海上保安レポート 2014

はじめに


TOPICS 海上保安の一年


特集 海上保安庁の精神 正義仁愛


海上保安庁の任務・体制


■本編

1 治安の確保

2 生命を救う

3 青い海を守る

4 災害に備える

5 海を知る

6 交通の安全を守る

7 海をつなぐ


目指せ! 海上保安官


語句説明・索引


図表索引


資料編

3 青い海を守る > CHAPTER II 海洋環境保全対策
3 青い海を守る
CHAPTER II 海洋環境保全対策

海上保安庁では、海上環境関係法令違反の監視・取締り、海洋環境の調査等に加え、国民の皆様への指導・啓発活動等を実施するなど、海洋環境を保全するための総合的な取組みを実施しています。

平成25年の現況
■1 海上環境関係法令違反の監視・取締り
海上環境関係法令違反の現況
船名が塗りつぶされ投棄された廃船
船名が塗りつぶされ投棄された廃船

海上保安庁では、海洋汚染につながる油の不法排出、廃棄物の不法投棄等の海上環境関係法令違反に対しては、巡視船艇・航空機による海・空からの監視・取締りに加えて、海・空からの監視の目の届きにくい沿岸部では陸上からの監視・取締りを実施しています。

平成25年に海上保安庁が摘発した海上環境関係法令違反の送致件数は661件であり、前年と比較して99件増加しました。違反の種類別に見ると、船舶からの油の不法排出や、廃棄物、廃船の不法投棄が多くなっています。

これらの違反は、適正な処理費用や設備の整備費用の投資を惜しんでの行為であることが多く、その形態も、夜陰に紛れた不法排出や不法投棄、船名や船体番号を隠した上での廃船の投棄等、悪質・巧妙なケースが見受けられます。

平成25年には、不要になった廃船を不法投棄するため、船体に穴を開け、沈没させることを画策し、また、万一船体が発見されたとしても、船名等が判明しないよう黒色塗料で塗り潰す等隠蔽工作を行った、極めて悪質な廃船投棄事件がありました。


◆海上環境関係法令違反送致件数の推移
◆海上環境関係法令違反送致件数の推移

外国船舶による海洋汚染の状況

平成25年に海上保安庁が我が国周辺海域で確認した外国船舶による汚染件数は21件(前年同数)で、中でも油による汚染が19件と最も多くなっています。海域別に見ると、我が国領海内が17件、領海外(排他的経済水域(EEZ)又は公海)が2件でした。外国船舶による海洋汚染の取締りでは、国連海洋法条約に基づき、船舶の航行の利益を考慮した担保金制度が適用されるほか、公海で外国船舶による海洋汚染を確認した場合等は、その船舶の旗国に対して違反事実の通報を行い、適切な措置を求めています。平成25年の担保金制度の適用件数は13件でした。


■2 海洋環境調査
海洋汚染の調査

海上保安庁では、海洋汚染の状況を正確に把握するため、閉鎖性の高い港湾等において、測量船により定期的に海水や海底堆積物を採取し、油分、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、重金属等の調査を行っています。


海洋汚染の調査
海洋汚染の調査

放射能調査

旧ソ連・ロシアによる日本海・オホーツク海への放射性廃棄物の海洋投棄や過去に行われた核実験等による海洋環境への影響を把握するため、日本近海で、海水や海底堆積物を採取し、人工放射性物質の調査を実施しています。また、原子力艦放射能調査指針大綱・実施要領に基づき、原子力艦が寄港する横須賀港(神奈川県)、佐世保港(長崎県)、金武中城港(沖縄県)では、周辺住民の安全・安心を確保するため、海水や海底土を採取し、定期的に放射能調査を行うとともに、原子力艦の入港前、寄港時、出港後の放射能調査を行っています。さらに、平成23年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故に対応する総合モニタリング計画(モニタリング調整会議)に基づいた放射能調査も行っています。

未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール

海上保安庁では、未来を担う子どもたちを主な対象として、様々な海洋環境保全についての思想普及活動を行っています。その活動の一環として、毎年、全国の小・中学生を対象とした「未来に残そう青い海・海上保安庁図画コンクール」を実施しています。

平成25年は、全国から30,774点もの作品応募があり、それぞれの部で海上保安庁長官賞に選ばれた作品はこの3点です。


小学生低学年の部 鹿児島県 奄美市立 朝日小学校 松山 佳真さんの作品
小学生低学年の部
鹿児島県 奄美市立 朝日小学校
松山 佳真さんの作品
小学生高学年の部 沖縄県 石垣市立 平真小学校 辻川 美羽さんの作品
小学生高学年の部
沖縄県 石垣市立 平真小学校
辻川 美羽さんの作品
中学生の部 沖縄県 那覇市立 石嶺中学校 親富祖 日向子さんの作品
中学生の部
沖縄県 那覇市立 石嶺中学校
親富祖 日向子さんの作品
 
■3 海洋環境保全のための指導・啓発
指導・啓発活動の様子
指導・啓発活動の様子

海洋汚染の大半が故意や取扱不注意等による人為的な要因により発生していることから、海洋汚染を防止し、海洋環境を保全するためには、国民の皆様の意識を高めていただくことが重要です。そのため、海上保安庁では、ボランティアや地方公共団体等とも連携し、全国各地で海洋環境保全に関する指導・啓発活動を実施しています。特に、毎年6月は「未来に残そう青い海」をスローガンに掲げた「海洋環境保全推進月間」を全国で展開し、海事・漁業関係者、マリンレジャー等を行う方々を対象とした海洋環境保全講習会や訪船指導、一般市民の方々を対象とした海洋環境保全教室の開催等を重点的に実施しています。


◆主な海洋環境保全活動の実施状況(平成25年)
◆主な海洋環境保全活動の実施状況(平成25年)

■4 全国海の再生プロジェクト

海洋環境の保全・再生のためには、海上保安庁が単独で実施する取組みだけではなく、関係機関が効果的に連携した取組みを推進することが重要です。このような取組みの一つとして、海上保安庁は「全国海の再生プロジェクト」に参画しています。「全国海の再生プロジェクト」では、東京湾、大阪湾、伊勢湾、広島湾を対象として、国、自治体、大学・研究機関、民間企業が連携して、海域の環境改善対策、環境モニタリング等の各種施策を推進しています。

海上保安庁では、東京湾の千葉灯標でモニタリングポストを運用し、各海域で測量船による水質、流速等の観測を実施しているほか、人工衛星を利用した赤潮等の常時観測を実施しています。

また、「東京湾再生プロジェクト」では、関係省庁や地方自治体からなる東京湾再生推進会議で、『快適に水遊びができ、「江戸前」をはじめ多くの生物が生息する、親しみやすく美しい「海」を取り戻し、首都圏にふさわしい「東京湾」を創出する。』ことを目標として、平成25年5月に、今後10年間の「東京湾再生のための行動計画(第二期)」を策定しました。


◆海の再生プロジェクトの概念図
◆海の再生プロジェクトの概念図
今後の取組み

海上保安庁では、海洋環境調査を通じ、海洋汚染の現況を的確に把握するとともに、海上環境関係法令違反に対しては、厳正な監視・取締りを実施します。また、国民の皆様に対する指導・啓発活動を推進し、法令遵守意識の高揚を図ります。さらに、関係機関等との連携により、海洋環境保全のための取組みをより効果的に推進していきます。

世界の青い海を守る!〜フィリピンでの流出油災害に海上保安官を派遣〜
オイルフェンス展張方法の指導
オイルフェンス展張方法の指導

日本政府に対するフィリピン政府からの要請に基づき、台風30号の影響により発生した流出油災害に対応するため、海上保安庁は、機動防除隊員を含む職員4人を国際緊急援助隊専門家チームのメンバーとしてフィリピンに派遣しました。

フィリピンのパナイ島東岸では、平成25年11月に発生した台風30号の影響により、国営電力会社が管理する発電施設として利用されていた船が座礁し、燃料タンクから約850kl(ドラム缶約4,250本相当)の重油が海域へ流出しました。現地では、環境被害や漁業被害を防ぐため、一刻も早く油の防除を行わなければならない状況の中、原因者である国営会社が契約した業者とフィリピン沿岸警備隊(PCG)が防除作業を実施していましたが、台風による甚大な被害が発生して電気、水道等のライフラインが復旧せず、また、座礁した船の周辺に有毒なガスが発生しているとして油回収作業の一部が制限されるなど、思うように防除作業が進んでいませんでした。

このため、派遣された専門家チームは、現場にて有毒ガスの検知、作業の進捗状況、PCGの船艇・航空機を利用した油流出状況などの調査を実施することにより、防除作業を評価し、PCG職員・現地作業員に対して適切な油防除作業手順、油回収資機材の使用方法、現場の安全管理等について指導・助言等を行いました。その結果、PCG職員による適切な監督の下、さらなる海域への油の流出を防ぐとともに、現地の防除作業が適切に実施される体制が構築されるなど、状況の改善に貢献しました。

今回の派遣に対しては、専門家チームの迅速な現地入りと的確な指導・助言等について、PCGをはじめとしたフィリピンの各方面から感謝の声が寄せられました。