インド太平洋地域は、テロ、海賊、国際犯罪、大量破壊兵器の拡散等の様々な脅威が国境を越えて広がっており、海洋権益を巡る国家間の摩擦も増加しています。また、船舶の大型化、海上における経済活動の活発化等によって、大型客船の事故や大量の油流出など、大規模な災害の発生の危険性も高まっています。このような海上の脅威には、一義的には各国の海上保安機関が対応することになります。しかし、グローバル化が進み、脅威が容易に国境を越える現在の国際社会においては、沿岸国一国のみで対応することは困難であり、国境を越えた連携・協力が必要不可欠です。
安定的な海洋利用の自由が確保できる海洋の安全保障の環境を維持するためには、普遍的価値を共有する各国と連携しつつ、外交努力や能力向上支援などの能動的な行動によって、法とルールが支配する海洋秩序を形成・強化する必要があります。
また、海洋国家たる我が国は、海洋分野において主導的な役割を果たさなければなりません。
以下の図でわかるようにアジアの主要な国々をはじめ、2000年台に入り、海上の経済活動が活発化しているアジア地域で海上保安機関が設立されていることが分かります。これは、様々な海上脅威や海上権益を巡る国家間の摩擦が拡大しているなかで、国家の安全保障を維持・強化していく上で、外交・軍事に加えて、海上保安機関の重要性の認識が広がってきていることが背景にあると考えられます。
インド太平洋地域においては、2000年台に組織が誕生した国がほとんどであり、組織としての歴史が長いとは言えないのが現状です。
1948年に誕生した日本の海上保安庁は、最も歴史の古いアメリカ沿岸警備隊と並び世界の海上保安機関の先駆的存在です。海上保安庁には、世界の海上保安機関の連携協力をリードする役割が期待されています。
政府において、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現のための三本柱として、
①法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着
②経済的繁栄の追求(連結性、EPA/FTAや投資協定を含む経済連携の強化)
③平和と安定の確保(海上法執行能力の構築、人道支援・災害救援・海賊対策等)
が掲げられている中で、海上保安庁においては、国際社会における海洋秩序の安定化に向けた取組みとして、
●各国海上保安機関との連携の強化
●各国海上保安機関の海上保安能力向上
という二つの柱の取組みを進めています。
直近の取組みとしては、昨年11月、東南アジア海域等における海賊対策のため派遣した巡視船「えちご」がオーストラリア・ダーウィンに初寄港しました。同地において、 安倍総理立会いのもと、豪国境警備隊との協力文書交換式を行いました。
安倍内閣総理大臣による訓示
(平成30年11月17日)〈於:巡視船えちご〉
(出典:首相官邸HP)
安倍内閣総理大臣による巡視船えちご視察
(平成30年11月17日)〈於:オーストラリア ダーウィン〉
(出典:首相官邸HP)
そのほか、今年1月、海上保安庁モバイルコーポレーションチームをパラオ共和国へ初派遣し、パラオ共和国海上保安・魚類・野生生物保護局海上法令執行部職員に対し、能力向上支援を行いました。
また、令和元年7月には、練習船こじまが海上保安大学校の遠洋航海実習において、スリランカのコロンボに入港予定です。練習船こじまのスリランカ入港は初になり、アジア海上保安機関実務者会合の開催に合わせて入港することで、各国海上保安機関との連携における相乗効果を狙います。
薗浦内閣総理大臣補佐官による激励(左)と訓練視察(右)
(平成31年1月15日)〈於:パラオ〉
海上保安庁におけるこれまでの主な国際業務の実績としては、平成28年以降、図のとおり各種取組みをインド太平洋地域において実施してきました。海上保安庁では、引き続きアジア地域だけでなくインド太平洋地域におけるプレゼンス向上を図り、海洋安全保障環境の安定に貢献するため、様々な国際取組みを進めていきます。