海上保安レポート 2014

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安庁の精神 正義仁愛


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

特集 海上保安庁の精神 正義仁愛 > III 人が支える海上保安庁 海上保安庁の人づくり > 3 今後の人材育成の課題
特集 海上保安庁の精神 正義仁愛
III 人が支える海上保安庁 海上保安庁の人づくり
3 今後の人材育成の課題

現在、海上保安庁では、ベテラン職員の大量退職期を迎えていることに加えて、尖閣諸島周辺海域での領海警備体制の確保のための増員により、これまで以上に若手職員の比率が増加する状況にあります。

また、我が国周辺各国の海洋権益への関心の高まりにより、海上保安業務の国際化の進展、国際連携の重要性に拍車がかかっています。

このような状況の中、人材育成に関しても、これまでにない課題が生じています。

1. 若手海上保安官の育成
◇海上保安庁の年代別構成
◇海上保安庁の年代別構成

若手海上保安官が増加する一方、これを育成するベテラン海上保安官が減少し、海上保安官全体の年齢構成のバランスが変化することから、若手海上保安官の育成体制の確保が非常に厳しい問題となっています。

他方、今後更に増加する若手海上保安官への対応として、初任教育に関する体制整備を実施しており、現場赴任後の育成についても、自ら学ぶ意識の涵養とともに、現場教育(職場学習)や研修による育成支援策の改善など人材育成への取り組みを組織一丸となって進めています。


若手海上保安官への教育の取り組み
若手海上保安官への教育

海上保安庁では、若手海上保安官の能力向上のため、船務や業務ごとに講習会や競技会を開催するなどの様々な取組みを行っています。

右の写真は、若手海上保安官自らの知識の習熟度を知るため、テスト形式でその確認を行っている様子です。確認範囲は警備・刑事業務、経理業務、情報セキュリティに関する業務など非常に幅広いものですが、様々な職務に対応するためには、知識・技能の更なる修得が不可欠であり、得手不得手の分野を知ることが大変重要です。これにより、馴染みの深い業務の偏った知識だけでなく、幅広い知識を備えた海上保安官を育成しています。

再任用された海上保安官の活躍
再任用された海上保安官

海上保安庁は、定年退職後に再任用された海上保安官による若手海上保安官への技術伝承を積極的に行っています。

右の写真は、再任用された海上保安官が、機関科の若手に対してエンジンの整備作業を身をもって教えているものです。ここで行っている作業は、エンジンを開放して行う特殊なもので、通常の点検・整備では行うことができないことから、若手海上保安官にとって非常に貴重な経験となります。

指導内容は、整備手法といった技術面だけでなく、機関科作業の基本的な注意事項や確認事項といった機関科としての心構えまでも含まれており、ベテラン海上保安官は、知識・技術だけでなく、精神に至るまで持っているもの全てを若手海上保安官に日々伝承しています。

2. 国際課題に対応する人材の育成

近年のグローバル化の進展に伴い、海上で発生する犯罪も、海賊やテロに見られるように一国のみでの対応が困難な状況にあります。また、海難救助、海洋環境保全、航行安全等の業務を見ても、各国海上保安機関が連携して対応すべき事例が多くなっています。

これらに適切に対応するためには、我が国の国内法はもとより、各国の海上保安に関する制度に精通し、各国共通の理解のもと、課題に対応できる環境を作っていく必要があります。このような国際的課題の解決にふさわしい高度な提案・調整を行うことのできる海上保安官の育成が求められており、今後、海上保安庁における教育を更に高度化していく必要があります。

具体的には、国際的な課題に対して、各国の諸制度や国際法などの海上保安に関する高度な実務的・応用的知識、課題解決に向けた分析・提案能力に加えて、各国との調整の基本となる国際コミュニケーション能力を有する海上保安官を育成することとしています。

海上保安大学校学生の国際法模擬裁判への参加
海上保安大学校学生による国際模擬裁判への参加
海上保安大学校学生による国際模擬裁判への参加

将来の海上保安庁の幹部職員となる海上保安大学校の学生が、国際法学生交流会議が主催する国際法模擬裁判(第24回ジャパンカップ)に参加しました。

国際法模擬裁判とは、架空の国家間の係争事案を題材に、参加チームがそれぞれ原告、被告に扮し、国連の国際司法裁判所を模した法廷で弁論を行い、国際法の解釈・適用と弁論能力を競う大会で、参加学生は申述書と口頭弁論の二つの局面で得点を競います。

国際人権・人道法の専門家が、裁判官として両チームを審査し、学生は口頭弁論における裁判官からの質問に的確に答えなくてはならないので、入念な事前準備と思考をまとめて、即座に表現する力が必要とされます。

このような大会に参加し、ディベート能力や国際法に関する知識等を習得することで、将来国際的な課題に的確に対応できる素養を涵養しています。

外国機関に対する協力

貿易の大半を海上輸送に依存する我が国にとって、海上の船舶航行の安全を確保することは非常に重要です。しかし、重要な海上交通路であるマラッカ・シンガポール海峡や海賊事案の多いソマリア周辺海域などでは、関係沿岸国の海上保安能力が十分でなく、依然として航行の安全が十分に確保できていないのが実状です。そこで、海上保安庁では、各分野における専門家を各国に派遣したり、各国海上保安機関の職員を我が国へ招聘し、専門の知識・技術の供与を行い、各国の法執行能力や救助能力をはじめとする海上保安能力の向上に取り組んでいます。

このように、海上保安庁が行う人材育成は、我が国の海上保安官だけでなく、他国の海上保安機関の職員も対象としています。海を守るという同じ志を持った仲間をこれからも増やし、各国海上保安機関と力を合わせて世界の海の安全確保に貢献していきます。


マレーシア海上保安機関に対する潜水技術の指導 フィリピン海上保安機関に対する制圧術指導
マレーシア海上保安機関に対する潜水技術の指導 フィリピン海上保安機関に対する制圧術指導

海上保安庁は、人材(海上保安官)を国の人財と成すべく、今後とも人材育成に力を入れていきます。