント等が海上・臨海部においても多数予定されているところであり、来るべき本番に向け、より具体化した準備作業を加速させるとともに、大会組織委員会をはじめとする関係機関等と緊密に連携し、万全を期していきます。

船舶保安情報の通報項目追加によるテロ対策強化

我が国の港湾施設等に対して行われるおそれがある危害行為の防止等の措置を図ることを目的に、国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際船舶・港湾保安法)施行規則を改正し、船舶保安情報の通報事項に「北朝鮮の港への寄港の有無」を追加しました。これにより、我が国にとって特に顕著な脅威を有する北朝鮮が関与する武器又は爆発物その他の危険物の不法な国内持込みの防止など、テロの水際対策を一層強化しました。

改正背景

北朝鮮による核実験の実施、弾道ミサイルの発射等の一連の行為を受け、国連加盟国は北朝鮮制裁措置を強化しており、国際社会の平和及び安全に対する脅威への各加盟国の対応の必要性が高まっています。我が国においても、不審な船舶による本邦の港への武器又は爆発物その他の危険物の不法な持込みの防止等、水際で対応するため、本改正を行いました。

改正内容

国際船舶・港湾保安法施行規則第75条等の改正により、船舶保安情報の通報事項に「北朝鮮の港への寄港の有無」を追加しました。

通報事項追加周知リーフレット

通報事項追加周知リーフレット

船舶保安情報の通報に関する詳細は海上保安庁HPでも掲載しております。

※船舶保安情報の通報制度について
国際船舶・港湾保安法の施行(平成16年7月1日)により、外国から日本に入港しようとする全ての船舶は、日本への入港(入域)の24時間前までに、所定の海上保安部署に対して船舶保安情報を通報することとされています。