海上保安レポート 2018

はじめに


海上保安制度創設70周年記念特集
海洋の安全・秩序をつなぐ〜70年の礎とともに〜


海上保安官の仕事


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 領海・EEZを守る

2 治安の確保

3 生命を救う

4 青い海を守る

5 災害に備える

6 海を知る

7 海の安全を創る

8 海をつなぐ


語句説明・索引


図表索引


資料編

4 青い海を守る > CHAPTER II. 海洋環境保全対策
4 青い海を守る
CHAPTER II. 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査等に加え、国民の皆様への指導・啓発活動等を実施するなど、海洋環境を保全するための総合的な取組みを実施しています。

海洋環境保全対策の現況
1 海上環境関係法令違反の監視・取締り

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対しては、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加えて、沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

平成29年に海上保安庁が摘発した海上環境関係法令違反は626件であり、前年と比較して1件増加しました。違反の種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。これらの違反は、適正な処理費用や設備整備への投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を抹消した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

平成29年5月には、水質汚濁防止法に基づく特定施設を有する事業場から、複数回にわたり基準値(水素イオン濃度)を超えた汚水を排出していた事業者を水質汚濁防止法違反で検挙しました。


排水を採水する状況
排水を採水する状況
海上環境法令違反の送致件数の推移
海上環境法令違反の送致件数の推移

外国船舶による海洋汚染への対応

外国船舶による海洋汚染については、領海のみならず、EEZにおいても取締りを行っており、平成29年は4隻を検挙しました。なお、国連海洋法条約及び関係法令に基づき、船舶の航行の利益を考慮し、担保金制度を適用しています(平成29年担保金制度適用件数:4件)。

また、我が国の法令を適用できない公海等において外国船舶の油等の排出を確認した場合には、当該船舶の旗国に排出事実を通報し、適切な措置を求めています(平成29年旗国通報件数:2件)。

2 海洋環境調査
海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を行っています。


放射能調査

旧ソ連・ロシアによる日本海・オホーツク海への放射性廃棄物の海洋投棄や過去に行われた核実験等による海洋環境への影響を把握するため、日本近海で海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を実施しています。

また、原子力規制庁が定める実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)では、周辺住民の安全・安心を確保するため、定期的に海水や海底堆積物を採取し、放射能調査を行うとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。さらに、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に対応する政府の総合モニタリング計画に基づいた放射能調査も行っています。

3 海洋環境保全のための指導・啓発
主な海洋環境保全活動の実施状況の表
主な海洋環境保全活動の実施状況の表

海洋汚染の大半が故意や取扱不注意等による人為的な要因により発生していることから、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様に意識を高めていただくことが重要です。そのため、海上保安庁では、ボランティアや地方公共団体とも連携し、全国各地で海洋環境保全に関する指導・啓発活動を実施しています。

特に、毎年6月は「未来に残そう青い海」をスローガンに掲げた「海洋環境保全推進月間」として、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会や訪船指導、一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室の開催等様々なイベントを重点的に実施しています。

平成29年も、日本財団等が主催している「海と日本プロジェクト」と連携し、昨年を上回る全国の93海岸等で、約28,000人の参加により約11,000袋ものごみを収集・分類を行いました。


海洋汚染の調査(表面採水)
海洋汚染の調査(表面採水)
海洋環境保全教室
海洋環境保全教室
海浜清掃
海浜清掃
訪船指導
訪船指導
4 海の再生プロジェクト
水質観測の様子
水質観測の様子

海洋環境の保全・再生のためには、海上保安庁が単独で実施する取組みだけでなく、関係機関が効果的に連携した取組みを推進することが重要です。このような取組みの一つとして、海上保安庁では東京湾、伊勢湾、大阪湾、広島湾における「海の再生プロジェクト」に参画しています。これらのプロジェクトでは、国、自治体、大学・研究機関、民間企業が連携し、陸域からの汚濁負荷削減対策、海域の環境改善対策、環境モニタリング等の各種施策を推進しています。

このうち海上保安庁では、環境モニタリングの取組として、測量船による定期的な水質観測を行っています。

特に「東京湾再生プロジェクト」では、千葉灯標にモニタリングポストを設置し、水質と海潮流の連続観測を行っているほか、国、自治体、研究機関、企業、市民団体等が連携して実施する「東京湾環境一斉調査」の事務局を務め、水質調査・生物調査・環境啓発活動といった各種取組の普及促進や取りまとめを実施しています。


海の再生プロジェクトの概念図
海の再生プロジェクトの概念図
今後の取組み

海上保安庁では、海洋環境調査を通じ、海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反の厳正な監視・取締りを実施します。また広く指導・啓発活動を推進するとともに、関係機関等と情報共有体制を構築し、各機関と連携・協力して海洋環境保全につながる取組みを効果的に推進していきます。

第18回未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクールの開催
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動
図画展示による海洋環境保全思想の普及活動

海上保安庁では、海洋環境保全啓発活動の一環として、「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を開催しています。

平成29年で第18回目を迎えた本コンクールでは、全国の小中学生から30,839点の作品の応募があり、特別賞(国土交通大臣賞)、海上保安庁長官賞及び海上保安協会会長を決定、作品の展示や各種広報等に活用することで、広く海洋環境保全思想の普及を図っています。

特別賞
特別賞

小学校高学年の部
沖縄県 宮古島市立東小学校5年生

西里 愛未さん

石井国土交通大臣による表彰
石井国土交通大臣による表彰

海上保安庁長官賞

海上保安庁長官賞_川野
中学生の部
徳島県 松茂町立松茂中学校1年生

川野 空さん
海上保安庁長官賞_村上
小学校高学年の部
広島県 広島市立宇品小学校6年生

村上 莉央さん
海上保安庁長官賞_有馬
小学校低学年の部
鹿児島県 鹿児島市立武小学校2年生

有馬 一織さん