我が国周辺海域において海上保安庁が直面する重大な事態は年々多様化しています。刻々変わりゆく変化の予兆を捉え、国民の皆様の安全・安心をこれからも守り抜くという断固たる決意を胸に、24時間365日昼夜を問わず、今このときも日本の海を守っています。
我が国周辺海域を巡る情勢は、尖閣諸島周辺海域において繰り返される中国公船の領海侵入のほか、中国公船の勢力増強、更なる大型化・武装化、外国海洋調査船による我が国の事前の同意を得ない調査活動、大和堆周辺海域における北朝鮮漁船等の違法操業、平成30年に過去最多となった北朝鮮からのものと思料される木造船の漂流・漂着に加えて激甚化する自然災害など、引き続き緊迫しています。
これらに的確に対応するため、平成28年12月、海上保安体制強化に関する関係閣僚会議が開催され、「海上保安体制強化に関する方針」が決定され、平成30年12月には第3回目となる関係閣僚会議において、引き続き体制強化を着実に進めていくことが確認されました。
尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現に我が国はこれを有効に支配しています。したがって、 尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません。(外務省HPから抜粋)
尖閣諸島は、南西諸島西端に位置する魚釣島(うおつりしま)、北小島(きたこじま)、南小島(みなみこじま)、久場島(くばしま)、大正島(たいしょうとう)、沖ノ北岩(おきのきたいわ)、沖ノ南岩(おきのみなみいわ)、飛瀬(とびせ)等からなる島々の総称です。
尖閣諸島周辺の領海の面積は約4,740km2で、東京都と神奈川県の面積を足した面積(約4,605km2)とほぼ同じ広さです。また、尖閣諸島周辺の領海・接続水域を四国と重ね合わせると、その広さや形が良く似ています。海上保安庁では、この広大な海域で、昼夜を分かたず、巡視船艇・航空機により領海警備を実施しています。
尖閣諸島周辺海域では、平成24年9月以降、中国公船が荒天の日等を除きほぼ毎日接続水域を航行しており、領海侵入する事案も発生しています。
また、平成28年8月には、多数の中国漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業する中、中国漁船に引き続く形で中国公船が我が国領海への侵入を繰り返す事案が発生したほか、中国公船の大型化・武装化・増強も確認されており、尖閣諸島をめぐる状況はいっそう厳しさを増しております。さらに、平成30年7月には、中国海警局が人民武装警察部隊(武警)に編入されており、関係省庁と連携しながら、中国の動向を引き続き注視していく必要があります。
このような中、海上保安庁は、領土・領海を断固として守り抜くとの方針の下、法執行機関として、国際法や国内法に基づき、冷静に、かつ、毅然とした態度で対応を継続しています。
尖閣諸島周辺海域で警戒監視にあたる巡視船
中国公船(奥)を警戒監視する巡視船(手前)
近年、尖閣諸島周辺海域では、中国公船の領海侵入が繰り返されています。平成30年12月には、平成24年9月以降初めて中国公船の領海侵入が発生しませんでしたが、翌月以降にあってはこれまで同様、領海侵入しており、中国公船が荒天の日等を除きほぼ毎日、接続水域を航行している状況に変わりはなく、依然として緊迫した情勢が続いています。
大型化・武装化
機関砲(76ミリ砲の可能性)を搭載した1万トン級中国公船
海警2901
機関砲(37ミリ砲の可能性)を搭載した中国公船の領海侵入
海警31239
尖閣諸島周辺海域では、外国漁船による活動も続いています。平成30年の領海からの退去警告隻数は、中国漁船については76隻、台湾漁船については318隻となっており、前年に比べて大幅に増加しています。同海域には多数の外国漁船が存在しており、引き続き警戒していく必要があります。
また、同海域において、外国漁船による不審事象、不法行為等に対応するため、宮古島海上保安部に規制能力強化型巡視船9隻を平成31年2月に配備完了しており、引き続き迅速かつ的確に対応していきます。
尖閣諸島周辺海域における外国漁船の退去警告隻数 (平成30年12月31日現在)
退去警告隻数(中国漁船)
退去警告隻数(台湾漁船)
海上保安庁では、現下の情勢をふまえ、第十一管区海上保安本部所属の巡視船艇・航空機のみならず、必要に応じ全国からの応援派遣により必要な勢力を確保し、中国公船に対して領海に侵入しないよう警告するとともに、警告にも関わらず領海に侵入した場合には、退去要求や進路規制を行い、領海外に退去させています。
さらには、外国漁船や領有権に関する独自の主張を行う活動家船舶等に対しても、我が国の領土・領海を断固として守り抜くという方針の下、法執行機関として、国際法や国内法に基づき、冷静に、かつ、毅然と対応しています。
海上保安庁では、関係省庁と緊密に連携しながら情報共有を行いつつ、警戒監視等に万全を期しています。
①中国海軍艦艇の接続水域内航行について
平成30年1月11日午前、尖閣諸島周辺海域で領海警備に従事していた巡視船が、中国海軍艦艇1隻が大正島北東の我が国接続水域に入域するのを確認したため、無線による呼びかけ等を実施するとともに、警戒監視等を行いました。同日午後、当該艦艇は、大正島北北東の我が国接続水域から出域しました。
平成30年6月29日午前、尖閣諸島周辺海域で領海警備に従事していた巡視船が、中国海軍の病院船が大正島北の我が国接続水域に入域するのを確認したため、無線による呼びかけ等を実施するとともに、警戒監視等を行いました。同日午前、当該病院船は、大正島北東の我が国接続水域から出域しました。
中国海軍病院船
巡視船りゅうきゅう
主任航海士
西本 泰祐
私は、2年前、海上保安大学校を卒業後、那覇海上保安部所属のヘリコプター1機搭載型巡視船「りゅうきゅう」に主任航海士として乗船し、主に尖閣諸島周辺海域での領海警備業務にあたっています。
領海警備業務は、人の目に触れることもなく、長期の行動となる うえ、外国船舶等への対応の如何によっては外交問題へと発展する 恐れのある非常に緊張感のある業務です。また、主任航海士として、気象・海象条件の厳しい中、船艇のみならず、ヘリコプターの安全な運用も担っており、やりがいをもって勤務しています。
不撓不屈の精神で、冷静に、かつ、毅然とした態度で対応できるよう日々の訓練に励んでいます。
我が国の排他的経済水域(EEZ)等において、外国船舶が調査活動等を行う場合は、国連海洋法条約に基づき、我が国の事前の同意を得る手続き等をとる必要があります。
しかし、近年、我が国周辺海域では、外国海洋調査船による我が国の事前の同意を得ない調査活動や同意内容と異なる調査活動が多数確認されています。海上保安庁では、こうした活動を早期に発見し、対応できるよう、巡視船艇・航空機による警戒監視等を行っています。
平成30年度は、我が国のEEZにおける外国海洋調査船による特異行動*が6件確認されています。
また、外国海洋調査船の特異行動に関する情報を入手した場合には、巡視船・航空機を現場海域に派遣し、当該調査船の活動状況や行動目的の確認を行い、得られた情報を関係省庁に提供するとともに、巡視船・航空機により中止要求を実施するなど、関係省庁と連携しつつ、その時々の状況に応じた適切な対応を行い、我が国の海洋権益の保全に努めています。
*特異行動:事前の同意を得ない調査活動または同意内容と異なる調査活動
外国海洋調査船特異行動件数(平成31年3月31日現在)
我が国の同意を得ない調査活動等を行った外国海洋調査船
「科学」平成30年6月28〜30日 7月14〜20日
「向陽紅10号」平成30年10月7日
「嘉庚」平成31年3月23日〜25日
日本海中央部の「大和堆」は、周囲に比べ水深が浅く、イカやカニなどの日本海有数の好漁場となっています。近年、大和堆周辺海域では、北朝鮮や中国籍とみられる漁船が我が国排他的経済水域で違法操業を行っており、同海域で操業する日本漁船の安全を脅かす状況となっています。
日本イカ釣り漁船付近を警戒する巡視船
北朝鮮漁船に放水する巡視船
北朝鮮漁船に対去警告する海上保安官
平成30年においては、日本のイカ釣り漁の漁期(6月)を前にして、昨年より1ヵ月以上早い、5月下旬から大型巡視船を含む複数隻の巡視船を大和堆周辺海域に早期配備し、水産庁とも連携しつつ、同海域に近づこうとする北朝鮮漁船に対応しています。平成30年においては、延べ1,600隻以上の北朝鮮漁船に退去警告を行い、そのうち、延べ500隻以上に対し放水を実施し、我が国排他的経済水域の外側に向け退去させ、大和堆周辺海域への接近を許しませんでした。
大和堆周辺海域に近づこうとする北朝鮮漁船は6月をピークに減少し、8月中旬以降はほとんど確認されなくなりましたが、9月中旬以降再び確認されるようになりました。また、北朝鮮漁船の操業は同海域の北方に広がりを見せたことから、大和堆周辺海域に加え、北方の海域にも巡視船を速やかに派遣し対応を強化しました。
11月に入り北朝鮮漁船は徐々に減少し、下旬以降は我が国排他的経済水域の外側も含めてほとんど確認されなくなりました。今後も、その時々の状況に応じて必要な体制を整え、水産庁等の関係省庁とも連携して対処していきます。
平成30年は、北朝鮮からのものと思料される漂流・漂着木造船等が日本海沿岸で225件確認されました。
長大な海岸線を有する我が国において、沿岸警備の徹底は重要な課題であり、
海上保安庁では、
●巡視船艇・航空機による巡視警戒の強化
●地元の自治体や関係機関との情報共有及び迅速な連絡体制の確保の徹底
をするとともに、漁船や地元住民からの不審事象の通報に関する働きかけを推進し、漂流・漂着木造船等の早期発見に努めているところです。漂流・漂着木造船の情報を入手した場合には海上保安官を現場に向かわせ、船体や船内の状況を詳細に調査するとともに、生存者がいる場合には徹底した事情聴取を行い、関係機関と連携し、事実関係の確認に努め、漂流・漂着に至った経緯などを調査しています。
漂流・漂着船の状況 (平成31年3月31日現在)
北朝鮮からのものと思料される漂流・漂着木造船等の位置
島根県隠岐の島木造船漂着事案
【事案概要】
平成31年1月8日午前9時30分頃、島根県警察から海上保安庁に対して、「隠岐の島町に漂着した木造船付近に上陸した外国人風の男4名が確認されている」と、通報がありました。
巡視船・航空機により、周辺海域を調査するとともに、海上保安官を現地に派遣し、調査を実施しました。
※上陸者4名は警察により保護
【海上保安庁の対応】
関係機関と連携し、現場周辺海域の不審事象の確認するとともに、漂着木造船の調査及び上陸者の事情聴取などを実施しました。
また、海上保安庁航空機により、北海道から山口県までの日本海側沿岸部を重点的に調査しました。
青森県深浦沖有人木造船漂流事案
【事案概要】
平成31年1月13日午前7時20分頃、地元の漁業協同組合から海上保安庁に対して、「青森県深浦町沖に木造船が漂流している。人が乗っているようだ。」と、通報がありました。
巡視船・航空機により、周辺海域を調査するとともに、海上保安官を現地に派遣し、調査を実施しました。
※乗組員2名を保護
【海上保安庁の対応】
関係機関と連携し、現場周辺海域の不審事象の確認するとともに、漂流木造船の調査及び乗組員の事情聴取などを実施しました。
また、海上保安庁航空機により、北海道から山口県までの日本海側沿岸部を重点的に調査しました。
近年、集中豪雨や台風等による深刻な被害が相次いで発生するなど、自然災害が激甚化・頻発しています。海上保安庁では、被害が海上に及ばない場合でも、自然災害が発生した場合には政府のもと一丸となり、巡視船艇・航空機の機動力及び特殊救難隊や機動救難士等の救助技能を活用し、被災者の救出及び行方不明者等の捜索・救助に全力を注いでいます。
一方で、被災地支援も、被災者の生命、生活及び生業の維持に大切な活動の一つです。海上保安庁の装備能力を活用し、これまで、東日本大震災や熊本地震をはじめとした大規模災害の現場においても負傷者等の搬送、巡視船による給水支援や入浴提供、被災地への支援物資の搬送、そして海上輸送路の安全確保などの被災地支援を行ってきました。
海上保安庁が直面する多岐にわたる課題に対応するため、平成28年12月21日に開催された「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」において、「海上保安体制強化に関する方針」が決定されました。
本方針は、「国家安全保障戦略」(平成25年12月17日国家安全保障会議及び閣議決定)において、法執行機関の能力強化や海洋監視能力の強化をはじめとする大きな方向性が示されていること等を受け、我が国周辺海域における重大な事案への対応の具体的な方向性が定められたもので、海上保安庁の「海上法執行能力」、「海洋監視能力」及び「海洋調査能力」の3点の強化を図るため、5つの柱による海上保安体制の強化を進めることとされました。
平成30年12月18日には、3回目となる同関係閣僚会議が開催され、政府として引き続き海上保安体制の強化を進めることが確認されました。令和元年度当初予算編成においては、平成30年度補正予算も活用しながら、尖閣領海警備のための大型巡視船、海洋監視用の新型ジェット機、海洋調査用の中型飛行機を整備するとともに、要員や運航費の確保、教育訓練施設の拡充を進めていきます。
また、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序のために、国際連携の取組みを推進していくことの必要性が確認されました。
発言する安倍総理大臣
【安倍総理大臣の発言要旨 (平成30年12月18日)】
●厳しさを増すわが国周辺海域を取り巻く情勢を踏まえ、政府として海上保安体制の強化を着実に進めなければならない。
●同時に、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するため、諸外国との連携を通じて、国際的な海洋秩序を形成していくことも重要。
●今後とも、関係省庁が力を結集して、海上保安体制の強化を図り、諸外国と連携しながら多様な任務を全うし、海洋の安全保障の確保に全力を尽くすこと。
海洋状況把握(MDA)とは、海洋情報を効果的に収集・集約・共有し、海洋に関連する状況を効果的に把握することです。
海上保安庁では、海上保安体制強化に関する方針に基づく体制強化や、平成30年5月に閣議決定された第3期海洋基本計画に基づく「海洋状況把握(MDA)の能力 強化」等の取組みを、着実に進めていきます。